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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
56/91

56、帰還


ガルム、ソレンディル、アシュリーの三人は、エルドリンに促されて転移魔法で麓の村グルジアへと移動した。


村人たちは無事に戻った三人を温かく迎え入れた。村長は彼らの話を聞き、山に棲むフロスト・ジャイアントの存在や、失踪した冒険者たちがまだ生存していること、そしてエルドリンがその解放のために挑んでいる試練について理解すると、深く頷いた。


「ここで休むがよい」

そう言って村長は一軒の大きな空き家へ案内し、薪や食料を分け与えてくれた。三人はその場所で、エルドリンの帰還を待つことに決めた。


焚き火の温もりに包まれた夜、ソレンディルがふいに口を開いた。

「エルドリンが古代語を読めるなら、エルメリオン王国の研究者たちに報告すべきだわ。彼らは古代語の解明を進めている。今回の件が研究を大きく前進させるはず。」


その声には、仲間を思いつつも学者としての探求心がにじんでいた。

「今から王国へ行って、この件を伝えてくるわ。旅の目的地、ミスティクレスト公国の“遺跡の街”ルーイネンシュタットでも何か新たな発見があるかもしれない。神の残滓と対話できる人間がいるなんて……歴史の転換点よ。」


彼女の決意を前に、ガルムは短く頷いた。

「どうせエルドリンが帰って来るまで足止めだ。行ってこい。俺はここでアシュリーに稽古をつけながら待っている。」


「ありがとう、ガルム。」

ソレンディルは安堵の笑みを浮かべ、魔力を込めてポータルを開いた。白い光に包まれ、彼女はエルメリオン王国へと消えていった。


「よし、アシュリー。体を動かすぞ。」

ガルムの声に、アシュリーはうなずき、二人は夜の冷気の中へと出て稽古を始めた。



――その頃、エルドリンは氷の牢から解放した冒険者三パーティー十二人に食事を与え、体力の回復を見守っていた。


「皆さん、不調やつらい症状はありませんか?」

そう確認すると、冒険者たちは装備を整え、力強く立ち上がった。問題なさそうだ。


エルドリンは静かに手を掲げ、ゲートを開いた。

「それでは、麓の村グルジアへ。準備ができた方から通り抜けてください。」


光の門を前に、冒険者たちは次々と歩みを進める。ひとり、またひとりと姿を消していき、最後の一人が通過したのを確認してから、エルドリン自身もゲートをくぐった。


突如として村に現れた冒険者たちに村人は驚き、すぐに村長を呼びに走った。別の者は急ぎ足でガルムとアシュリーのもとへ向かい、吉報を伝えた。


村の広場で、エルドリンは仲間の帰還を待つガルムとアシュリーの姿を見つける。その胸にはなお、アザゼルの言葉が残響していた。



――エーテリウムは神の残滓。だが「閉ざされた古代の記憶」「大地の真実」とは何を意味するのか。

ローラン・アイアンクラウンの記憶にも残っていない謎が、新たに心へと刻まれていた。



「おーい!」

吹きすさぶ風を切って、ガルムとアシュリーが手を振りながら駆け寄ってくる。その姿を見た瞬間、冷たく凍える大地の上にも、確かな温もりが満ちていくように思えた。


ルムとアシュリーが広場へ駆け込んで来ると、エルドリンは笑みを浮かべて二人を迎えた。

「無事だったか!」

力強く肩を叩くガルムの目には安堵が滲んでいた。


「心配しました……本当に……」

アシュリーの声は震えていたが、その瞳には涙と笑顔が混じり合っていた。エルドリンは彼の頭に手を置き、穏やかな声で答えた。

「言っただろう、必ず戻ると。」


冒険者たちは村人たちに囲まれ、再会を喜ぶ声があちこちから上がっていた。安堵と歓喜の波が村全体を包み、焚き火の炎が夜を照らす中で、人々の笑顔はまるで氷雪を溶かす光のようであった。



