11、アンブレイク・ハート
ガルムは、エルドリンが槍を用いて、突き、薙ぎ払いを受け流す基本動作を体に教え込むように稽古していた。
集中して短く休憩を挟みながら繰り返し、盾を持って転がったり、体重を預けたりする動作を繰り返していた。
こうする事で盾の大きさ、どこまでなら受けれて、どうやって角度をつけて逸らすのか、頭で考えるより先に、体が覚えてくれる。
ガルムは新しい技術を吸収することに貪欲だった。
「昼食にしましょう。」
エルドリンが昼食の準備を終えて、二人を呼んだ。
三人は座ってソーセージの入った美味しい野菜スープとライス、それに果物を食べた。
「美味しいね。」
「それは良かった。」
ソレンディルが喜んで食べている姿をエルドリンが微笑んで見守っている。
「沢山食べて、スイッチをオフにして下さい。」
食後ガルムとソレンディルは、簡易テントの中でお昼の睡眠を取った。
エルドリンは食事の片付けをして、自分の訓練の時間に当てた。
練習した内容を早く吸収するには、適度な休憩を入れて、集中力のオンとオフを切り替えるのがこつだ。
これはエルドリンが騎士団での鍛錬でも使われた方法だ。
まず馴染ませる。目標を保たせて少しづつアップグレードさせる。
教官は繰り返しの訓練の中で、苦手な事項を確認して重点的に苦手項目を潰していく。
ソレンディルは魔道士としての才能が高く、魔法学校で教えられる位の経験値、学識がある。
きっかけを与えれば、後は自分で鍛錬のスケジュールを作り、進んで行く。
ガルムは盾は新しい分野になるので、エルドリンがつきっきりで基礎を教えて行くしかない。
しかし、歴戦の猛者は長い経験で盾役を見ていたからか、覚えが速い。
これならエルドリンは剣を使った近接戦闘の訓練に移った。
ガルムは夕暮れ頃には鍛錬の成果で、盾が体に馴染んできた実感が増していた。
「さすがですね。盾を体の延長として認識できているようです。
槍さばきや剣をいなす動きも自然になってきましたね。
次の段階に進みましょうか。」
「次の段階か……次は何だ?」
「ガルムに使っていた槍術や剣術は騎士団で習得した武術です。
対人戦を想定した戦術です。
バリエーションを少しずつ増やしていますが、もっと上を目指しましょう。
私がガルムと戦った時に、エーテルリウムの剣術を使ったこと、覚えていますか?」
「そう言えばそう言ってたな。」
「エーテルリウムの流派にはそれぞれ特徴があります。」
エルドリンはそう言うとエーテルリウムの各流派について体系を教えてくれた。
・力強い一撃を重視する流派
・速さと正確さを重視し、回避と迅速反撃を特徴とする流派
・剣にマナを集め、魔術と剣撃で必殺の一撃を放つ流派
・瞬時に姿を消し、不意打ちを得意とする流派
「エルドリンが見せた動きに合うものが、いくつもあるな。」
「そうです。これは対人戦用ではない剣術です。」
「なるほど。見たことがない動き、一撃一撃が強烈だった。
今度はそれを盾で受け止めろと?」
「いいえ。ガルムに、エーテルリウムの各流派の剣術をいくつかマスターして欲しいのです。」
「どういうことだ?」
「各流派を覚えることで、自分に合う剣術が見えてきます。
それを盾でどう防ぐか、どういなすか――考えに反映されるはずです」
「面白い考えだ。同じ鍛錬ばかりだと飽きるが、次のステップが見えるとやる気が出るな。
わかった。」
「それでは始めましょう」
ガルムはオーガである。体内のエーテル量は人間とは比べものにならず、マナも扱える。
ただ、戦闘魔術を学んでこなかっただけだ。
そのことを思うと、ガルムは自分が強くなる想像だけで思わず笑みがこぼれる。
ソレンディルとガルムは、エーテルリウムが創り出した古代の技術に尊敬の念を抱いた。
また、それを習得したエルドリンの器量に畏怖を感じた。
こうして二人のツーステップは始まった。
その夜の夕食は、牛肉のホワイトシチュー、ほうれん草のおひたし、塩パンだった。
