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エーテルリウムの黄昏  作者: お茶どうぞ
18/91

18、準備不足


翌朝、“アンブレイク・ハート”の四人は、夜明けとほぼ同時に目を覚ました。


まだ薄青い靄が野営地を包み、焚き火の残り火から立ち上る白煙が静かに揺れている。

遠くでは小鳥が短く鳴き、湖へ向かう風が草葉を撫でていった。


簡素ながら滋養に富んだ朝食が並ぶ。

焼きたてのクロワッサンは外側が香ばしく、割れば中から温かな蒸気が立つ。

厚切りのミートローフには肉の旨味が凝縮され、ソーセージは噛めば肉汁が溢れた。


市場で仕入れ、野営の火で温めただけの料理だ。

だが、連戦を重ねた身体には、これ以上ないご馳走だった。


食卓では自然と、昨日の戦いの話題に移っていく。


エルドリンは、歴戦の戦士ガルムと、経験豊富な魔法使いソレンディルに向き合いながら、

戦闘中の判断や立ち回りについて率直に意見を求めていた。


騎士としての経験は十分に積んできた。

だが、魔法剣士として少人数のパーティーを支え、導く役割を果たせているのか――

自問自答は尽きない。


ソフィアも静かに耳を傾ける。

自分に足りないもの、磨くべき部分を見逃さぬよう、言葉一つひとつを噛みしめていた。


強者は、ある日突然生まれるものではない。

日々の積み重ねと、地道な試行錯誤が、やがて血となり肉となる。


それぞれの成長


ガルムは、剣を握る指に力を込めながら、自身の変化を実感していた。


エルドリンから受けた剣術指南。

間合いの測り方、踏み込みのタイミング、攻撃に移る一瞬の判断。


ファングロウを一騎打ちで斬り伏せたのは、

単なる力任せではない。

学んだ技術を自分の中で噛み砕き、戦いに落とし込んだ結果だった。


(……まだ伸ばせる)


そう確信できることが、何より嬉しかった。


一方、ソレンディルもまた、自身の魔法を振り返っていた。


無詠唱による即応性。

四重詠唱による複合魔法。


威力も精度も、確実に向上している。

だがそれ以上に、仲間の動きと噛み合ったときの“手応え”が忘れられなかった。


――戦いの振り返りは、課題の確認でもある。


彼女は静かに、自らに課した目標を一つずつ整理していった。


その語らいは、まるで駆け出しの冒険者が、

次の高みを夢見て語り合うような、熱を帯びたものだった。




食後、温かなハーブティーで一息ついていると、

“ファイヤーファイター”のリーダーが近づいてきた。


「おはよう」


「おはようございます。何か?」


彼は少し言い淀み、それから意を決したように口を開いた。


「湖へ向かう前に……自分たちの連携の未熟さを痛感した。

 君たちを見ていて思ったんだ。この遠征で、足を引っ張りたくない。

 戦術的な助言を、お願いできないか?」


エルドリンは一瞬考え、穏やかに微笑んだ。


「私よりも、実績のある二人が適任です。

 ガルム、ソレンディル、どうでしょう?」


「構わないよ」


ソレンディルが即座に頷く。


「引き受けよう」


ガルムも短く応じた。


リーダーは安堵の笑みを浮かべた。


「ありがとう。すぐに皆を集める」




こうして四つのパーティーが集結し、

討伐軍全員の前に、ガルムとソレンディルが立った。


まず、ガルムが口を開く。


「率直に言う。アタッカーとタンクの連携に問題がある。

 一つ、攻撃が敵の急所に届いていない。

 毛皮や脂肪に阻まれ、刃が浅い。武器の切れ味が足りないんじゃないか?」


“ファイヤーファイター”のリーダーが答える。


「ヴェリタス・ストーン製の武器は軍専用だ。我々の装備は違う」


「なるほど。だが改善は必要だ。

 エルドリン、付与魔法で切れ味は上げられるか?」


「可能です。エーテルリウムの奥義――“アフィラトゥ”があります。

 ソレンディルに伝授し、二人で全員分を施しましょう」


「よし。一つ解決だ」


ガルムは続ける。


「二つ目。タンクが前に出きれていない。

 そのせいでアタッカーが半歩遠い。刃が届かない。

 タンクを信じろ。命を預ける覚悟がなければ、死線は越えられない。

 この後、模擬戦で確認する」


冒険者たちの表情が引き締まる。


「三つ目。気持ちで負けるな。

 ソフィアの身体強化魔法は上位だ。

 身体は強化されているのに、心が追いついていない。

 強化された感覚を、身体に叩き込め」


言葉を締め、ガルムは静かに腰を下ろした。


次に、ソレンディルが前へ出る。


「私からも一言。


 ディープバイト戦を想定していたと思うけど、群生魔獣には対応が硬直していた。

 スピアバックに散らされ、混戦で混乱していたよね。


 合同レイドなんだから、パーティー単位に拘ると失敗する。

 後衛は互いに補い合って支援するのが最善だよ」


魔法使いたちが息を呑む。


「魔法は組み合わせだ。

 氷槍を突き立ててから爆裂魔法で破壊すれば、効果は倍増する。

 雷撃は重ねがけで威力を伸ばせるし、氷結と炎を合わせれば、肉体構造そのものを壊せる。


 魔法はイメージ。

 概念を形にする力だ。

 固定観念を捨てて、柔軟に想像してほしい」


魔法使いたちは互いに顔を見合わせ、深く頷いた。




話が終わると、エルドリンはソレンディルに“アフィラトゥ”を伝授した。


「奥義って聞くと身構えたけど、意外と簡単だね」


「術式がシンプルなので、応用が利きます」


二人は次々と武器に“鋭さ”を付与していく。


一方ガルムは、身体強化を受けた冒険者たちを集め、模擬戦を開始した。


ナイトがデコイとなり、盾が衝撃を受け止め、攻撃隊が斬り込む。

金属音と怒号、荒い呼吸が野営地に響く。


最初は強化された身体能力に戸惑っていた者たちも、

次第に限界まで力を引き出し、動きが洗練されていく。


「どうだ? 振り下ろしの速度が違うだろ?」


「……本当だ。今までにない感覚です」


ガルムは満足そうに頷き、再び号令をかけた。


「もっとだ! 限界まで使え!」


その声が、野営地に力強く響いた。




その日は一日中、訓練に明け暮れた。

夕食後も、各チームで改善点の議論が続いた。


“アンブレイク・ハート”の四人が、静かに食卓を囲む。


「……あれで良かったのか?」


ガルムの問いに、エルドリンは笑みを返す。


「正解だったと思います。明日が楽しみです」


「人に教えるのは、自分の鍛錬にもなるね」


ソレンディルも満足そうだった。


「意外と厳しいのね、ソレンディル」


ソフィアがくすりと笑う。


ガルムとソレンディルは、エルドリンに背中を押される形で指導役を担った。

味方を導く役目を果たす日が来るとは――

二人の胸には、静かな期待が芽生えていた。



焚き火の前にエルドリンが座ると、ソフィアとナイトが近づいてきた。


「ソフィア、ナイト、ありがとう」


「私は何もしてないわ。活躍したのはナイトよ」


「契約して正解だったな」


「ええ、本当に」


ナイトはソフィアの傍らで静かに眠りにつく。


焚き火が弾け、夜風が揺らす炎を見つめながら、

こうして――明日へと続く長い一日が、静かに幕を閉じた。

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