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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
59/91

59、激突!

こんにちは皆様、3000PVを超えて、読者が1600人を超えました。楽しんでいただけてると良いなと、思っております。この小説を書き始めたのは、自分で読んで面白いと感じる作品を書きたい。そう思った次第です。キャラクターの成長と共に自分も成長しているのだと実感しています。サンダーボルト作戦が始まりました。魔獣グリフォンとの手に汗握る戦いをお楽しみ下さい。


翌朝八時。

フォルンハイム北門前の広場は、冷たい空気と兵の吐息で白く曇っていた。

赤備えの鎧をまとった《ファイヤクラフティ》の隊列が、すでに整然と並んでいる。

重厚な鉄の音と、軍旗の翻る低い響きが、ただならぬ遠征の空気を醸し出していた。


その中で、バルグは既に到着し、腕を組みながら門前を睨みつけるように佇んでいた。

やがてエルドリン一行とイリスの姿が見え、人々の視線が集まる。


「お前に前衛を頼むようになるとはな、ガルム。」

バルグが不敵に笑い、声をかける。


「おうよ、俺は常に進化してるんだ。前衛は任せろ。」

胸を張るガルム。その力強さに周囲の兵士達は安心したように頷いた。


そこへ、白銀の髪を後ろで束ね、長い深紅の軍服風のコートを羽織った男が歩み寄ってくる。

背は高く、筋肉質の体格、そして鋭い猛禽のような眼差しを持つ男。

彼は堂々とエルドリンの前に立った。


「改めてご挨拶させていただきたい、エルドリン殿。」


その声に振り返ったエルドリンは一瞬言葉を探し、礼を尽くして答える。

「失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。」


男はわずかに口角を上げた。

「これは申し訳ない。あなたの威名を耳にしていたゆえ、つい知己のように振る舞ってしまいました。

 私はクラン《ファイヤクラフティ》のクランマスター、ヴァレン・ドラコス。

 今回は遊撃隊にて貴殿とご一緒します。」


その眼光は、まるで獲物を観察する猛獣のものだった。エルドリンも一歩も退かずに応じる。

「それはご丁寧に。私は"アンブレイク・ハート"のエルドリン・ファルコンと申します。

 以後、よろしくお願いします。」


鋼のような握手が交わされ、二人の間に見えぬ火花が散ったかのようだった。


その様子を、少し離れた場所でイリスはじっと見ていた。

《ファイヤクラフティ》のクランマスターの雄々しい姿。そして、彼にすら注目されるエルドリン。

その光景に胸の奥で小さな畏怖を覚えた。


「イリス~そんなにエルドリンを見て、さては惚れたな?」

横から茶々を入れるのはソレンディル。


「な、何を言うのソレンディル。私は別に……」

「別にぃ~?」と意地悪く笑うソレンディル。

「な、何でもないわよ!」

イリスは眉をひそめ、視線を逸らすが、耳の先がほんのり紅潮しているのをソレンディルは見逃さなかった。


その横で、アシュリーが小声で言う。

「あれが《ファイヤクラフティ》のクランマスター、ヴァレン。すごい圧力を感じますね。」

エルドリンは頷き、低く答える。

「そうだね……あれが歴戦の猛者を束ねる者のオーラだと思うよ。」

「エルドリンは注目されているんですね。」

「私は彼等に試されている。そう思うよ。」

「そんなもんですかね……」

アシュリーは眉を寄せ、エルドリンの言葉を心に留めた。


――やがて十時。点呼が始まる。

今回の討伐遠征は総勢三百名を超え、大隊規模となった。食料と物資の補給は《ファイヤクラフティ》の灰槌隊が担う。点呼が終わると部隊は前衛、弓隊、遊撃隊、後方支援に分かれ、ゆっくりと北の山岳地帯へ行軍を開始する。


魔獣グリフォン討伐――“サンダーボルト作戦”が幕を開けた。

兵士たちの表情は硬く、緊張が肌を刺すように伝わってくる。

犠牲者がどれほど出るか、誰も予測できない。


行軍の最中、エルドリンはアシュリーに確認するように口を開く。

「グリフォンの特徴を復習しておこう。」

アシュリーは真剣に答えた。

・鷲の上半身と獅子の下半身で、空と地を同時に制圧する。

・天空と地上からの同時攻撃を得意とし、逃げ場を与えない。

・獲物を嬲り、苦痛を与えてから止めを刺す習性を持つ。

・恐怖で獲物を弱らせる「遊戯的狩猟」を好む。

・鉤爪は巨岩をも砕き、全身鎧ですら両断できる。

・戦術を理解し、逆手に取るほどの知性を持つ。


「恐ろしい敵ですね……」

「そうだ。巨体での体当たりも致命的だ。」

エルドリンはアシュリーの肩に手を置き、静かに告げた。

「フルプレートで臨め。ヴェリタス・ストーン製の魔法鎧なら、奴らの爪や嘴にも耐えられるはずだ。」

「……わかりました。」

アシュリーは大きく頷き、心を決めた。


やがて夕刻。野営地にテントが立ち並び、兵達は焚き火を囲み、湯気を立てるスープと硬い黒パンを手にした。各部隊ごとに張られた大きな食堂用テントの中は、食器の触れ合う音と人々のざわめきで賑わう。


