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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
21/91

21、本番

エンペリア帝国・とある執務室


重厚な机と六人掛けのソファが置かれた執務室。その中には二人の男がいた。

一人は机に座る男、もう一人は報告をしている男である。


「グレートレイブ湖の湖畔に出現した魔獣の討伐に、アルカディア王国が人を派遣しているというのは本当か?」


「はい。王都に潜伏している“見物人”からの確かな情報です。現地に向かった探索者は、アイアンゲートの冒険者五つのパーティー、総勢二十二名とのこと。」


「……奴らの目的は討伐のみか?湖畔周辺の探索ではないのか。」


「討伐で間違いないようです。ただし、魔獣の捜索は当然行うでしょう。」


「そうか。もっとも、あの場所ではせいぜい“村”と兵舎程度しか掴めまいがな。……いかんせん場所が悪い。」


「はい。我らの“施設”まで気付くことはないでしょう。」


「ならば杞憂で終わればいいが。“見物人”には討伐の結末まで見届けるよう伝えろ。――それと、現地には“村人”以外を近づけるな。」


「承知しました。施設の存在を知る者が動けば、すぐ露見しかねませんから。」


「そうだ。徹底しろ。以上だ。」


――どうやら帝国側の湖畔には、アルカディア王国に知られてはならない秘密があるらしい。

だが、そのことをエルドリン一行は知る由もなく、翌朝の討伐に備えていた。


翌朝


夜が明け、冒険者たちは普段通り朝食を取った。

死地に赴く日であろうと、人は腹が減る。だからこそ、当たり前のことを当たり前にこなすのが肝要だ。

騎士団仕込みのエルドリンは、その姿勢を崩さない。


「昨日の夜はどうだったの?」

ソレンディルが尋ねる。


「収穫は多かった。ただ、同時に現地だけでは判断できない謎も生まれました。」

エルドリンは前夜の捜索結果を簡潔に伝えた。ただし、帝国側に不審な気配がなかったことだけを述べ、政治的な火種になりかねない要素は伏せた。


「まずはディープバイトの巣からですね。そこで他のパーティーがどれほど消耗するかで、次の一手を考えましょう。」

エルドリンはそう締めくくった。


作戦会議


朝食を終え、全パーティーが集合する。

エルドリンは昨夜の調査結果を報告した。

南東の湖岸から約五キロ北に、体長六メートルのディープバイト成体二体と、幼体十二体、さらに卵二十個が確認されたという。


場がどよめく。

つがいの成体二体――同時攻略は避けられない。さらに幼体が加われば、全滅の危険もある。


ソレンディルは魔法隊の作戦を再確認する。四組に分け、ディープバイトを水に入れさせないこと。得意な魔法を最速で放ち、前衛を援護する――当初の方針に変更はない。


ガルムは言い切った。

「成体一体は他の二チームに任せろ。もう一体は俺たち〈アンブレイク・ハート〉が受け持つ。幼体十二匹は気にするな。」


作戦はこうだ。

囮役としてナイトとエルドリンが成体二体を引き離す。幼体はソレンディルが氷結魔法で一網打尽にする。


余計な情報は与えない。目の前の目標を揺るがすだけだからだ。

ガルムもソレンディルも、エルドリンの考えに同意した。


「よし!準備だ!」

「おーっ!」


威勢のいい声が各テントへと消えていった。


出陣


〈アンブレイク・ハート〉も自陣に戻る。

「私はどういう役回り?」ソフィアが問う。


「身体強化を全員に施したあと、ガルムと二人で前衛だ。」

「……後方支援かと思っていました。」

「向こうには回復役が二人いる。ソフィアは前線で頼む。」

「信用されてるんですね、私。」

「もちろんだ。ガルムも同じ気持ちだろう。」

「……照れますね。」


ソレンディルが微笑んだ。

「ここまでの働きで十分わかったよ。胸を張りな、ソフィア。」


「さあ、行くぞ!」

ガルムの声で、一同は装備を整えた。エルドリンは軽装を脱ぎ捨て、ガルムと同じ鎧に身を固める。囮役にふさわしい重装備だ。


森を進む


討伐隊は森を北上。開始時刻は朝八時。

エルドリンは遮蔽隠蔽魔法ファラフィグメントで姿を消し、先行偵察に出た。


五百メートル後方に討伐隊が待機。ディープバイトは聴覚に優れるため、これ以上の接近は危険だ。その間にソフィアが強化魔法を全員に施す。


戻ってきたエルドリンは、地図に成体二体と幼体の位置、周辺の岩場を書き込む。ソレンディルは魔法隊の配置を記入した。


時刻は九時過ぎ。気温も水温も低く、ディープバイトの動きは鈍い。幼体は巣からやや離れている。好機だ。


作戦開始。

エルドリンはアイテムボックスから牛肉の塊を取り出し、撒き餌として成体を誘導する。ナイトはもう一体を別方向へ引き離す手はずだ。


誘導


《ファラフィグメント》で匂いも音も遮断し、ディープバイトの鼻先まで接近。

三メートル先に肉を置き、さらに数メートル下がって次の肉を置く。

巨体が匂いに釣られて動いた。


一体が肉にがっつく。もう一体も匂いを嗅ぎつけ、二体は徐々に距離を取る。ナイトが姿を現し、一体を引き受けた。エルドリンはもう一体を攻撃地点へ誘導していく。


幼体たちは鈍く動かない。だが、ナイトと獲物の姿は途中から見えなくなった。


エルドリンは決断した。

《ファラフィグメント》を解き、姿を現す。

目の前に現れた人影に、ディープバイトは驚愕したが、すぐに顎を開いて噛みつく。エルドリンは身を翻してかわす。そこへ雄叫びと共に仲間の攻撃隊が突撃してきた。


風精霊の力を借り、エルドリンは空へ舞い上がる。


氷結の裁き


その頃、上空のソレンディルは杖に魔力を込め、範囲を定めていた。幼体十二体と卵二十個――まとめて葬る。


「……もう少し……」


炎や爆裂系は使えない。上空を巡るウィズドムウィングに感づかれるからだ。

だからこそ氷結。過剰なまでの魔力を注ぎ込んだ。


そして、エルドリンが現れた瞬間――。


「――《フリージング・フィールド》!」


凍結の波が一瞬で湖岸を覆い尽くす。銀白に染まる世界。幼体も卵も、絶対零度の静寂に閉ざされた。


激闘


一方、ナイトは別の成体と渡り合っていた。噛みつきに合わせて後方へ飛び退き、空を噛ませる。まるで追いかけっこだ。


「すげぇな……よくあんな怪物を相手にできるもんだ。」

「ナイト、遊んでるみたいですね!」

「よし、行くぞ!」


ガルムとソフィアが尾の方へ突撃する。

ガルムの大剣が皮を裂き、ソフィアの手刀が肉を貫く。だが厚い脂肪と筋肉が阻む。二人の攻撃は致命打にならない。


そこでソレンディルが幻術を放ち、多数の敵を見せる。ディープバイトは混乱し、動きが乱れる。


「そんな暇はねぇんだ!」

ガルムが再び斬り下ろす。重力石の力を込めた一撃が尾を両断。血飛沫が舞う。

同時にソフィアの手刀が横腹を貫き、血が噴き出した。


ソレンディルが捕縛魔法で顎を縛る。


その瞬間――エルドリンが空から舞い降りた。

剣が閃き、首筋を一閃。

巨体の首が断ち切られ、ディープバイトは絶命した。


「よし!」

血まみれの顔でガルムが吠えた。


「……他の連中が無事か、確認に行くぞ!」

〈アンブレイク・ハート〉は走り出した。


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