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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
42/91

42、第一回戦


闘技場の控室では、クラン《ファイヤクラフティ》のバルグが待機していた。

彼の出番は最終の第4試合。対戦相手は「鋼のオルグレン」の異名で知られるドワーフ、オルグレン・ラムズフェルド。巨大戦斧を振るう豪快な一撃で有名な猛者だ。


出場選手は朝から控室に詰めている。選手は付き添い1名とともに部屋に入り、毒物の持ち込み防止と警備を兼ねて隔離される仕組みになっていた。

バルグには、第6部隊《灰槌はいづちの組》から工兵・補給担当のリオ・グランベルが同行している。


控室を見渡したバルグの目に、対戦相手の鋼のオルグレンをはじめ、黄金剣のレオニス、黒き終焉のウィル、銀翼のエルネスト、蒼牙のカイ、氷華ひょうかのセレン、風読みのリュシアンといった強豪たちが映る。


さらに、第一皇太子の代表として帝国近衛師団隊長“銀槍”エドモンド・ファーガソン、第二皇太子の代表として幾多の死線を超えた傭兵“商都の隼”ルカ・ヴェルディの姿もある。

「なるほど……皇太子たちの派閥の人脈を示す布陣というわけか。」

バルグは心の中でそう呟いた。


今回の彼の使命は二つ。クランの力を民衆に示すこと、そして有能な戦士をスカウトすることだ。

クラン《ファイヤクラフティ》は総勢254名を7部隊に編成しており、バルグは第7部隊《火竜の陣》に属する幕僚。創設時からクランマスター、ヴァレン・ドラコスの右腕を務めてきた。御前試合の成否を彼の双肩に預けるのは当然のことだった。


控室の空気は緊張に満ち、すでに互いを観察しあい、試合のイメージトレーニングを始めている。

そんな中でも、バルグは冷静な態度を崩さなかった。


「少し横になる。」

彼はリオにそう告げると、控室のベッドに身を横たえた。


――その頃、エルドリン一行は闘技場に到着していた。

アシュリーが出場者の連れということで、特別観覧席に案内される。


場外は群衆でごった返していた。闘技場に入れない人々が少しでも中の様子を見ようと押し寄せ、隣では公式ブックメイカーが大きな賭けボードを掲げて掛け金を募っている。群衆はかつてない大勝負に熱気を帯びていた。


聖衣に赤いマントを羽織った案内係の導きで、喧噪を背に石造りの闘技場へと入る。特別観覧席用の通路は静かで、光魔法の照明に大理石の壁、赤い絨毯が敷かれた廊下は荘厳な雰囲気を漂わせていた。


案内役によれば、マントの色で貴族や王族の身分を見分けられるのだという。五つ目の階段を上がり、長廊下を進むと、特別観覧席の入口に到着。各入口には聖衣を纏った係員が立ち、皇太子や代理人たちの席もこの奥にあるのだろうとエルドリンは推測した。


「こちらです。」

案内係が扉を開けると、六メートル四方のボックス席が広がっていた。ベンチシートが三列並び、入口には飲食を担当する従者が二名待機している。


一行はアイスティーを受け取り、最前列に腰を下ろした。


「特別観覧席だけあって、よく見えるわね。」

ソレンディルが感嘆の声を上げる。

「そうだな。」

ガルムも頷きながら闘技場を見渡した。


第一試合は、銀翼のエルネストと蒼牙のカイ。

鳥人と人間の戦いだ。


銀翼のエルネストは茶色の髪をした身長180センチメートル中肉の男子で、銀色に輝く鎧に武器はポールアーム"グレイヴ"を装備している。

形状は片刃のブレード(刃)をシャフト(柄)にはめ込む、薙刀に似ている武器を使う。

距離を取って突く、切ると同時に近接では柄を使って棍棒のように戦う事も出来る、中距離、近接共攻守幅広い戦略を扱える武器だ。


蒼牙のカイは黒髪の身長170センチメートルで、筋肉質な体つきで簡易鎧をつけて腰にファルシオンを下げている。

ファルシオンは「片刃」で幅広の刀身を持つ刀で「鎌」のような形状をしている。

全長約80cmと短めの刀身で、重量が重いので切るだけでなく叩きつける攻撃も有効で、鎧の上からでもダメージを与えられる武器だ。


エルドリンは蒼牙のカイを見ながら、接近戦で戦う事になるのに武器として重く、リーチが短いファルシオンを使うという事は、余程打ち合いの力比べに自信があり、ファルシオンを素早く振れるのだろう。簡易鎧にすることで、動きを阻害する要素を少なくしている装備だと思った。


「アシュリー、銀翼のエルネストの獲物ポールアーム"グレイヴ"を相手に、君だったら どんな対策をしますか?」


「昨日までの自分でしたら、片手剣で攻撃を耐えて相手が疲れるのを待って、少しづつ相手の体力を削る戦法を取っていたと思います。」


「今日の君ならどうする?」


「キャンサー装備で速い動きをを活かして懐に入って、フェイントを入れながら相手の攻撃を躱して弱点を探します。"ヴェリタス・ストーン"製の両手剣で力勝負に持ち込んで、打ち合います。相手の有利な距離で勝負しません。」