「ここ、いいかしら?」

声をかけてきたのはイリス。深紅のマントを肩から掛け、剣を腰に下げたまま、少し気恥ずかしそうにエルドリンの隣を指した。


「よろしければ、どうぞ。」

エルドリンが頷くと、イリスは静かに腰を下ろした。


しばしの沈黙の後、イリスは口を開く。

「アルカディア王国のグレートレイブ湖のレイド……あれほどの規模の戦いを生き抜いたと聞きました。亡国のネクロマンサー、マルセル・デルースとも対峙したのでしょう?」

「ええ。不死の軍団を率いていました。だが仲間と共に退けました。」


エルドリンは次々と過去の戦いを語った。廃墟の街での死闘。商都ラーデンでの、エテルナ・グレイシャーでの神々の残滓との邂逅。そして、自らもエーテリウムの残滓を宿し、無詠唱で魔法を扱えること。


「……神々の残滓。夢物語だと思っていたものが、今、目の前にあるのですね。」

イリスは杯を持つ手をわずかに震わせ、低く呟いた。


「奇跡と呼ばれる無詠唱の魔術は、彼らにとって呼吸のように自然だったのかもしれません。

 詠唱や術式が不要だったのは、神代の名残……。

 種族が増え、魂の残滓が薄れていくにつれて、無詠唱は失われていったのではないか。

 私はそう考えています。」


エルドリンの声は穏やかで、それでいて揺るぎなかった。


イリスはじっと彼を見つめた。最初は畏怖と警戒心ばかりだった。しかし今は違う。語られる言葉に理があり、その瞳には人の誇りと律が宿っているのを見て取れた。


「……あなたは、不思議な方ですね。伝承を体現しながらも、驕らない。」

「人は弱い。だからこそ、己を律する必要があるのです。」


イリスは杯を口に運び、そっと笑みを漏らした。

彼女の心に、警戒心の隙間から、小さな温かな光が差し込むのを感じていた。


――その夜、焚き火の炎が夜空を赤く染め、兵達のざわめきが静まるころ。

イリスの胸中には、新たな感情の芽が、確かに芽吹いていた。



翌朝八時。

大隊は、寒気と緊張を帯びた空気の中を行軍していた。イリスはエルドリンとアシュリーの傍らを歩み、剣の柄に手を置いたまま、険しい山道を進んでいく。


――そして夕刻。

山岳地帯の切り立った岩壁へと差しかかった時だった。


前衛を進んでいた《赤鉄の壁》の兵が唐突に立ち止まり、空を仰ぐ。

「――来るぞッ!」

緊張を裂くような鋭い声が響く。


直後、空を裂く咆哮。

濃い影が陽を遮り、巨大な翼が旋回して降下してくる。

五頭のグリフォン――黄金の鷲の瞳が獲物を射抜き、獅子の前肢は岩を砕かんばかりに大地を蹴りつける。


「弓兵、構えッ!」

バルグの怒号が飛ぶ。


後列の弓兵たちが一斉に矢を番え、二列目から天へと射掛ける。

黒い矢雨が唸りを上げて突き進むが、グリフォンは俊敏に身を翻し、数本の矢を受けながらも速度を落とさない。


「前衛、盾を構えろ! 衝撃に備えよ!」

《赤鉄の壁》の隊長グロムが叫ぶ。兵たちは巨大な盾を地に突き立て、重厚な壁を築く。その列にガルムも並び、全身を鎧で固めて盾を支えた。


――直後。

雷鳴のごとき勢いで突進した一頭が、盾列ごと押し潰そうと激突する。

金属が悲鳴をあげ、大地が震える。だが兵たちは歯を食いしばり、盾を死守した。

「ふんばれよ!」

ガルムが周囲に発破をかける。


「詠唱開始――!」

後列の魔導支援隊が一斉に杖を掲げる。


「《フレイム・バースト》!」

「《ファイヤ・ボール》!」


轟音と共に火柱が天を焦がし、二頭の翼を焼く。

だが、炎を振り払い、焦げた羽根を散らしながらもなお突進するその姿――それがグリフォンという魔獣の常識を超えた脅威だった。


「遊撃、展開だ!」

バルグの指示が飛ぶ。《焔牙の衆》と冒険者たちが左右に散開し、獣の突進を受け止めにかかる。


その中で、エルドリンがいち早く剣を抜いた。

「アシュリー、右を頼む!」

「了解!」

「イリヤ、左を頼む!」

「了解!」


アシュリーは縮地で疾走し、前肢の鉤爪を紙一重でかわすと、クレイモアを閃かせた。

重厚な斬撃が鎧羽を叩き、火花と羽根が散る。連撃の速さは目を奪い、一頭を後退させる。


イリヤは冷静に槍を構え、巨体の横腹を狙って鋭く突き込む。

「ッ――!」

獣の咆哮と共に血飛沫が舞い、巨体が軌道を逸らした。


正面から、エルドリンが股下へ滑り込み、雷光を纏わせた剣を一閃。

「――はああッ!」

青白い刃が下腹を裂き、獣が苦悶の声を上げてのけぞる。


その時、上空から二頭が仲間を援護すべく急降下してきた。


「魔導支援隊、迎撃!」

《蒼炎の環》の魔導師たちが一斉に魔力を放つ。


氷槍が羽根を貫き、雷光が巨体を痙攣させた。

だが、それでも止まらない。


燃え、裂かれ、血を流しながらも、獅子の顎は兵士の喉笛を狙い、鷲の爪は鋼鉄の盾を砕こうと振り下ろされる。


「――後列退避! 遊撃で引き剥がせ!」

バルグの怒声が戦場を震わせた。


その後方で、ソレンディルは目を細めて観察していた。

「……弱点は、必ずある。最大の効果を与える一撃を探すんだ……」


地鳴りのような咆哮。

火花と血飛沫が戦場を彩り、人と魔獣の初の総力戦が――熾烈な幕開けを迎えた。


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