47、健闘
若き剣士アシュリー VS 紅槍のアラン
銅鑼の音が闘技場に響く。
砂塵を踏みしめて、紅槍のアランが前へ躍り出た。
身の丈を超える長槍、その穂先は陽光を反射し紅く輝く。
「少年よ、恐れるな! 俺の槍は真正面から叩き潰すためのものだ!」
豪快な咆哮と共に突きが放たれる。
空気が裂け、矢のように一直線にアシュリーを貫かんと迫る。
観客席から歓声と悲鳴が混じる。
「来たぞ、紅槍だ!」
「若造には受け止められん!」
アシュリーは心臓を打ち破るような突きを紙一重で横へ流した。
足裏に伝わる砂の感触――彼は稽古で教え込まれた「崩さぬ姿勢」を思い出す。
すぐさま二撃目。槍の穂先が連続して迫る。
「おらぁ! まだまだ終わらねえ!」
アランの連突きは豪快でありながら、正確無比。戦場で百戦錬磨を積んだ者の技だった。
アシュリーは受け流し、回避し、少しずつ間合いを詰める。
額から汗が滴る。
「……父なら、この槍をどう捌いただろうか」
ガルムが特別席で立ち上がる。
「おおっ! 槍を受けて退かねぇか! やるじゃねえか、アシュリー!」
ソレンディルは鋭い目を向けた。
「だがまだ、槍の本当の一撃を見ていない……アランの本気は、これからだ」
エルドリンは腕を組み、わずかに口元を引き結ぶ。
「焦るな、アシュリー。槍は力で受けるものではない……流せ、導け」
アランが叫ぶ。
「紅蓮一突――!」
全身の力を込め、一直線に穂先がアシュリーの胸を狙う。
その刹那、観客席の空気が凍った。
だが、アシュリーは目を見開き、前へ踏み込んだ。
――横に逃げるのではなく、突きの“内側”へ。
鋼の音が鳴る。
彼の剣が槍の柄を叩き下げ、進路を逸らす。
同時に、アシュリーの体は槍の懐に飛び込んでいた。
「なにっ!」
紅槍アランの驚愕の声。
次の瞬間、アシュリーの剣が横薙ぎに閃き、アランの腕甲を打ち弾いた。
赤槍が宙を舞う。
砂煙の中、剣先がアランの喉元を制した。
「勝負あり!」
観衆のどよめきが爆発する。
「若造が勝ったぞ!」
「紅槍を制した!?」
アランはしばし唖然としたが、やがて豪快に笑った。
「ハッハッハ! やるじゃねえか! 小僧、てめぇの剣は本物だ!」
アシュリーは肩で息をしながら、一礼する。
「……ありがとうございました」
バルグは低く唸った。
「槍を恐れず、懐に飛び込んだか……豪胆だな。これは磨けば光るぞ」
ガルムは拳を振り上げて叫んだ。
「ガッハッハ! いいぞアシュリー! 見事だ!」
ソレンディルは小さく頷いた。
「彼はただの若造じゃない……戦いの勘を持っている」
そして、エルドリンの目にわずかな笑みが浮かぶ。
「……そうだ。それが“剣を穢さぬ道”だ。よくやったぞ、アシュリー」
特別席のさらに上、第三皇太子マーシャルは薄く笑った。
「なるほど……想像以上だな。駒としては上等だ。さて、この駒をどう動かすか……」
彼の視線は、勝利に歓声を浴びるアシュリーに注がれていた。
その目は獲物を見据える鷹のように冷たく光っていた。




