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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
52/91

52、森を抜ける


暗殺ギルドの小隊に襲われてから、すでに一刻が過ぎていた。

血の匂いはまだ森に漂い、仲間たちの表情には緊張感を保っていた。


ソレンディルは静かに杖を掲げ、索敵魔法を発動した。

薄い光の波紋が森に広がり、彼の瞳に周囲の気配が映し出される。


「……魔獣の反応はあるけど、人間の集団は見えない。もう追手はいないようね。」


安堵と同時に緊張を解かず、エルドリンは仲間に声をかける。

「索敵で安全を確認しながら、このまま進みます。」


森の奥へ進むと、ソレンディルの眉がわずかに動いた。


「……魔獣の集団がいる。多分グライムファングの群れだと思う。こちらが風下にいるから、まだ気付いていない。」


その言葉に全員の表情が引き締まる。

グライムファング――灰色の獣毛に包まれた狂犬の魔獣。

群れで動き、牙は鉄をも噛み砕くとされる危険な存在だ。

彼等は集団で狩りをする。


「では、陣形を組む。」

エルドリンはすぐに指示を飛ばした。


「ガルム、盾で正面から攻撃を受けて下さい!

 ソレンディルはガルムの背後から魔法支援をお願いします。

 後方は私とアシュリーで固めます。


 アシュリーはクレイモアで牽制、私はハルバードで間合いを取って迎撃します。」


「任せろ!」

ガルムが大盾を構える。


アシュリーも黙って頷き、巨大なクレイモアを背から引き両手で握った。


エルドリンは短く詠唱し、仲間たちに肉体強化魔法をかける。

脚に力が満ち、呼吸が軽くなる。


「いくぞ!」

ガルムの一喝を合図に、四人は森を駆け出した。


強化された身体は普段の数倍の速さで進み、木々の間を抜ける。

やがて、灰色の毛並みが視界に飛び込んできた。

十数匹のグライムファングが血走った目で辺りを伺い、低く唸りを上げている。


足音に気付いた魔獣たちが一斉に牙を剥いた。


「来るぞッ!」


次の瞬間、群れが森の闇を裂いて突進してきた。


低い唸り声と共に、十数匹のグライムファングが飛び掛かってきた。

まるで森そのものが牙を剥いたかのように、灰色の影が一斉に迫る。


「来いッ!」

ガルムは雄叫びを上げ、大盾を構えて最前線に立つ。

最初の一匹が飛びかかると、ガルムはその巨体をものともせず正面から受け止めた。

鋭い牙が盾に食い込み、火花が散る。


「おらぁッ!」

そのまま盾を押し返し、獣を地面に叩きつけると、振り上げたバスターソードが

唸りを上げて振り下ろされた。

轟音と共にグライムファングの身体が血飛沫を上げて吹き飛んだ。


「ガルム、左から三匹来るよ!」

ソレンディルが叫ぶと同時に、杖から放たれた雷光が閃いた。

稲妻の矢が獣の群れを貫き、焦げ臭い煙を立ち上らせる。

続けざまに氷槍を放ち、突進してきた二匹の脚を凍りつかせ動きを封じた。


「よし、今だ!」


エルドリンが前に出る。

彼の手にあるのは長大なハルバード。

刃先が、凍りついた獣の首を一閃で切り払った。

血飛沫と氷片が宙を舞う。


「こっちも忘れんな!」

アシュリーが地を蹴る。

彼の動きは軽やかで、突き出されたクレイモアはまるで槍のような鋭さ。

狙い澄ました一点突きで、飛び掛かってきたグライムファングの喉を穿つ。

獣が絶叫を上げ、地面に崩れ落ちた。


しかし数の勢いは衰えない。

背後から二匹が回り込み、アシュリーに迫る。


「アシュリー、後ろだ!」

エルドリンが叫び、間に飛び込む。

ハルバードを旋回させるように振り抜き、刃が二匹の胴を薙ぎ払った。

返す刃に雷光を走らせ、とどめを刺す。


