23、禁呪
前線からベースキャンプへ
エルドリンは 遮蔽隠蔽魔法「ファラフィグメント」 を自身にかけ、森の上空へと浮上した。
ウィズドウィングの気配もなく、森からの魔獣干渉も受けず、快適かつ迅速に移動できた。
通常なら歩いて四日かかる距離を、わずか一時間足らずでベースキャンプへ到着。
焚き火の煙が見え、周囲の安全を確認すると魔法を解除し、大きな掛け声と共に近づいた。
迎えに出た副ギルドマスターのエレンディルは、安堵と共に問う。
「お疲れ様です。首尾はどうでしたか?」
エルドリンは報告する。
「ディープバイトは成体2体と幼体、卵も確認。大変でしたが無事討伐完了です。重症者は出ましたが、死者は無しです。」
キャンプに安堵のざわめきが広がる。
「重症者は治療中ですが、明日からベースキャンプに戻ります。早ければ三日後にはアイアンゲートに帰還できるでしょう。」
「了解です。他に脅威となる魔獣は?」
「まだいますが、王都から依頼を受けたアンブレイク・ハートが駆除対象です。詳細はギルドマスターから会議で聞いて下さい。」
エルドリンは再び「ファラフィグメント」で姿を隠し、前線へ戻っていった。
エレンディルは、討伐前に見せたエルドリンへの嫌味を悔やみながらも、報告に安堵する。
レイジングクロウの捕獲
一方、治療を終えたソフィア、ソレンディル、ガルム、ナイトは、残り五つのタスクのうち レイジングクロウの捕獲 に向かう。
ソフィアは全員に「ファラフィグメント」をかけ、隠蔽状態で行動を開始。
捕獲は単純ではない。母子のクロウは探知能力が高く、雄のナイトが不用意に姿を見せれば母親が攻撃を仕掛ける。
作戦はこうだ:
牛肉の塊を焼き、アイテムBOXに入れて陽動。
ナイトが肉を咥えて母親を誘導。
母親が離れた隙に、ソレンディルが捕縛魔法で子供を制御。
ガルムが子供を捕獲。
母親には昏睡魔法をかける。
ナイトは風上から慎重に陽動を開始。母親は匂いに気付きつつ、周囲の様子をうかがいながら忍び寄る。
ソフィアは隠蔽魔法を維持し、子供と母親の距離が十分に開くのを待つ。
捕獲成功
子供のクロウ二体を捕縛魔法で制御し、ガルムが両肩に担ぎ上げる。
ソレンディルの「ファラフィグメント」で匂いも音も遮断され、母親には鳴き声すら届かない。
母親が肉に飛びついた瞬間、ソフィアが昏睡魔法をかけ、クロウは横たわる。
そのままソレンディルの補助で浮かせ、テントに戻す。
ナイトは肉を食べたそうに鳴くが、テントに戻るまでおあずけ。
「これで残り四つだな。」
ガルムが確認すると、仲間たちは頷いた。
クロウの管理と次の作戦
テントに戻ると、エルドリンはすでに戻っていた。
子供のクロウと母親を見て、状況を確認する。
「無事完了したか?」
「はい、従魔契約を結び、逃げ出せないようにしました。寝床と餌も準備済みです。」
ガルムが尋ねる。
「次はどれを片付ける?」
「まずはディープバイトの後片付けですね。」
飛び散った血を洗い流し、遺体をマジックボックスに収納する作業は、二時間程度で完了。
他のパーティーメンバーは治療が終わり、全員がテントに揃った。
エルドリンはアイテムボックスから風呂を用意。ハーブの薬湯で回復を助けつつ、疲労を癒す。
ナイトも皆の手で洗い終え、寝床でぐっすり眠る。
夕食はソフィアとソレンディルが準備。
ガルムとエルドリンは、残り任務とベースキャンプへの帰還について打ち合わせる。
焚き火の語らい
夕食後、エルドリンは焚き火のそばで腰掛け、ソレンディルが隣に座る。
「エルドリンの日記を読んで、疑問に思ったことがあるんだけど……」
「どうぞ、何でも聞いてください。」
「エーテルリウムの夢、今も見ているの?」
「はい、ほぼ毎晩です。」
「滅んだ国の生き残りは?」
「ローラン・アイアンクラウンに率いられ、西方に村を作りました。"オヴェステ"村です。海岸には他種族はおらず、工芸品や商隊を通じて外界と交流していました。」
ソレンディルは推論を述べる。
「伝承された魔法は原型を留めず、現代魔法として使いやすく変化したのね。」
「その通りです。」
「日記にない禁呪は?」
「あります。相手を呪う呪詛や、蘇生魔法も含まれます。」
蘇生魔法の存在に、ソレンディルは驚きと恐怖を覚える。
もし現代に残っていたら、エーテルリウムは依然として世界に影響を及ぼす可能性がある。
エルドリンは真剣な眼差しで言った。
「この討伐が終わったら、遺跡の街に向かい、エーテルリウムの痕跡を辿りましょう。例え敵対する日が来ても、あなたとガルムがいれば対等に戦えるはずです。」
ソレンディルはその言葉を受け入れ、焚き火の炎を見つめながら、目の前の任務に全力を傾ける決意を新たにした。




