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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
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32、旧知の仲

ソレンディルが硬い表情で一同を見渡し、口を開いた。

「今から指示を出す。反対せずに聞いてほしい。」


その声音に、ざわついていた空気がすっと静まり返った。

皆が会話を止め、彼女の言葉を待つ。


「……マルセルのアンデッド軍団を半数減らし、さらに弟子を攫った。

プライドの高いマルセルは、間違いなく探査魔法で追跡を始めている。

こちらの陣営の者が見つかれば……殺されるだろう。


そこで私は、直接マルセルと交渉する。

弟子の尋問には、どれくらい時間が要る?」


「最低でも一週間は必要だ。捕虜にして縛り続けることはできんのか?」

渋い声で問い返したのは、バジルだった。


ソレンディルは即座に首を振った。

「無理よ。時間をかけて育てた弟子を捕虜に?

そんな真似をすれば、都市がいくつか消し飛ぶわ。


あなた達はマルセルを狂気のネクロマンサーだと思っているかもしれない。

でも違う。あれは“死者の魂を操る魔法”に優れた、かつて賢者と呼ばれた魔術師。

外見と術だけを見ていると、本質を見誤るわ。」


彼女は息を整えて告げる。

「――弟子は七日間拘束。その後、戻す。


悪いけどエルドリン。皆を商隊まで移動させて。

飛行艇を遮蔽隠蔽魔法ファラ・フィグメントで包んで隠してほしい。

エーテリウムの魔法なら、マルセルも検知できないはず。頼んだわ。」


「了解しました。」

エルドリンは頷くと、即座に転移で消えた。



商隊に現れたエルドリン達に、人々は驚き声を上げた。

だがバジルの姿を認めるや否や安堵し、駆け寄ってくる。


「作戦は成功だ!」

バジルの低く響く声が、広場にこだました。

「詳しい説明をしている時間はない。すぐに飛行艇に入れ!

敵の魔術師の目を逃れるためだ!」


ダンディな男の一喝に、商隊の者たちは一斉に動き出した。

テントを畳み、荷を抱え、次々と後部ハッチへ。

混乱はなく、統率の取れた避難はさすがだった。


その間、エルドリンは捕虜とした弟子を王都へ送ろうと、公爵に《ムーブメモリー》で連絡する。

「父上。捕虜を連れて公爵別邸地下会議室へ。よろしいですか?」

「受け入れは整っている。軍調査団の団長も来ているぞ。」

「では、捕虜三名とこちらの責任者を連れて向かいます。」


通信を終えると、エルドリンはバジルに耳打ちし、捕虜を伴って転移した。



王都・公爵別邸地下会議室。

エルドリンが姿を現すと、公爵と三名の人物が待っていた。


「ただいま戻りました、公爵。」

「よくやった、エルドリン。」


中央に立つ壮年の軍人が一歩前に出る。

「私は王都軍調査団団長、カスパー・イヴォリー。

無茶な要望にも応え、負傷者もなく作戦を成功させたこと、深く感謝する。」


「恐縮です。ですが、現地は依然として危険です。

仲間が対応中につき、私はすぐ戻ります。詳細はバジルに。」


エルドリンは礼を述べ、再び転移した。



一方その頃――

ソレンディルは姿を隠さず、マルセルの前に降り立った。


土魔法で作られた椅子に肘をかけ、待っていたのはオーバーロードの男。

「戻って来ると思っていたぞ、ソレンディル。」


「……怒ってはいないのかい?

大事な軍団を半分失い、弟子を奪われて。」


「先ほどまでは怒っていた。だが、お前の話を聞くつもりでいた。

興味深い現象があっただろう?探究心には抗えん。

弟子は――戻してくれるのだろう?」


不気味な笑みを浮かべ、両腕を広げるマルセル。


「60年も経てば丸くなるものかな……まあいい。

ところで、あの弟子は依頼主から与えられたのかい?」


「弟子にした覚えはない。求められたから魔法を教えただけだ。」


ソレンディルは納得しつつ話を進めた。

「そうか。では七日預かる。それより――あの魔法、どうだった?」


「あれは……?ファイアボールを飛ばしてはいなかった。多重詠唱か?」


ソレンディルは得意げに炎を生み出してみせる。

「失われたエーテリウムの技術だ。

火球を飛ばしたんじゃない。あの位置に“出現”させた。発動の時点を操っただけさ。」


「なに……!?エーテリウムだと……!どこでその技術を!」


「若い神聖魔法使いがいただろう。彼からだ。」


「ば、馬鹿な!剣技を振るいながら神聖魔法を詠唱していたぞ!

あり得ん!あの若造は何者だ!」


マルセルが椅子から立ち上がるほど動揺する。


ソレンディルは肩をすくめて笑った。

「エルドリン・ファルコン。今は私の仲間“アンブレイク・ハート”の一員。

前世はエーテリウムの民らしい。“アンブレイカー”の異名を持つ冒険者さ。」


「……聞いたことがある。仲間が全滅しても生還する、不死身の男……。

まさか、あの若造が……!」


「会いたいかい?」

「会いたい!技術を知りたい!」


「多分、すぐ来るよ。」


その瞬間、転移の光が揺らぎ、エルドリンが現れた。

「ソレンディル!無事でしたか!」


「八つ裂きにされてると思った?」とソレンディルは笑う。


「若造、私はそれほど短絡ではない。」

マルセルの声に、エルドリンは目を見開いた。


「……敵対しているのでは?」


「腐れ縁さ。いがみ合うこともあれば、協力することもある。」

ソレンディルが紹介する。

「こちらが賢者マルセル・デルース。マルセル、こちらが“アンブレイカー”エルドリン・ファルコン。」


「噂は聞いているぞ。……タフな男だな。これからも顔を合わせるだろう。よろしくな。」


「こちらこそ。」


エルドリンは拍子抜けしながらも深く礼をした。

マルセルの探究心と熱意を知り、ただの狂人ではなく、知を追う者であると理解する。


「エーテリウムについて何か情報は?」とソレンディルが問うと、

マルセルは思い出すように言った。

「遺跡の街に碑文が多く発見されている。最後に落ち延びた村の伝承も残る。

遠いが……行く価値はある。」


「感謝します。」

エルドリンは深く頭を下げた。


ソレンディルとエルドリンは転移の光に包まれ、飛行艇へと戻っていった。


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