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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
31/91

31、作戦開始

夜が明け、空気はまだ冷たい。

バジルのチームは敵より先んじて配置につき、遮蔽と隠蔽の技術で気配を消した。さすが元王国調査団、動く影一つ残さない。


ガルムとエルドリンも遮蔽魔法の中で息を殺し、獲物を待つ狩人のように気配を研ぎ澄ませていた。


――時間が過ぎる。二時間ほどだろうか。


やがて、地の底を揺らすような重い足音が近づく。

アンデッド軍団が陣営ごとに集結し、整然と整列を始めた。


エルドリンは岩陰からその様を凝視する。生者では考えられない、規律正しい動き。

左にはリッチが率いる軍団、右には人間の術者が操る軍団。黒衣の指導者らしき姿は見えない。


角笛が「ブオォォォ」と鳴り響いた。

前列に盾と槍の兵、後列に両手剣の剣士、そのさらに後ろにはマジックキャスター。規則正しい陣形に空気が張り詰める。


「もうすぐだな。」

ガルムが低く呟く。

エルドリンは無言で頷いた。


再び角笛が鳴り、両軍が前進を開始。

リッチ側が火球を一斉に放ち、炎の雨が敵陣を覆う。

だが盾兵たちが身を張り、炎を受け止めた。槍兵が前進し、反撃の火球が飛ぶ。剣士たちが吠え声をあげて突撃し、両軍は正面で激突した。


「――行くぞ!」

ガルムの声が雷鳴のように響き、二人は岩陰から飛び出す。


ガルムの大剣イグニスソードが赤熱し、刃に炎の紋章と「炎の誇りを忘れるな」の文字が浮かぶ。

一振りで烈風の火焔が走り、前列のアンデッドが焼け崩れた。


「うおおおおっ!」

ガルムが猛牛のように突進する。その背を狙って剣士たちが迫るが、エルドリンの剣が閃いた。


「縮地――」

瞬間移動のような踏み込みで袈裟斬り。だが剣士は両手剣で受け止めた。火花が散る。


「ほう……動きが速い。」

エルドリンは舌打ちしつつも感嘆する。生前の技を引きずり出す“死者の魂を操る魔法”。まるで熟練剣士そのものだ。


次の瞬間、フェイントの突きから小手を切断、兜ごと頭を割る。倒れた剣士の代わりに別の影が迫るが、エルドリンは縮地で背後を取り、首を次々と刎ね飛ばす。


並列思考で神聖魔法レクイエムを詠唱しながら、刃でアンデッドをなぎ倒していった。


一方、後方二百メートル。

バジルの手が弦を引き絞る。魔宝石ヴェリタス・ストーンが紅く脈動する。


「燃え上がれ――爆ぜろ!」


放たれた矢は空で百に分裂し、炎の雨となって軍団を覆う。爆裂と炎で戦列は乱れ、アンデッドの動きに亀裂が走った。


「花火は上げたぞ、エルドリン!」

バジルが吠える。


――その頃、戦場を見下ろす丘。

土魔法で作った椅子に腰掛けていたマルセル・デルースは、突如の襲撃に眉をひそめた。


「……何者だ?」


だが思考の前に、雷撃が空を裂いた。

咄嗟に身を翻すが、電流が右腕を焼き痺れさせる。


「くっ……!」


見上げれば、そこには漆黒の外套を翻す魔女の姿。


「ソレンディル……!」


ファイヤーボールが四方から爆ぜ、壁も結界も次々に砕かれる。

マルセルは愚痴るように叫んだ。


「チッ……遊ばれているだと!?」


飛翔の術で空へ逃れる。

だが待ち構えていたソレンディルが冷ややかに笑った。


「久しぶりだね、マルセル。」

「やはりお前か……敵に回る気か?」

「いいや。ただの挨拶だよ。」


雷撃が奔り、二人は六十年ぶりの邂逅を炎と稲妻で飾った。


――地上。

ガルムの大剣が盾を砕き、灼熱の刃が槍兵を焼き斬る。

エルドリンは神聖魔法を込めた突きで剣士を貫き、風魔法で跳躍。


「――レクイエムッ!」


天空に展開した光輪から聖なる光が降り注ぐ。

触れたアンデッドは鎧を残して塵と化し、数百の兵が一瞬で消え去った。


その光景に、後方で弓を構えていたバジルが息を呑む。

「あいつ……やるな。」


戦場は完全に混乱。

そこへ信号弾が上がる。――捕縛成功の合図。


「ガルム、退きます!」

「おう!」


二人は転移魔法で酒場の拠点へ退却。

ソレンディルも爆裂魔法を囮にマルセルを振り切り、後を追った。


やがて、猿轡をかけられ布袋を被せられた人間二人とダークエルフ一人を引き連れ、バジルの部隊が帰還する。


「……三人だけの援軍で、よくここまでやったな。」

バジルが感嘆混じりに言う。


エルドリンは疲労の中、ソレンディルが“亡国”の怪物を足止めしてみせたことに胸を打たれていた。

「やっぱり……すごい人だ。」


ガルムは彼の肩を叩いて笑う。

「お前もよくやったさ。」


外ではまだ戦場の余燼が空を赤く染めている。

だが酒場の中は、不思議な静けさに包まれていた。


作戦は成功――だが、“亡国”のネクロマンサーを敵に回した代償が、どれほど重いものになるかは、まだ誰も知らなかった。

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