37、帝都ローゼンベルクへ
酒場「黒金の角杯亭」にエルドリンが到着した頃には、日が沈み街灯が店の前を照らしていた。入口で待っていたガルムとソレンディルと合流し、3人で中に入る。
案内されたのは壁際のテーブル席。人の入りは8割ほどで、冒険者らしき客たちが酒を酌み交わしていた。個室も勧められたが、あえて開放的な場所を選ぶ。
「結構流行ってるな」
「ええ、やはり冒険者が多いですね」
ソレンディルが周囲を観察しながら答える。
「で、エルドリン、街で仕入れた話を聞かせてくれ」
促されて、エルドリンは情報を整理しながら口にする。
帝都ローゼンベルクの御前試合事情
エンペリア帝国の皇帝ネフィロスには3人の子供がいる。
長男アルディンは勇敢で差別を嫌い、帝国内の奴隷制度廃止や住みよい国造りを考える第一皇太子。
次男イヴォーリーは切れ者で父の方針に肯定的、皇帝からも信頼される第二皇太子。
三男マーシャルは武芸を嗜み、亜人差別をなくし、有能者登用で国力を強化しようとする第三皇太子。
今回の御前試合は三男マーシャルが主催している。表向きは武術師範として将軍候補を見つけるためだが、裏の目的は自派閥の形成と民意の誘導にあると考えられる。皇太子として民衆に顔を知らしめ、人気を獲得する必要があるのだ。
大会は総当たり方式で、1日2試合。観戦者が試合を見て参加するもよし、棄権も自由。日程が長いのはそのためだ。
冒険者が帝都に向かう理由は、ブックメイカーの賭け、勝者への取り入り、仕官のチャンスなど様々。すでにこの街でも、誰に付くかで小競り合いが起きているという。闇ギルドは関心を示さず静観しているらしい。
3人の反応
情報を聞き終えたガルムは興奮気味に言った。
「ローゼンベルクの御前試合、見に行くぞ!」
エルドリンとソレンディルは、仕方ないと頷く。
「それにしても、冒険者風情で仕官できると思ってるのかしら?」
「輩風情では無理でしょうが、人は希望があれば力が出ますからね」
ソレンディルの呆れた言葉に、エルドリンも同意し、ニヤニヤしながら黒いエールを口にした。
夜の通信
その晩、宿屋に戻ったエルドリンは“ムーブ・メモリー”でソフィア・グレースフィールドに連絡する。
「またガルムのせいで寄り道になっちゃうわね」
「御前試合は腕自慢が集まるから、見ておく価値がある。日程も長いしね。ソフィアはどう?」
「こちらは魔獣被害の村を複数回ってるわ。遠征は10日目でナイトの索敵頼り。疲れるのよ」
「父に状況を報告して、増援を依頼するよ。そうすれば教会の費用負担も大公が補える」
「ありがとう。でも象徴として利用されてるだけ。ナイトがいるから大丈夫。そっちも無理はしないで」
「分かったよ。おやすみ」
エルドリンはソフィアの負担を思いながら眠りについた。
翌朝の出発準備
翌朝、食堂で柔らかい小麦パン、ベーコン、目玉焼き、サラダ、オニオンスープで朝食を済ませる。
「帝都ローゼンベルクは遠いですか?」と尋ねると、宿主は答える。
「国境を越え、国道を50キロ進めば大きな都市だ。商隊や人輸送用の荷馬車も多い。5時間ほどで着く。人数分予約しておこうか?」
「料金は?」
「1人20ギル。宿で支払いも可。準備ができたら呼ぶ」
「では支払っておきます」
旅の準備と訓練
ガルムは中庭で素振りを行い、ソレンディルは水魔法で作った水玉を空中に保持し、移動させる訓練を続ける。これは時間魔法の基礎訓練でもある。
エルドリンは荷物を整理し、中庭でガルムと槍術の訓練に入る。
ガルムは槍の長さに体が慣れ、縦斬りや突きの動作が滑らかになった
エルドリンの攻撃を受け流し、懐に飛び込む動作を横薙ぎで返す
そのまま突きを繰り出し、連携の精度を高める
訓練の最中、呼び出しの声がかかる。
「帝都ローゼンベルク行きの馬車、エルドリン様~」
手を上げて応答し、店主に挨拶。3人は幌付き荷馬車に移動する。板張りのベンチシートは3つ。ガルムは荷物置きで横になり、エルドリンとソレンディルは座る。
「それでは発車します!」
御者の声で、荷馬車は静かに走り出した。




