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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
19/91

19、エルドリンの変化

夜が明け、薄い靄が森を包んでいた。

エルドリンたちは起床後、手際よく支度を整える。朝食はホワイトシチューに焼きたてのパン、桃を添えた簡素なデザート。ナイトにはファングロウの肉を与えた。


静かなひととき――そこへ、昨日と同じように「ファイヤーファイター」のリーダーが姿を現す。


「おはよう」

「おはようございます」

「今日は二隊に分かれて進む。アンブレイク・ハートは遊軍として後方を頼む」

「了解しました」


彼の顔は昨日より晴れやかで、確かな自信が漂っていた。昨日の教練が無駄ではなかったことを、エルドリンは感じ取った。


「明日には湖に着くだろう。逃げた魔獣は通り過ぎたが、成体や群れが残っている可能性がある。気を抜くな」

その言葉に、仲間たちは黙って頷いた。


テントを畳み、討伐隊は湖への行進を開始した。


討伐隊の布陣


この日は二隊編成。各隊九名、二人組で五列を組み、四列目にヒーラーを配置。列間は前後一メートル、左右二メートル。奇数列と偶数列をずらし、前線が崩れても二列目が即座に加勢できる陣形だ。


先頭には気配探知に優れるナイト。ソフィアはヒーラー列に加わり、ナイトの念話を伝える役を担う。殿にはガルム、ソレンディル、エルドリンが横一列に並んだ。


森での交戦


進軍中、討伐隊は数度の戦闘に遭遇した。ファングロウの親子、ブラッドファングの群れ――。


だが今回は違った。

ナイトの早期警戒で全員の動きが速く、タンクが敵の攻撃を受け止め、アタッカーは数的優位を保った。魔法による撹乱も効果を発揮し、攻撃と防御が自然にかみ合う。


ナイトは鋭い爪で敵を翻弄し、ガルムは盾を構えて最前線に立つ。

ソフィアは強化と回復で味方を支え、ソレンディルは的確に魔法を指揮。

エルドリンはデコイとなって敵の注意を引き、仲間に隙を作らせた。


討伐隊は、昨日とは比べ物にならないほど組織だった動きを見せた。


エルドリンの想い


戦闘の合間、エルドリンは思う。


軍隊には役割があり、訓練された連携がある。だが冒険者は個人の集団であり、パーティー間の協力は脆弱だ。そこに統率を求めても意味はない。


「余計なことは考えず、自分の役割を果たせ」

ガルムとソレンディルの言葉が胸に響く。


個が強ければ、集団は足し算ではなく掛け算となる――。

彼らが今なお生き残り、最上位冒険者として名を連ねているのはその証だ。


だから湖に着くまでは、無理に策を示すつもりはなかった。ただ、討伐隊が全滅しては本末転倒だ。エルドリンは義理として彼らを守る。副ギルドマスター・エレンディルに疎まれていても、それは変わらない。


そして、昨日の成果をもたらしたガルムとソレンディルに、心からの感謝を覚えていた。


ソフィアの視点


一方ソフィアは、休息中にナイトの傍らでエルドリンを見つめていた。


冒険者は個人主義の集団。体調も装備も自己責任。パーティーは互いの不足を補うが、敵は必ず弱点を突いてくる。無理をすれば守勢に回り、体力を削られて全滅する。


エルドリンは常に仲間を救おうとしてきた。だが他者の未熟さまで肩代わりするのは間違いだった。その結論に至ってから、彼は無理な救出をやめた。


しかし今――ガルムとソレンディルの存在によって、彼は変わりつつある。

討伐準備の提案に同意したこと。ナイトをテイムし戦力に加えたこと。かつての彼にはなかった柔軟さだ。


「これは歓迎すべき変化だわ」

ソフィアはそう信じ、静かに微笑んだ。


夜の会議


その夜、ガルムとソレンディルは簡易テーブルで語り合っていた。


「今日の動きはどう見た?」

「悪くない。だが……明日の相手はディープバイトだ」


二人は真剣な顔で討議する。

六メートル級の成体。厚い皮膚、強力な尾、吐き出す水鉄砲、そして重力魔法の可能性。

単独か、つがいか、あるいは群れか――最悪の想定も視野に入れねばならない。


「やはり索敵が必要だな」

「ええ。巣や幼体の有無を確かめなければ」


そこへエルドリンが現れる。ガルムが説明すると、彼は即座に頷いた。


「夜のうちに行いましょう。空からの索敵は昼だと他の魔獣を引き寄せる。闇に紛れて索敵魔法を使い、成体・巣・幼体を割り出す。地上はナイトとソフィアに任せ、ソレンディルの遮蔽魔法を掛けていただきたい」


「なるほど……夜襲で調べるのね」

「明日の朝には作戦会議が開ける。ガルム、伝達を頼めますか?」

「任せろ。攻撃手順も併せて伝えてくる」


三人は役割を分担し、各々の持ち場へ散っていった。


――こうして、夜の索敵が始まろうとしていた。

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