17、乱戦を制する
エルドリンとソレンディルが地表に降り立つと、周囲はすでに魔獣の残骸で散乱していた。
ソレンディルは軽く息を吐き、指先を振ると、大量のウィズドムウィングの死体が小さく圧縮されていく。
魔力で痕跡を消し、森の汚染を最小限に抑えた。
「空中戦は疲れる……。翼を持たない私たちに不利が多すぎる。
でも、これで地上戦に集中できるよ。」
彼女は小さく嫌な顔をし、空中戦の難しさを隠さなかった。
ナイトの首を撫でながら、ソフィアが言う。
「全部終わったら、湖でナイトを洗ってあげましょうね。」
「いい考えですね。戦場の汚れは身体にも良くありませんから。」
エルドリンが頷いた。
空気が落ち着く間もなく、彼はすぐに全員へ指示を飛ばした。
「他の冒険者チームが押されています。援軍に向かいますよ。」
「そうだな。本番前に味方が減っちまったら、もともこもねぇしな。」
ガルムが大剣を担ぎ直す。
「行きましょう、気合入れて。」
パーティー"アンブレイク・ハート"は再び奥へ進んでいった。
森の奥、怒号と悲鳴が響いていた。
他パーティーは、数の多いグライムファング(狼の魔獣)を捌ききれず、
さらに巨体で俊敏なファングロウ(熊の魔獣)に押し潰されそうになっていた。
「おい! 相手は俺だ!!」
ガルムの咆哮が森を震わせるように広がり、ファングロウの視線を奪う。
その刹那――
ナイトが低い唸り声を上げ、ガルムとファングロウの間へ疾走して割り込んだ。
「グルァァァォォォッ!!」
ナイトが威嚇の咆哮を出して、敵の集中力を散らした。
囲まれているパーティーは防御に追われ、手も足も出ない状態だった。
エルドリンが刀を抜くと、刃が雷光をまとって青白く輝いた。
「抜刀!」
瞬間、雷鳴が森を裂く。
エルドリンは一歩踏み込むと同時に姿を消し、
次の瞬間、グライムファングの背後に回り込み、後脚を斬り裂いた。
刀は皮膚を破り、筋肉に到達し、電撃が全身に流れ、心臓が焼き切れた。
雷光の斬撃により敵が倒れた。
倒れる。
また倒れる。
一体、二体、三体――
十体目が崩れ落ちた頃には、敵の包囲は完全に破られていた。
「助かった……!」「こっちだ、早く!」
パーティーの中心まで到達すると、ソフィアが素早く治癒に入った。
「光よ、癒しの円陣……! スタミナも補充します!」
温かな魔力が広がる。
負傷者は怪我が治り、再び立ち上がり、武器を握り直し、意気を取り戻して戦列へ戻っていった。
劣勢だった戦況が、徐々にひっくり返っていく。
ソレンディルは、炎と雷の複合魔法を繰り出し、ファングロウを威嚇して接近を阻む。
立ち上がったファングロウは五メートル近い巨体。
ガルムは真正面から睨み上げ、刃を構える。
巨獣が威嚇の雄叫びを上げた瞬間――
ガルムは平正眼から大きく踏み込み、右脇下を抜くように鋭く斬り上げた。
「この高さだと、脇が甘いんだよ!」
返しの爪撃が迫る。
だが、ガルムはすでに敵の死角に潜り込んでいた。
剣が右側の厚い皮膚を裂き、外腹斜筋を切断。
感触が腕に伝わると同時に、ガルムは背後へ回り込む。
バスターソードを振り下ろす。
ドシュッ!
背中から血が噴き上がる。
「どうだ、痛みで集中できねぇだろ?」
巨獣は怒りに任せて突進しようとするが、両脇が焼けるように痛むため力が入らない。
左爪が襲いかかる――。
『ガィィン!』
鍔迫り合い。火花が散る。
「言ったろ、俺はもう負けねぇって!」
ガルムは爪を弾き、左脇を大きく薙ぎ払う。
再び肉が裂け、巨獣はよろめきながら四つ足で構え直した。
「みっともねぇな!」
巨体が崩れかける。
「次で終わりだ!」
上段から振り下ろした一撃が脳天を割り、頭を真っ二つに裂いた。
巨躯が揺れ、大地を震わせて崩れ落ちた。
そこへエルドリンとソレンディルが駆けつける。
「ずいぶん派手にやりましたね。」
「こっちはいい運動になったぜ。」
「空の方は随分と苦戦しましたよ。」
「よくやった!」
すぐに次の戦線へ。
槍使いと剣士がファングロウと交戦していたが、攻撃は弾かれ気力も限界だった。
エルドリンが縮地で鼻先を駆け抜ける。
「こっちを見ろ!」
注意を奪われた巨獣の背に、ナイトが飛びつく。
広背筋に牙を突き立て、肉を噛み裂く。
「今だ!」
槍使いが左脇へ深く突き、剣士がその影から足を斬る。
だが、敵は暴れ回り、致命傷には足りない。
「見てろよ!」
ガルムがバスターソードにマナを集中させる。
刃に炎の紋章が浮かび、"炎の誇りを忘れるな" の文字が赤く輝いた。
右脇腹に振り下ろすと――
炎が傷口から吹き上がり、巨獣が苦悶の叫びを上げた。
冒険者の槍がその炎口へ差し込まれ、傷が大きく裂ける。
「よし!任せろ!」
ガルムが盾を構えて敵の攻撃を受け止める。
剣士は脇腹へ深く刃を入れ、
槍使いは脚の甲へ体重を乗せて刺し込んだ。
巨獣は痛みに足を跳ね上げ――
バランスを崩し仰向けに倒れた。
「かかれ!」
槍が心臓を貫く。
剣が口腔から頭部へ突き上げる。
とうとう巨獣は沈黙した。
エルドリンはすでに別のパーティーの援護に走り、ナイトと共に敵の注意を引きつけて隙を作っていった。
腹が露わになった瞬間――
「終いだ!」
エルドリンの雷刃が縦に走り、巨獣を沈める。
こうして一時間に及んだ死闘は終わり、
複合していた魔獣の群れはすべて討伐された。
素材はマジックバックに収められ、不要物はまとめて焼却。
日が陰り始めた頃、討伐隊はキャンプの設営に入った。
ソフィアは負傷者の治癒に回り、幸い重傷者はなし。
エルドリンは土魔法で浴場を作り、薬湯風呂を準備した。
返り血の感染症を防ぐためだ。
防水シートが張られ、皆が体を洗えるように整えられる。
ソレンディルとソフィア、エルドリンが浄化魔法で装備を清め、食事はパーティーごとに取られた。
ソフィアとソレンディルは女性陣に囲まれ、笑い声が絶えない。
焚火の側では、ガルムとエルドリンが向かい合っていた。
「どうでした、今日の戦いは?」
「俺は美味しいところを頂いたな。
ファングロウとの一騎打ちはやりがいがあった。」
「その後も見事でしたよ。」
「本番を考えりゃ、今のうちに他チームと息を合わせておかないとな。」
「ですね。準備期間は多くありません。」
森の夜は深く、静かに更けていく。
湖はもうすぐだ。
魔獣の脅威は続くだろう。
だが――ナイトの参戦により、討伐隊の戦力は確実に変わり始めていた。
ぎこちなかったチーム同士の連携も、
今では確かな信頼へ変わりつつある。
エルドリンはそう感じながら、静かに夜警へと立った。




