48、思惑の行方
銅鑼が一度鳴り、闘技場が静寂に包まれる。
その瞬間、炎のように赤い髪を揺らす少女、炎刃のミレイユが中央に立った。
手に握るのは両刃の細身の剣――炎の意匠が施され、振るうたびに光を反射する。
対するは銀槍のエドモンド。銀色に輝く甲冑を纏い、長槍を静かに構える。
その瞳は冷静で、一切の無駄を省いた戦闘の機微を映し出していた。
「炎刃……相手になろう。覚悟はいいか?」
エドモンドの声は低く、鋼の響きを帯びる。
「ええ、負けません!」
ミレイユの声は弾けるように明るくも、内に熱を秘めていた。
観客席の熱気が高まる。
「銀槍、貫け!」
「炎刃、燃えろ!」
号令と共に両者が動く。
エドモンドの槍は直線的で力強く、前方に伸びるたびに空気を切る鋭い音が響く。
ミレイユは細身の剣を駆使して、縦横無尽に動き回り、槍の突きを流す。
「速い……!」
エドモンドが眉をひそめる。だが、槍の長さを生かした間合いを絶やさず、剣士を壁際に追い込む。
ミレイユは一度ジャンプして槍の懐を避け、槍の後方から斬りかかろうと試みる。
だがエドモンドは鋭い眼で動きを読んでいた。
「その位置か……」
槍を斜めに構え、受け流すように押し返す。
ミレイユの剣は弾かれ、腕に衝撃が走る。
観客席からは息を飲む声が上がる。
「うわっ、受け返された!」
「ミレイユが押されてる!」
試合は一進一退。
ミレイユは素早いステップで左右に揺れ、槍の軌道を何度も外す。
しかしエドモンドは槍の角度を微妙に変え、攻撃の範囲を徐々に狭めていく。
バルグは特別席の陰で唸った。
「長槍は体格差を活かす……だが、あの少女、間合いを詰めて反撃するタイミングをうかがっている
……見事だ」
ガルムも目を細める。
「素早い……だが、銀槍は致命的な一撃を秘めている。油断はできん!」
ソレンディルは腕を組み、冷静に観察。
「精神力の差が出てきたね。ミレイユはまだ集中力が続いているが、銀槍には余裕が感じられる。
歴戦を重ねた彼の余裕を感じるわ」
決定的瞬間は、槍の一撃がミレイユの左肩をかすめた時に訪れる。
「ぐっ!」
衝撃が走り、足元が乱れる。
だがミレイユは瞬時に体勢を立て直す。
炎のように輝く目で槍を睨むと、鋭い突きではなく、軌道を逸らしながら一瞬の間を作った。
「この距離……!」
槍の長さの差を利用しつつ、ミレイユは反転し、エドモンドの懐に斬り込む。
槍が長く伸びているため、斬撃の軌道を一度跳ね返さなければならない――
しかし、ここで彼女の剣が光った。鋭い斬撃が槍をはじく……はずだった。
エドモンドは見事な槍捌きで剣を弾いていた。
「な……!」
ミレイユはすぐさま体勢を立て直すが、心中に痛みが走った。
エドモンドの銀槍が入っていた。
観客は息を飲む。
「勝負……!」
ミレイユが投げた剣の先端がエドモンドの胸元をかすめた。
「勝負あり!」そこで終了となった。
第一皇太子アルディンの代表、銀槍のエドモントが勝利した。
ミレイユは息を整え、剣を軽く握り直す。
「……ありがとうございました」
戦いの余韻を胸に、控えめに頭を下げる。
エドモンドは剣を受け流され、槍を手に立つも、表情は引き締まっていた。
「やるな……君は本当に“炎刃”に相応しい」
バルグは拳を握り、目を輝かせた。
「ミレイユ、間合いを利用した判断、冷静さ、攻撃のタイミング……見逃せん才能だ」
ガルムは立ち上がり、拍手を送る。
「よくやった、ミレイユ!次に当たったらお前の勝ちだ!」
ソレンディルは静かに頷いた。
「彼女の実力はまだ伸びる……次が楽しみだな」