慣れない新しい鍛錬で疲れていた二人も、温かいシチューでひと息つく。
「エルドリンのこと、聞いてもいいか?」
「構いませんよ。話せることなら」
「貴族の三男が騎士団に入るって、親は反対しなかったのか?」
「反対されませんでした。父が騎士団長だったので、息子にも騎士団に入って国防に携わってほしいと思っていたようです」
「それが冒険者として国を出るっていうんだから、落ち着かないだろ?」
「そうでもないですよ。自分の人生は自分で切り開け、と常日頃言われて育ちました。今回も理由があって旅立ち、仲間も得ました」
「国に残した恋人とかはいないのか?」
「いません。ガルムは?」
「俺もいないな。夢中で村を出ちまったからな。」
「私もいないよ。」
ソレンディルはふふんと答える。
何気ない会話に興じる三人。
「ソレンディルのツーステップはどうだ?上手く行きそうか?」
「考え方は分かるけれど、まだ時間が必要ね。
実戦でかなり使える方法だから、マスターしてみせるよ。」
「俺も時間はかかるが、体が覚えるまでやるさ。
それにしても、エルドリンは一人でマスターしたってのは、やっぱり凄いやつだな。」
「騎士団や魔法学校で習った事に限界を感じていました。
“エーテルリウムの夢”を見始め、夢中で鍛錬しました。
素質があったのか、鍛錬し始めて5年経ちました。
マスターできたとは思いますが、自分の実力は自分で測れません。
二人が来たのはそんなタイミングでした。」
「なるほど。教え方も例えも分かりやすくて、毎日自分の問題点が見える。
付き合ってくれてありがとうな。」
「いえいえ、こちらこそ雲を掴むような話に付き合っていただき、ありがとうございます。」
夕食後、二人は風呂に入り、参考書を読んでから就寝した。
翌日から二人は、ツーステップの技術を練習すること二週間が経過した。
エルドリンは二人を連れて森に狩りに出た。
獲物は大きな角を持つ雄鹿。
雄鹿は人間に気づかぬ限りおとなしいが、気づくと体に似合わぬ素早さで逃げる。
「アイスランス!」
ソレンディルは鹿の逃げる先に氷の槍を発現させる。
鹿が走り込む瞬間に発動。背中に刺さり、脚が止まる。
ガルムは素早く側面に移動し、剣を振るって首を跳ねた。
血を飛ばしながら鹿は倒れる。
付近にはまだ数頭の鹿がいる。
「ライトチェイン。」
頭上に雷撃を発現させ、鹿を倒す。
他の鹿が走り出そうとすると、盾を構えたガルムが受け止める。
体重200kg級の突撃をいなし、怯んだ鹿の顎を盾で持ち上げ、エルドリンが脇から突く。
鹿は次々と崩れ落ちた。
「中々良いんじゃないかな。」
「そうですね、効果的な連携ができています。」
「どんどん行きますか!」
午後3時まで獣相手に狩りを続け、獲物は血抜きしてアイテムボックスに収納。
森の外で夕日が沈む前にテントを張った。
夜、食事をしながら今後の方針を話す。
「エルドリン、今後の予定は?」
「一度街に戻りましょう。狩で得た肉は肉屋に卸しましょう。
冒険者ギルドにパーティー登録しましょうか。
難易度の高い依頼をいくつか受けてみませんか?」
「それは良いな。獣より強い魔獣で、習得したことを試すんだな?」
「そうです。高難度依頼をこなしてから旅に出ましょう」
「旅の初めの目的地は?」
「中央部のミスティクレスト公国です。迷宮都市シャドウゲート・シティには強いモンスターが出ます。古い遺跡もあり、エーテルリウムの情報が得られるかもしれません」
「パーティー名は?」
「折れない心、アンブレイク・ハートはどうだ?」
「ガルムにしては良い提案だね。」
「今の自分に負けたくないんだ。
エーテルリウムの剣術をマスターし、盾役もこなし、火焔と重力を使った剣術を自分のものにしたい。
自分に向けた言葉でもある。」
「分かる。目標ができると気分も変わるものだね。エルドリンもそれで良い?」
「良いと思います。それでは明日、街に向かって出発しましょう!」
三人はエールの入ったジョッキを重ね、乾杯した。




