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白の王子  作者: 櫻塚森
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MIDNIGHT SUN

「ここは、月明かりが弱いけどルル大丈夫?」

月の神々の加護を持つルル。ラーネポリア王国には四つの月が常に天にあり、四つの輝きが各々の周期で強くなったり弱くなったりする。

月が輝くのは夜であるものの、ラーネポリア王国では二つの太陽と共に昼間も天に輝いている。

そんな月明かりがルキリオが飛ばされた世界では弱いようだった。

四つあるはずの月もぼんやりだが一つしか見えない。

『大丈夫だよ、月の神様は、いつもルルと一緒にいてくれてるから。でも、今天に居られるのは、エリュトロン様だから、いつもよりはパワー少なめかも。』

エリュトロン様しか見えていないと言うことは、

「ここは、ゼノア国?」

魔獣の森を抜けた先にある人族が中心の国。

数十年前まで厄災は魔界からの侵略行為だと信じていた国。

人族至上主義を掲げており、魔族、妖精族、獣人族を敵対視している上層部が政治を行っている国だ。

そのくせ魔界や妖精界との交流が盛んで豊かな隣国ラーネポリア王国に強い執着を持っており何とか国そのものを手に入れたいと腹の中で考えている。

ラーネポリア国王は、代々隣国とは積極的に関わらない方針と決めている。親身になればなる程、相手は図々しくなってくるので、余程の緊急性がない限り、厄災への騎士の派遣もしない。一般の民ならまだ守ってもいいが、偉そうな王侯貴族とは関わりたくないのである。

ラーネポリア王国がゼノア王国に良い印象を持っていないのは、あちらも分かっているので厄災への支援要請ぐらいしか連絡はこない。ラインハルト国王も歴代の父王も積極的に関わりたいとは思っていないのである。だいたい隣国との間には広大な森が物理的な壁となっており、人族には中々に難しく交流は此処百年ないと言っていい。

ラーネポリア王国と比べて魔力保有量からして少ないゼノン王国などの人族の治める国は、実力のある冒険者と言ってもラーネポリア王国や魔界、妖精界で活躍する冒険者と人族の冒険者ではランクにかなりの差があり純血の人族の冒険者のSランクは、ラーネポリア王国ではBランクに過ぎない。その事実を知ったゼノア王国は、人族としてのプライドにかけて、国の戦力強化のために編み出したのが〈魔術〉である。厄災に対して無力と言って良かった戦力も多種族と比べて少ない魔力を使った『魔法』ではなく、少ない魔力で魔法のような効果をもたらす『魔術』の開発に力を入れたことで底上げされたようだった。

多種多様の種族が暮らし、純血の人族の存在が稀有であるラーネポリア王国のことを数年前まで蛮族の住まう国と蔑んでいたこともルキリオは学んでいた。本でしか得られない知識だが、数百年前の厄災で人族の国とラーネポリア王国の間には人族の魔力では到底越えられない森が誕生してしまい今を生きる王子達には

『んー、かなぁ、ゼノア王国では月の神様への信仰がないから、神殿はなかったと思うけど、』

「ん?神殿?」

神殿と言うルルの見る方向に草臥れた石の建物があった。

『あの神殿には、エリュトロン様の息吹を感じるよ。』

とりあえず、行ってみることにした二人。道中で虫型の魔物の攻撃を幾度となく受けたルキリオの心は荒みそうだった。それはルキリオが大の虫嫌いだから。そんな彼らは荒れ果てた神殿で新たな出会いを果たすことになる。