観客席の上、第一皇太子の代理人が薄く笑った。
「面白い……予想以上に若手が育っている。駒として利用できそうだな」
商都の隼ルカは眉をひそめ、戦局を分析する。
「次の試合は……バランスをどう取るか。若手が勢いを増している今こそ、
動きやすい」
黒炎のイグナート VS 商都の隼ルカ
闘技場に蒼い朝光が差し込み、砂埃が舞う中、黒炎のイグナートが悠然と現れる。
竜人の特徴である赤黒い鱗が光を反射し、背中から伸びる翼が空気を切るたびに低い唸り音を響かせる。
手には巨大な黒炎の斧を握り、両手の指先に炎の気配が揺らめいていた。
対するは商都の隼ルカ。軽装の機動性を生かした戦闘スタイルで、鋭い目つきと冷静な動きが印象的だ。
手には二振りの短剣――闘技場の砂を蹴り上げるように素早く構える。
観客席からは期待と緊張の声が渦巻く。
「黒炎……竜人の力、見せてくれ!」
「隼ルカ、素早さで勝負だ!」
号令と共に両者が突進。
イグナートの黒炎斧が振り下ろされるたびに、砂煙と共に炎が舞い上がる。
ルカは鋭いステップで左右に揺れ、斧のリーチを巧みに避ける。
「ふ……速いな」
イグナートの低い唸り声が響く。だが、振るう斧の一撃一撃は重く、空気を切る音が観客の耳に突き刺さる。
ルカは斧の軌道を読み、瞬間的に間合いを詰める。
短剣で斬りつけ、竜人の脚を狙うが、鱗の厚さと俊敏な反応に弾かれる。
中盤の攻防
ルカは素早く後退し、砂埃の中で旋回して位置を入れ替える。
観客席からはその身のこなしに感嘆の声が上がる。
バルグは陰から観察する。
「短剣の速度と戦術眼……だが、竜人の火力と体躯は計り知れない。駆け引き一つで命取りになる」
ガルムも眉をひそめる。
「ルカは間合いを巧みに使っている……だが、斧の威力を舐めてはいけない」
イグナートは翼を広げ、火炎をまとい一気に突進。
ルカは前転でかわしつつ、斧の刃を避ける。
砂が舞い、熱気と煙で視界が揺れる。
「このままでは……押される!」
ルカが心中で焦るが、冷静さを失わず、次の一手を狙う。
イグナートが火炎を斧に纏わせ、回転斬りでルカの前方を封じる。
ルカは短剣で斬撃を受け流しつつ、背後へ跳躍。
だが、竜人の跳躍も鋭く、翼で風圧を生み出し、ルカの着地地点を正確に制圧。
ルカは足を滑らせ、砂に膝をつく。
「くっ……!」
ルカは素早く反転し、短剣を振るう。だが、斧の重みと火炎の熱で、攻撃は弾かれる。
イグナートは冷たい唸り声と共に、斧を高く掲げる。
「これで……終わりだ!」
炎を帯びた斧が振り下ろされる瞬間、ルカは全力で側転して距離を稼ぐ。
だが、砂に足を取られ、完全にバランスを崩す。
斧はルカの防御と接触し、地面に突き刺さる音が響き渡る。
「……勝負あり!」
観客席は歓声と驚嘆で揺れる。
「黒炎、圧倒的だ……!」
「ルカもよく耐えた……!」
ルカは短剣を握り直し、膝をつきながらも冷静な目をしてイグナートを見つめる。
「……次は負けない」
イグナートは背中の翼をたたみ、ゆっくりと胸を張る。
その眼には、戦いの興奮と余裕が混じっていた。
バルグはメモを取りながらつぶやく。
「……この力、純粋な破壊力と制御力の両立か。かなりの逸材だ」
ガルムは拳を握り、少し険しい表情で言った。
「次に誰が挑むか……興味深い」
ソレンディルは眉を寄せ、戦況を分析する。
「ルカも戦略は良かったが、体格差と火力差が決定的だったな」
第二皇太子の陣営は色もなく消沈といった状態だ。
帝都の代理戦争で負けた、この意味は派閥にとっても大きな意味を持つ。
彼らは早々に立ち去るのであった。




