66、合流
「ソフィア!結界を張って、少し時間を稼いでくれ!」
魔導具から、エルドリンの声が響いた。
「――エルドリン!」
ソフィアが応答する。
その声に、彼女の震える呼吸と、冷気を切り裂く覚悟の色が混じっていた。
「今そちらに向かっている。ソレンディルも一緒だ。
ガルム、アシュリー、ナイトで敵を抑えてくれ。
ソフィア、彼らが交戦している間、結界で皆を守ってほしい。
もうすぐ着く。援軍も向かっている!」
「了解。聞こえた? ガルム、アシュリー!」
「おうよ!」
ガルムが豪快に応え、バスターソードを正中に構えた。
「行くぞ、アシュリー!」
「行きます!」
二人が同時に駆け出す。
雪を踏み砕く音が戦場の静寂を裂いた。
ナイトが吠えながら、敵――アイアン・トゥースの背後を取るべく疾走する。
巨体のアイアン・トゥースが唸り声を上げ、棍棒を振り抜いた。
その軌道を見切り、ガルムは真正面からバスターソードを振り下ろす。
敵はガルムの剣を手ではたいて受けようとするが、ガルムの剣速の方が早かった。
分厚い腕を斬り裂き、血飛沫飛び散る。
「浅いか!」
ガルムは歯を食いしばり、地を蹴る。
縮地の踏み込みで、右肩からタックルを叩き込む。
巨体が揺らぐ。
「今だ!」
アシュリーがすかさず踏み込み、クレイモアを振り抜いた。
刃が敵の左脚を裂き、肉を割る。だが骨までは届かない。
「やるじゃねぇか!」
敵が吠える。怒声とともに棍棒を振り上げるが、ガルムはさらに踏み込んだ。
「おらァッ!」
バスターソードが袈裟に閃く。
鋼の巨体を切り裂き、黒い血が噴き上がった。
「グゥゥォォォォ……!」
獣じみた咆哮が戦場を震わせる。
その瞬間、ナイトが敵の背後に飛びかかり、鋭い爪で背を裂いた。
オークの黒皮膚が剥がれ、腐臭が立ち上る。
ソフィアはその光景を見つめ、右手を強く握った。
――まだ、終わらせるわけにはいかない。
数では劣り、アイアン・トゥースの登場で戦況は不利。
それでも、仲間は倒れない。
エルドリンとソレンディルが来るまで――自分が、皆を守らなければ。
ソフィアは膝をつき、両手を胸の前で交差させた。
彼女の髪が風に舞う。
冷たい風が頬をなぞるたびに、恐怖が消えていく。
「……ここを守る。誰一人、死なせない……」
両手を高く掲げ、再度聖印を描いた。
白い息が空に溶け、次の瞬間――
「《聖域結界》――!!」
黄金の光が地を満たし、巨大な魔法陣が展開する。
その光は雪を反射してきらめき、氷の世界を昼のように照らした。
仲間たちの傷が癒え、寒さと恐怖を包み込む温もりが生まれる。
「ソフィア……!」
ガルムが振り返り、彼女の名を呼んだ。
アシュリーも息を呑む。
光の結界が完成した瞬間、戦場に静寂が訪れた。
氷雪の原野に、まばゆい光の柱が立ち昇る。
その中心で、ソフィアの瞳は確かに輝いていた――覚醒の光を宿して。
エルドリンは風の精霊に身を包み、雪雲を裂いて空を駆けていた。
その視界の先に――まばゆい光の柱が、天へと昇るのが見えた。
「ソレンディル、あそこだ!」
彼の指さす方角で、黄金の輝きが大地を照らしていた。
まるで夜明けのような光――ソフィアの結界だ。
風が鳴り、二人の身体が流星のごとく降下する。
――シュバン!
音すら追いつかぬ速さで、巨体オークの首が宙を舞った。
吹き荒れる雪煙が光を反射し、戦場を虹のように染め上げる。
その煌めきの中で、ソフィアは息を呑んだ。
光を背に、片刃の刀を構えたエルドリンの姿が現れる。
「……エルドリン!」
叫ぶ間もなく、彼は地を蹴った。
瞬間、姿がぶれた――幻影が生まれる。
縮地による残像が戦場を駆け、十を超えるオークが悲鳴を上げる暇もなく切り捨てられていった。
剣閃が雪を裂き、血飛沫が紅蓮の花のように舞う。
――ボガァンッ!!
雷鳴のような轟音とともに、巨大な炎の壁が立ち上がった。
オークの行軍が遮られ、熱風が吹き抜ける。
「ソフィア、よく耐えたね。」
炎の光の向こうに、ソレンディルの姿があった。
彼は穏やかな笑みを浮かべ、ソフィアの隣に歩み寄る。
「ソレンディル!」
ソフィアの瞳に涙があふれる。
ソレンディルはその頭に手を置き、静かに微笑んだ。
「もう大丈夫。少し休んで。――ここからは、任せていいからね。」
その言葉と同時に、彼女の魔力が一気に膨れ上がる。
「《アイスランス》!」
氷の槍が炎の壁を越えて飛翔し、前線のオークを貫く。
数十体が同時に倒れた。
ソレンディルは間髪を入れずに次弾を展開し、空中から連続で氷槍を撃ち出す。
光と氷が交差し、戦場は凍てつく嵐と化した。
一方、エルドリンはなおも前線で戦っていた。
棍棒が彼の肩を叩きつけ、雪が舞い上がる。
だが――倒れない。
エルドリンの刃が閃く。
棍棒を握る腕を切り落とし、流れるような動作で首を跳ねた。
別のオークが突進してくるが、彼は真正面からぶつかり、腹部を突きで貫いた。
鎧の隙間を通して刃が背へ突き抜け、返り血が彼の鎧を真紅に染める。
「おらァッ!!」
ガルムの怒号が響いた。
巨漢が振るうバスターソードがアイアン・トゥースの兜を叩き割り、頭蓋ごと砕く。
「グガァァ……!」
巨体がゆっくりと崩れ落ちる。
アシュリーは倒れた敵を確認するや否や、素早く踵を返した。
「まだ終わってない!」
叫びながら後列のオークの群れに飛び込み、クレイモアを振る。
刃が三度閃き、敵の首が次々に地へ落ちる。
雪煙、血飛沫、光と炎――
戦場は、もはや凍てついた地獄のようだった。