「ありがとうございます!」

アシュリーは息を弾ませながらも、さらに前へ踏み出した。


戦いは熾烈を極める。

群れは次々と襲い掛かり、四人は互いの位置を保ちながら少しずつ敵を削っていく。


ガルムが正面を塞ぎ、ソレンディルが後方から魔法で圧力をかけ、

エルドリンとアシュリーがその隙を狙って鋭い一撃を加える。


やがて最後の一匹が吠えながら飛び掛かった。

その瞬間、エルドリンとアシュリーが同時に動いた。


「決めるぞ!」

「はいっ!」


エルドリンのハルバードが獣の突進を下から弾き上げ、宙へと舞わせる。

そこへアシュリーのクレイモアによる斬撃が疾風のごとく突き抜けた。


――グシャッ。


獣の身体が後方の木に叩きつけられ、動かなくなった。


静寂が森に戻る。

荒い息を吐きながら、四人は互いに目を合わせた。


「ふぅ……なんとか片付いたな。」

ガルムが盾を地面に突き立てて肩を回す。


「連携は悪くなかった。だが、暗殺者の襲撃の後でこれだ。まだ油断はできません。」

エルドリンの声音は鋭く、仲間を引き締める。


ソレンディルが索敵の魔法を再び放ち、周囲を確認した。

「……魔獣は散っていく。けど、人の気配はまだない。

 暗殺ギルドがこの機を逃すとも思えない。慎重に進もう。」


アシュリーは血に濡れた剣を拭き取りながら、きりっと前を見据えた。

「ええ、次は絶対に、先手を取ってみせます。」


森の奥はなお深い闇を孕み、何者かの気配を隠している。

だが彼らの歩みは止まらない。



森を抜けた小さな空き地。

すでに日は傾き、木々の隙間から差し込む夕陽が赤く大地を染めていた。


エルドリン一行は焚き火を囲み、それぞれの傷を確かめながら腰を下ろした。


「腹が減ったな。」

ガルムが背中をどっかりと木に預け、豪快に笑う。

その体の鎧には爪痕が刻まれているが、本人は気にもしていない。


「よくあんな群れを正面で受けきれましたね……」

アシュリーが水袋を渡すと、ガルムは豪快に飲み干した。

「俺の仕事は“壁”になることだからな。だが、お前の突き、見事だったぞ。」


アシュリーは顔を赤らめ、少し照れながらもうつむかずに頷いた。

「……ありがとうございます。」


ソレンディルは焚き火に手をかざし、ゆるやかに魔力を流し込む。

炎は穏やかに燃え広がり、温かな光で空き地を包み込んだ。

「魔獣に暗殺者、落ち着く暇もないね。だが、こうして火を囲むと……人はすぐに安堵してしまう。」


「安堵も必要です。」

エルドリンは短く返し、焚き火にかけた鍋をかき混ぜる。

宿屋で持たされた乾燥肉と野菜を煮込んで簡単なスープを作っていた。

「明日以降も戦いが続くだろう。今は食べて、体力を戻しましょう。」


鍋の中から立ち上る香りに、皆の表情が少しだけ和らぐ。


「……こういう時、帝都の食堂が恋しくなるな。」

ガルムがぼやくと、ソレンディルが笑みを漏らした。

「帝都の空気が陰湿すぎるって言っていたのは誰だっけ?」

「ぐぬぬ……」ガルムは頭をかき、アシュリーとエルドリンも小さく笑った。


やがて簡素な食事が終わると、それぞれが寝床を整える。

焚き火の火が揺れるたび、木々の影が地面に踊った。


エルドリンは最後まで立ち上がり、夜の森を見渡していた。

「……まだ気を抜くな。暗殺ギルドは確実に息を潜めている。」


仲間たちはうなずき、寝る前の最後の準備を整える。

剣を傍らに置き、魔力を温存し、背中を仲間に預け合う。


やがて夜風が吹き、星々が森の隙間から覗いた。


――戦いの余韻と、これから訪れる更なる嵐を胸に抱きながら、

彼らは一夜を過ごすことになるのだった。



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