22、死闘を制する
もう一体のディープバイトは、攻撃隊が左右から剣で切りつけ、槍で突き刺していた。
だが深手を負わせるには至らない。
原因は明らかだった。
ディープバイトが繰り出す 重力魔法。標的を選んで動きを鈍らせ、そこに体当たりや尾の一撃を叩き込む。
攻撃隊は押し返されるだけで精一杯だった。
さらに魔法部隊も、水鉄砲の妨害で詠唱を止められ、苦戦を強いられていた。
盾役は疲労困憊、負傷者も出始め、膠着状態は続く。
反撃の糸口
ソレンディルは状況を見て魔法部隊のもとへ走る。
一方ガルムは盾を構え、ディープバイトの鼻先に突っ込み、豪快なバッシュを叩き込んだ。
「こっち向けや、この化け物!」
巨体の意識を自分へ向ける。
ナイトも尾に飛びつき、爪で容赦なく引っかいた。攻撃隊の退避時間を稼ぐためだ。
ソフィアはすぐさま負傷者の治療に移る。
そしてエルドリンは――巨獣の真正面に立った。
命がけの拘束
ディープバイトの重力魔法は範囲ではなく、対象を選んで発動するらしい。
新たに加わったガルム、ナイト、そしてエルドリンには、まだ干渉が及んでいない。
「厄介なのは水鉄砲と噛みつきか……」
エルドリンはつぶやき、躊躇なく巨獣の口先に抱きついた。
「なっ……!? 無茶しやがる!」
口を閉じさせるため、全身で牙を押さえ込む。
その光景に攻撃隊が息を呑む。
ガルムがすかさず怒鳴った。
「おらぁ! 今だ! 攻撃しろ! 重力が解けてるはずだ、気合入れろ!」
総攻撃
刺股付きの槍が横腹に突き立つ。
付与魔法の刃が皮を裂き、肉に達する。引き抜くと血飛沫が舞い、ディープバイトがのたうった。
数人の剣士が突きを選び、胴体に刃を突き刺して横に裂いた。
内臓がはみ出す。
「いいぞ、もっとやれ!」
ガルムは盾を投げ捨て、自ら内臓に腕を突っ込み、力任せに引きずり出す。
豪快な咆哮と共に臓腑が引き裂かれる。
尾には残りの戦士たちが斬撃を浴びせ、切り口を増やしていく。
決め手
ソレンディルは魔法部隊に凍結魔法の詠唱を開始させた。
「絶対に仕留める……!」
暴れるディープバイト。槍使いが目を突き潰し、重力魔法の狙いを封じる。
エルドリンはまだ牙を抑え込んだまま離れない。
その必死さに、戦士たちの士気がさらに燃え上がる。
ガルムはソレンディルを振り返り、頷きを受け取る。
そして――バスターソードを高く振りかぶり、巨獣の口先めがけて突き立てた。
刃は顎を貫通し、大地に深々と突き刺さる。
「エルドリン! 全員下がれぇ!」
叫びに応じ、戦士たちは一斉に後退。
エルドリンも転がりながら巨獣から離れる。
次の瞬間――
「フリージング・フィールド!」
ソレンディルの凍結魔法が放たれた。
ディープバイトの全身が一瞬にして銀色に染まり、氷の彫像と化す。
生命活動は完全に停止した。
「よっしゃああああ!」
勝利の雄叫びが、戦場に響き渡った。
戦後処理
ガルムはバスターソードを引き抜き、血まみれの顔で笑った。
ソフィアが青ざめた顔で駆け寄る。
「ソフィア、攻撃隊の治療を頼む。今は興奮してるが、骨折も裂傷も多い。すまん、エルドリンは後回しだ。」
ヒーラーたちが重傷者の治療を始める。
転がったままのエルドリンにソレンディルが声をかけた。
「大丈夫? 目が回ったでしょ?」
「ディープバイトに振り回されて、目が回るだけで済んだら安いもんですよ。」
「ふふっ、あなたなら本当に済みそうね。」
透視で状態を確認したソレンディルは骨折と捻挫を見抜き、治療を開始した。
そこへガルムがやってきて、腰を下ろす。
「まったく無茶しやがる……生きてるか?」
「生きてます。ちょっと痛いですが。」
「ならいい。……捕縛魔術って手は考えなかったのか?」
「すみません、習ってません。」
「お前はほんとデタラメだな! 高度な魔法は使えるのに、そんな基礎も知らねぇのか! ……まぁいい、グローリンの鎧を信じてたってわけか。ソフィアに心配かけんなよ。」
ガルムは笑って、血に濡れた手を振った。
被害と次の狩り
討伐隊の被害は――
重症者(骨折など)9人
軽重傷者7人
死亡者なし
S級魔獣相手に死人ゼロは奇跡だった。
動けぬ者は担架で運び、歩ける者は自力で移動。ウィズドムウィングに見つかる前に森へ退避した。
森でテントを張り、治療と休息に入る。
ソレンディルの治癒魔法を受けたエルドリンは、もう歩けるまで回復していた。
「今日はここまでですね。」
エルドリンが地図を広げる。
「まぁ死人が出なかっただけで十分だろ。」
ガルムは笑いながら応じる。
「お前の狙い、分かってるぜ。S級討伐を“冒険者の手”でやらせる。それがギルドマスターからの隠れた依頼だろ?」
「その通りです。軍が強すぎるせいで、冒険者は高難易度に挑んでこなかった。ですが彼ら自身の力で勝利を掴ませる必要があったんです。死者を出さずに勝ったことで、義理も果たせました。」
「ははっ! 無茶もお前らしいな。」
ガルムは白い歯を見せて笑った。
エルドリンは残る標的を指で示す。
ウィズドムウィングの駆除
グローサーペントヴァイパーの駆除
スケイルヴァイパーの駆除
ドレッドジョーの群生の駆除
レイジングクロウの捕獲
「他のパーティーは?」とガルムが問う。
「負傷者が多く、もう動けません。私が副ギルドマスターに報告してきます。その間、ソフィアとソレンディルは治療を。彼らには街へ戻ってもらいましょう。」
「ってことは、残りは全部俺たちだけでやるのか?」
エルドリンは笑みを浮かべた。
「荷が重いと?」
「はっ、むしろおかわりが欲しかったとこだ!」
ガルムはニヤリと笑った。
「じゃあ早く済ませましょう。」
ソフィアが応じ、四人は再び散っていった。