「そうか、昨日バルド殿にお聞きしたが、剣術による一騎打ちとは言え魔法が禁じられている訳でない。距離を詰める際、先に魔法による目眩ましを入れて、距離を詰めるというのも有効的だよ。打ち合うと言うなら相手を振り飛ばして体勢を崩す事で相手の焦りを生ませ、心理的に上位を取ることも重要だよ。」


「そうですね。」


「蒼牙のカイ相手ならどう戦う?ファルシオンを使うという事は、打撃力に自信があるようだね。動きも素早そうだ。」


「それならフルプレートで装備は盾とレイピアで、相手の攻撃をしのぎながら、速く正確な突きで脚を狙います。簡易鎧ですから貫けるでしょう。

 突きの間合いは相手のリーチより長く取れるので、相手の打撃で体制を崩さないようにしないと勝機はないですね。」


「そうだね、相手の攻撃を受けないで躱し続けると、相手の攻撃のリズムを外す事が出来るね。

 相手を調子に乗せない様に、相手にマイナスのイメージを植え付ける事が重要だよ。」


「そこまで考えていませんでした。心の持ちようは大事ですね。」


「そうだね、特に一対一の場合はね。後は彼らの戦いを見て参考にさせてもらおう。」


「了解です。」


しばらくすると場内に「試合開始5分前」を告げるアナウンスが入った。


銀翼のエルネストと蒼牙のカイは身体能力を上げるバフをかけている。


「両者中央へ!」号令と共に両者が闘技場中央で相対する。


「始め!」号令と共に観客の怒号の様な歓声が上がる。


「これは飲まれるね。」

歓声を聞きながらエルドリンはアシュリーを見た。物凄い熱気が伝わって来る。


銀翼のエルネストと蒼牙のカイが相対する。

2人の距離は5メートル程離れている。


両者は走り出して距離を詰める。


銀翼のエルネストが先に立ち止まり、左足を前に出し斜に構える。

ポールアーム"グレイヴ"の先端が太陽の光を反射して光る。


一方、蒼牙のカイはグレイグの届くギリギリの距離で立ち止まり、ファルシオンを中段に構える。


エルネストが操るグレイグの動きを観察して近接戦に持ち込む気だ。


互いに相手を観察している。


先に動いたのはエルネスト。クレイグの先端でカイの上段、中段、下段と3段突きを放った。


カイは左右に体を振ってクレイグの先端を躱す。


エルネストは脚を踏ん張り、クレイグのブレードで左右に躱したカイを追撃する。

クレイグの刃先は50センチメートルあり、躱し切れない。カイはファルシオンでクレイグを受け止めた。


「ぐっ」


中肉のエルネストの一撃はカイの予想を上回っていた。

過去の対人戦でエルネストの体躯を見ると、対戦相手は大した力はないだろうと侮る傾向にある。

彼はその心の隙をついて強烈な一撃を加える。


カイは体勢を立て直す為に距離を取ろうと後ろにステップする。

エルネストはカイの動きに合わせて追撃の突きを放つ。

カイは突き出されたクレイグをかろうじて跳ね上げた。


自分が相手を低く見積もっていた事にカイは後悔していた。

うかつに入れない。突きの正確さ、ブレードもやっかいだ。


だが、エルネストはカイが考える隙を与えない。

腰の位置でクレイグを構えて縦に一回転しながら、その遠心力を使ってブレードをカイの頭上から振り下ろす。カイは避けずにファルシオンで受け止めた。


今度は脚をふんばり、腰を落として両腕を使って、強力な打撃を受け止めた。

カイはそのまま刀をポールに滑らせながら、相手との距離を一気に詰める。


エルネストはさらに回転してポールアームの柄で、カイの一撃を止めようと試みる。


カイは手袋に隠していたニードルを目眩ましに投げつけた。


エルネストはポールアームの素早い回転でニードルを跳ね除けた。


カイは自慢のスピードで、その僅かな隙を活かして、脇に回り込みながら着実にファルシオンの届く距離に詰めていた。


「おりゃ~!」


縮地のような一瞬の加速で距離を詰めて、エルネストに斬りかかる。


エルネストはカイの動きを読むように飛び上がった。

カイのファルシオンは空を切り裂き、その変わりにカイの脳天にクレイグの刃が突き刺さる。


「勝負あり!」


終了の合図でエルネストは頭をつらぬく寸前でクレイグを止めた。

カイは肩をすくめて勝敗が決まった。


「アシュリー、カイの敗因は何だと思う?」


「エルネストの見た目で力を見誤った事でしょうか。」


「そうだね、エルネストは過去の経験でそこに勝機があると思っていた。

 カイは焦りから自分の戦略が甘かった事を悔やんだろうね。

 エルネストの追撃は冷静で的確だった。ポールアーム"グレイヴ"の特徴を上手く使った攻撃だった。

 接近戦の対策もきっちりしていただろう。

 アシュリーの片手剣では相手にならないだろうね。」


「そうですね。レイピアでスピード勝負の方が勝機があると思います。」


「どちらにせよ、勝敗を分けたのは心の機微、駆け引きが重要だということが分かったね。」


「はい!」


アシュリーは真剣にうなずき、ガルムもまたエルネストの戦術を胸に刻んでいた。


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