28、廃墟の街へ
宰相アルトリウスと公爵エドガーが情報確認を行っている頃、グレートレイブ湖の湖畔には獣人の精鋭十二名が静かに集結していた。
リーダー、リオン・グレイスケイルが仲間を見渡し、低くも力強い声で作戦を説明する。
「今回の任務は湖畔探索だ。二人ずつ六チームに分かれ、交代で行動する。隣国の地下施設がある可能性は高い。人が潜んでいるなら必ず物資の出入りがあるはずだ。我々はその搬入口、施設の規模、出入りの頻度を監視する。
北側の村は囮の可能性がある。監視対象外としろ。馬車の出入りがあれば頻度を数え、追跡は別チームに引き継ぐ。我ら獣人は嗅覚と気配探知に優れている。そこを最大限に生かす。期間は四週間――気を引き締めろ!」
十二人は無言で頷き、即座に散開。湖畔の探索任務が始まった。
一方その頃、宰相アルトリウスは王城の執務室へ戻っていた。
机上には山のような書簡が積まれている。配下のロメリオが待ち構え、深々と頭を下げる。
「首尾はいかがでしたか?」
「うむ……まだ始まったばかりだ。だが、次の一手は打たねばならん」
「グレートレイブ湖での軍隊の演習や魔獣討伐の情報を流し、貴族から隣国への伝達経路を追う作戦ですね」
「その通りだ。王都軍調査団団長、カスパー・イヴォリーに伝えろ。時期を合わせて動くのだ」
「はっ」
ロメリオが去ると、宰相は窓辺に立ち、遠い空を見つめる。
「……キュルダット・デ・ルーナス。あの廃墟とネクロマンサーどもの影が、我らの脅威とならねばよいが」
重い吐息が執務室に落ちた。
翌日。
エルドリン一行は転移魔法で公爵家へと到着する。裏門から入り、報告を済ませると、公爵家の長男ハーヴィンが出迎えた。
「父上から聞いている。飛行艇を使うんだろう? 倉庫まで案内する」
「ありがとう、兄さん」
案内された倉庫は巨大で、五階建てに相当する高さを誇っていた。その中央に鎮座していたのは、全長十五メートル、車輪付きの輸送用飛行艇。
風の精霊が宿る魔石を組み込んだ操縦システムにより、操舵はマナで制御される。
「これが……飛行艇か」
ガルムが目を丸くする。
「こんなでかい物が空を? 帆も舵もねぇのに、どうやって進む?」
「心配ありません。風の精霊が舵を取ります。私たちは進路を確認するだけです」
エルドリンの説明に、ガルムはまだ信じられない顔をした。
やがて三人は飛行艇に乗り込み、ガラスのスクリーンと床一面の大地図に目を奪われる。
「これが……アルカディア王国全域の地図か」
ソレンディルが息を呑む。
エルドリンは操縦席に腰を下ろすと、短く指示を飛ばした。
「ソレンディル、遮蔽魔法を。……発進!」
飛行艇は音もなく浮上し、加速していく。王都の屋根が下へと遠ざかり、空を裂いて北端の廃墟都市へと向かっていった。
その頃、北端の荒野に建つ寂れた酒場。
埃をかぶった机を囲み、六人の探索者が集っていた。
長い金髪の女性が報告する。
「バシル、確認しました。アンデッド軍六部隊、総数千二百。少なくとも3人のネクロマンサーが統率演習をしています」
色黒の男、バシル・ストーンキープが顔をしかめた。
「……やはりか。マルセル・デルースの名を聞いたことがあるな?」
「亡国を滅ぼしたという伝説の……?」
「そうだ。優秀な指揮官にして、最悪のネクロマンサーだ。奴がいるとすれば、廃墟都市はすでに奴の牙城になっている。中心街、旧教会付近が拠点だろう」
重苦しい沈黙の後、女性は頷いた。
「今日、援軍が来る予定です。それまでは監視を続けます」
「頼む」
バシルは仲間を見送り、残された酒場の窓越しに荒野を見据えた。
乾いた風が吹き抜ける中、低くつぶやく。
「……まずは合流だ。そして、嵐の前触れを迎える覚悟をせねばならん」