その輪の少し外で、エルドリンは静かに考えを巡らせていた。

――アザゼルの誓い。

――ヨトゥングリムとの約定。

そして「門」と呼ばれたエーテリウムの真実。


胸奥で鼓動する不思議な力は、ますます存在を強めている。


「エルドリン、どうした?」

ガルムが気付き、隣に立つ。

「考え込む顔じゃねえ。今は生きて帰れたことを祝え。」


「そうですよ。みんなあなたの無事を喜んでいます。」

アシュリーも加わり、柔らかな笑みを見せた。


エルドリンは二人を見つめ、そして頷いた。

「……そうですね。」


その夜、村長の厚意で宴が催された。

肉と野菜の煮込み、焼き立ての黒パン、雪解け水で仕込んだ酒がふるまわれ、冒険者も村人も入り混じって語らい、歌い、笑い合った。


焚き火の向こうで、アシュリーが弦楽器を奏で、子どもたちが手を取り合って踊り出す。ガルムは豪快に酒を煽り、仲間たちと拳を合わせる。

エルドリンはその光景を見つめながら、胸の奥で静かに誓った。


――必ず、この旅の果てに眠る真実を掴み取る。


やがて宴も終わり、夜が更ける。

雪原を照らす月明かりの下、エルドリンは一人、村の外れに立っていた。


そのとき、不意に冷たい風が吹き、微かな声が響いた。

「……忘れるな。汝は門を宿す者。」


黄金の光が、ほんの一瞬だけ彼の胸奥で揺らめいた。

アザゼルは、自分の行いを見守っている。


エルドリンは深く息を吸い、月へと視線を上げる。


――旅の目的地は、ミスティクレスト公国。

遺跡の街ルーイネンシュタット。

そこにこそ、新たな答えが待つのかもしれない。


彼の旅路は、なお続いていく。



麓の村グルジアから数日後。

エルドリンは救出した冒険者たちを伴い、商都ラーデンの高い石壁をくぐった。

商人と旅人が入り乱れる喧噪の大通りを進む彼らに、人々の視線が注がれる。消息不明とされていた冒険者たちの帰還は、すぐに噂となり街を駆け抜けた。


領主コンラット・フォン・ラーデンの館に到着すると、衛兵たちは驚きと敬意を込めて門を開いた。磨き上げられた大理石の階段を上がり、大広間へ通されると、そこには豪奢な衣を纏った領主が玉座に腰かけていた。


「よくぞ戻った、エルドリン殿。そして諸君も……」

コンラットは立ち上がり、深く頷いた。


「すでに三度、冒険者を送り出しても誰一人帰らなかった。

 それが全員生還するとは……領地の主として、心より感謝する。」


冒険者たちは緊張しつつも、次々に感謝の言葉を述べる。

彼らの疲れた顔には、それでも生還の喜びが浮かんでいた。


そこへ扉が開き、ギルドマスターのグラントが大股で入って来た。

「エルドリン! よくやった!」

豪快に肩を掴み、彼の手を強く握った。

「あなたがいなければ、この仲間たちは今も氷の中だった。

 ギルドを代表して礼を言う。」


コンラットは家臣に合図し、黄金の杯と宝石を散りばめた小箱を差し出させた。

「これは領主としての報酬だ。金貨百枚と、我が家紋を刻んだ銀の指輪。

 ラーデンの友として迎えよう。」


エルドリンは恭しく頭を下げ、箱を受け取った。

「寛大なお心遣い、感謝いたします。しかし、私はまだ果たすべき使命の途上にあります。

 山の領域守護者であるフロスト・ジャイアントの長ヨトゥングリムの約束、聖なる領域を犯してはならない。神の残滓であるフロスト・ジャイアントとネフィリムのアザゼルは共生、共存する。

 我々が間違えを侵さなければ彼等は人に害を及ぼしません。それだけは守るようにして下さい。」


「その志こそ尊い。石碑を立てて後世にも伝えるようにしよう。」

コンラットは笑みを浮かべた。

「必要あらば、ラーデンは再び力を貸そう。」


一方その頃、ガルムとアシュリーは村グルジアに残り、ソレンディルの帰還を待っていた。

「……ま、あいつなら大丈夫だろう。」

ガルムは焚き火を囲みながら呟き、アシュリーは小さく頷いた。

「はい。でも、はやく三人揃って次の地へ進みたいです。」


夜空には満ちかけた月が昇り、静かな光で二人を照らしていた。


――商都ラーデンでは、エルドリンの名が静かに広がり始めていた。

勇敢にして誠実なる冒険者として。



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