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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
29/91

29、北端の街

エルドリン一行は飛行艇を操り、北端の国境線まで二時間をかけて到達していた。

彼らの目的は、街の南側に潜伏している商隊に合流することだ。


床の覗き窓から、オーガのガルムが目を凝らしていた。

三人の中で最も視力に優れるのは彼だ。鋭い双眸が、雲間から広がる大地を射抜いている。


「エルドリン、商隊を偽装してるってことは……荷馬車が集まってると見りゃいいんだな?」


豪快な声でガルムが問う。

操縦桿を握るエルドリンが短く応じた。


「そうだ。平地よりも林の中に潜んでいる可能性が高い。」


すぐさま、ハイエルフのソレンディルが索敵魔法を展開する。透明な波紋が空気を震わせ、彼の視界に情報が流れ込んだ。


「……見つけた。北西に少し進んだ先に、商隊らしき集団がいる。距離は近い。」


「よし、エルドリン、そっちに舵を切れ!」

覗き窓を覗いたまま、ガルムが声を張った。


エルドリンは速度を落とし、飛行艇を馬車並みに減速させる。

やがてガルムが目を見開いた。


「おおっ、いたぞ!」

彼の手が大きく上がる。


「ソレンディル、発煙筒を投げろ。そのあと遮蔽魔法を解いてくれ。着地する。」

エルドリンの冷静な指示に、ソレンディルは頷き、赤い火花を散らす発煙筒を窓から落とした。地上に煙が立ち上がり、合図は商隊へ届いた。


下では、旗を振って応える人影がある。合流の合図だ。

飛行艇はゆっくりと降下し、大地に着地した。


――ギギギ、と扉が開く。三人は外気に包まれた。

そこへ、痩せた中年の男が歩み寄ってくる。ポンチョを纏い、落ち着いた眼差しを持っていた。


「お疲れ様です。この商隊を率いているアミルと申します。」

差し出された手を、エルドリンは力強く握る。


「我々は《アンブレイク・ハート》のエルドリン・ファルコン。こちらはオーガのガルム、ハイエルフのソレンディルです。」


「どうぞ、こちらへ。」

アミルは彼らをテントへと導いた。


中の長机には、広げられたキュルダット・デ・ルーナスの地図。

アミルが南東の林を指差す。


「現在地はこちら。案内人は街の南側の酒場にいる。名はバシル・ストーンキープ、長髪の黒髪が目印です。彼から情報を受け取って下さい。」

アミルは三人を見渡し、目を細める。

「……強力な布陣ですね。タンザニアライト級が二人、オニキスクラスが一人。王都でも、まずお目にかかれません。」


エルドリンは軽く会釈を返す。

「情報、感謝します。我々は酒場へ向かいましょう。」


一行はテントを出て歩き始めた。酒場までは約一・五キロ。三十分の行程だ。時刻はまだ午前十時過ぎ。


歩きながら、ガルムが疑問を口にする。

「なあエルドリン。あの商隊……偽装って言ってたが、民間人なんだよな?」


「おそらくそうです。国軍兵なら所作や歩き方に軍人の癖が出ます。あれは本物の商人でしょう。宰相が信を置く、選ばれた者たちです。」


確かに――商隊なら国境にいても不自然ではない。

彼らの任務の重要さを、改めてガルムは感じた。


――その頃。王城、宰相執務室。

宰相は臣下ロメリオと向かい合っていた。扉を叩く音が響き、王都軍調査団団長カスパー・イヴォリーが入室する。報告は重い内容だった。


「北端の街にて、アンデッド軍勢約二百体の隊列が六つ。……総数千二百。3人のネクロマンサーが統率していると見られます。」


宰相の眉間に深い皺が刻まれた。

「予想以上に深刻だな……だが、頼れるのは《アンブレイク・ハート》しかおらぬ。監視を続けよ。」


「了解。」

カスパーは頭を下げて退室した。


宰相はロメリオに命じる。

「国軍にグレートレイブ湖への演習準備をさせろ。敵が動きを誤認すれば……仕掛けてくるやもしれん。」


王城に静かな緊張が漂う――。


一方その頃。

エルドリンたちは酒場に到着した。中を索敵すると、一人の気配のみ。扉を開けると、長髪を編み込んだ褐色の男がカウンターに腰かけていた。


「ご苦労だったな。《元国軍調査団》のバシル・ストーンキープだ。武器は弓を扱う。」


「我々は冒険者ギルド《アイアンズゲート》所属、《アンブレイク・ハート》エルドリン・ファルコン、オーガのガルム、ハイエルフのソレンディル・シルバーレイン。」


名乗りを聞いたバシルは目を見開き、口元を吊り上げた。

「まさか……噂の《アンブレイカー》か。それにタンザニアライト級が二人。恐ろしい奴らを寄越してきたもんだ。」


「前線基地はここになるのか。状況を教えて欲しい。」


「ああ。」

バシルは淡々と説明する。

敵は二百体規模の軍団が六つ。ネクロマンサーも六人。奴らは古い教会を本拠にしている。彼ら調査団は六人で監視を続けていた。


話を聞き終えると、エルドリンはじっとバシルを見据えた。

「……右腕を見せてもらえますか?」


「構わん。」

バシルは袖を捲り上げる。そこには三本の剣を組み合わせた入れ墨。国軍調査団の証だ。


「偽装でないと確認しました。」

エルドリンの言葉にガルムも頷いた。


「夜になれば、仲間の五人も戻る。そこで作戦会議をしよう。」

バシルが言う。


「承知しました。」

エルドリンは短く答え、一行は丸テーブルに腰を下ろした。


――夕闇に包まれるまで、静かに、そして確実に、嵐の気配は迫りつつあった。

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