「竪琴?」

聞こえてくる旋律。

ルキリオは足を進める。

荒れた神殿の奥、エリュトロンの柔らかな月明かりの差し込む先にいたのは、ルキリオが今まで見た中で一番美しい人だった。

艶やかで長い黒髪は床にまで届き、白い肌は月明かりで真珠のように輝いて見えた。

音を奏でる竪琴の弦を弾く指先がふと動くのを止めた。

「おや、珍しいこともあるね……。」

女性に声を掛けられてルキリオはハッとした。

「こ、こんにちは、あ、こんばんはかな。あ、あの邪魔してごめんなさい。」

演奏の邪魔をしたと謝るルキリオに女性は口角を上げる。

「人と会話をするのは久しぶりだ、で、この最果ての神殿に何の用だい?」

優しく微笑まれてルキリオの頬が染まる。

「あ、あのボクは、ルキリオ。ルキリオ・コーク・ラーネポリアと言います。ここは、最果ての神殿と言うのですか?」

自己紹介を始めた礼儀正しい少年に女性は更に微笑む。

その微笑みは月明かりのように心地よい波動をルキリオとルルに送ってくれているようだった。

「私は、スコタディーノーチェ。最果ての神殿っていうのは、私が勝手に付けた名前だよ。そうだね、私は、この神殿の守り人ってところかな?」

普段人見知りなところのあるルキリオだったが、女性と話をしたいと思っていた。

「ここは、さっき歩いて来た道より清浄な気を感じます。それがあなたの張った結界のお陰なら、勝手に入ってきてすみません。あなたは、ずっとここに住んでるのですか?ここは、月の神様の力を感じます。他では感じなかったからゼノア国なのかなって思ったのですが、何処なのでしょう?ボク、帰りたいんです。どうやったら帰れますか?あ、この子はボク、あ、私の使い魔のルルです!」

やや混乱気味に早口のルキリオにルルが慌て出している。

『ルキリオ?落ち着いて!』

そんな二人に女性が声をかけた。

「そうだね、ではまず、落ち着いて、………先に教えてくれないか?」

矢継ぎ早に質問してしまっていたことにルキリオはハッとした。ますます真っ赤になる。

「今は、何年の何月かな?」

「えーと、ラーネポリア王国での暦なら紅月二千二十四年の皐月です。……あ、えーと、すみません。ゼノア国の暦は分かりません。」

頭を下げるルキリオ。

スコタディーノーチェはクスリと笑う。

彼女は足元を指差す。

そこには、縦と横に削られた線が掘られていた。

「ここにも、うっすらだけど夜明けがあってね、数えてたんだ。」

百本以上の筋。

「私は、百年前からここにいる。ここでは、霞を喰って生きてる。不思議と腹は空かないんだ。」

百年と言う言葉に驚くルキリオ。目の前の女性は美しく若々しい。自身の母アヤカ妃よりも若く見える。

「八つの時にこの世界に放り込まれて、百年は経っている。ここは随分と時の流れが遅いみたいでね、この姿になってからは成長が止まったようだ。元の世界には、私を知る者は既に死んでいないだろうね。そうそう、質問に答えなくてはね。ここは、ゼノア国に起きた厄災が開けた異空間かな。元は、ゼノア国にあった唯一の月の神殿が立っていた場所。厄災を恐れていたゼノア王国の国王は、捕らえていた奴隷を贄に厄災の軌道を変える魔術を生み出した。厄災は誰にも止められない神のくしゃみのようなものだけど、大量の血が好みだからね。これまた沢山の犠牲で魔術を編み出して、月の神殿に上手く誘導したらしいよ、普通なら変えられない。けれど多くの人々の命を贄に無理矢理、厄災の出口を月の神殿に変更した。月の神の力があるのなら厄災すら受け止めるだろうってね。ゼノア王国では太陽信仰が盛んで月は魔族信仰の象徴とされていてね、月の神殿をボロボロにしても許されると考えていたようなんだ。けれど、聖なる場所に厄災と贄にされた人々の血と怨嗟をぶつけたことがいけなかった。当時のゼノア国王は呪われてしまってね、太陽信仰の神官に太陽神も見かねて神託を降ろしたんだ。月の神の怒りを抑えるために、誠心誠意祈りを捧げよってね、でも今更、月に祈りを捧げるなど彼のプライドが許さない。そこで、私が選ばれたんだよ。月の神の怒りを抑えるため、呪いを解くには生贄を捧げなくてはならないってね。」

何とも馬鹿げた話である。

「ど、どうして……。月の神様達は、生贄なんか求めないよ!」

力強く反論するルキリオ。

「そうだね、私もそう思うよ。私はね、人族にしては、魔力保有量が桁違いでね、で、黒髪に金色の瞳だから疎まれてね。生まれた時から魔力封じの首輪を付けられて育ったんだ。父は、見た目から私を忌み嫌い私を不貞の証として、実母を殺した。私も殺そうとしたけれど、何せ桁違いの魔力のせいで殺せない。で、首輪を付けたんだけど、付けたところで殺せなかった。だから、丁度良かったんだ、彼らにとって私を贄にするのは。太陽神に祈りを捧げることも禁止されていたから、私にとって神様と言えば月の神様だから、神様が望むのであれば喜んで死のうと思っていた。その頃の私は、痛め付けられてほぼ死にかけてたからそれも丁度いいと思われてたんだほう。でもね、実際に穴に放り込まれて落ちて行く中、月の神様は優しくてね、私の怪我を治してくれて、魔力封じの首輪を外してくれて、寂しくないように相棒を付けてくれた。」

ニコッと笑うスコタディーノーチェ。と同時に立っている地面が揺れた。

「あ、帰ってきたみたいだね。」

近付いてくる気配にルルが動きを止めた。





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