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白の王子  作者: 櫻塚森
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伝えられるなら

「おや、まぁ……こいつは……。」

アヤカ妃は生まれた子を見て思った。自分の因子を確実に引いているなと。

真っ黒い鱗に覆われた体。生まれた直後より始まった変成に本来の肌の色も髪の色も見ることなく過ぎてしまった。

産婆に視線を送っても申し訳無さそうに頭を振った。

「どうでありんす?」

もうすぐ産み月の腹を抱えてやって来た双子の姉サヤカ。

その後ろには真っ黒な毛玉を抱えた侍女がいる。

四人の妃が順序よく婚姻式を終えたのは二年前。ミライア妃がめでたく王太子となる王子を生んだのを皮切りに約一年前にサヤカも王子を生んだ。そして、この度アヤカ妃もめでたく出産となったのだが、またしても王子だった。

「いや、だから男だろうって言ったやん。」

王子だと聞き、姫を熱望していた国王ラインハルトは嬉しいが複雑だと言いながら退室していった。

「それにしても真っ黒でありんす。まぁ、わっちらのこともありんすから、黒髪かもしれないけど。」

変成期後の姿に関して、今までの定説として、変成期での色合いとは真逆の色をまとった姿になると言われていた。しかし、サヤカもアヤカも変成期前後の色合いは変わらなかった。

「鱗に覆われてると言うことは『龍』の因子持ちか?」

幼い子供を抱きながら入ってきたのはミライア妃だ。

「「姉様、」」

「お疲れ、アヤカ。」

近寄りアヤカの頭を撫でる。

「龍か、蛇か、蜥蜴かはわからへんけど、健康に育ってくれたら、そんでええよ。」

愛しい存在だと心から思えるアヤカ。

「まぁ、可愛いぃ。」

次に入ってきたマルティナ。

獣人族から嫁いできた彼女は四妃の妹的存在で本来ならラインハルトの第一王妃として就く予定だったが、度重なる理由により第四妃まで位を落とした『悲劇の王妃』と世間では言われている。しかも獣人族は生命の神に愛された種族と言われており子宝に恵まれる星の下にあるともされているのに、四妃の中でただ一人身籠ってないため噂に輪を掛けていた。

本人的には、

「赤さまはぁ、神様の気紛れで授かるものですよぉ、それにぃ、私はぁ、赤さまなら、どんな子でも愛せますの、自分の子が生まれるまでにぃ、お子達の教育方針をまとめとかなきゃって、その時間が出来て嬉しいですぅ。」

とのこと。

「この子も男の子っぽいのよね、」

腹を擦りながらサヤカ妃は言う。

「教育係には体力が必要ですねぇ、因子を想像して選別作業に入るべきかしらん。」

考えるマルティナ。

純血の人間族以外は、魔族に限らず、この世に生まれた者はほぼ何らかの因子を持っている。

妖精族の血が濃い者は精霊の因子を持っており精霊の属性によって得意な魔法が違ってくる。

「でも生まれてくるまで因子は分からないし、生まれて因子鑑定してからでええんとちゃう?もしくは、使い魔の卵が出来てからで。」

一歳になったショーンが生まれたての子供に手を伸ばす。

「どうした?ショーン。」

あうあう言っているショーンの元に金の鬣を持った子猫が現れた。

「シルヴィ、訳せるか?」

ミライア妃が自身の使い魔を呼び出す。精霊の因子を持っていても精霊を使い魔として迎えた者は確認されていない。ミライア妃の使い魔は綺麗な羽を持つ大型の鳥で今は肩に乗るサイズになっている。

現れた子猫はショーンの使い魔で、何かを伝えようとしているのだが、生憎使い魔の言葉は主にしか分からない。その為自身の使い魔を通して会話を行うことになる。

『ショーンの使い魔は、生まれた赤子の使い魔は直に現れると言っている。』

シルヴィの言葉を皆に伝える。

『月の神々の加護を持つ使い魔が来る。』

シルヴィの言葉にミライア妃が固まった。

「ミライア姉様ぁ?どうなさったのぅ?」

「つ、月の神々の加護持ちの使い魔を得るらしい。」

四人の妃がショーンの使い魔ヤーヌを見る。

この世界には、二つの太陽と四つの月があり、それぞれに神がおり神獣とは違う神の加護を得た使い魔が数年に一度現れると言われている。ショーンの使い魔ヤーヌは、太陽神一柱フリサフィスの加護を持つ使い魔だ。因みにもう一柱の名はアシメニオスと言う。

「なんと、どの?」

四つの月の内、青い月をキュアノエイデス。紅い月は、エリュトロン。金の月は、クリューソス。銀の月はアルギュロスと呼ばれ、其々の神の名前となっている。

「それは、生まれてみないと分からないって。」

アヤカ妃は真っ黒な塊の我が子を抱き締めた。


真っ黒な鱗に包まれた体で生まれた王子はルキリオと名付けられスクスクと育った。

二年後には、タクリオと言う弟も生まれた。

「ルル、遊びに行こう!タクリオとポポも!みんな裏庭にいるよ!」

王子達は仲良く遊び、学び育っていた。

ルキリオが生まれて三年後には、第四妃マルティナに待望の双子が生まれた。これまた王子で同時期にミライア妃も五年ぶりの懐妊、出産で十人の王子が生まれた。民は、めでたいが、多くね?と少々呆れていたが、王家の力が強ければ厄災への備えも強固になり安泰である。平和なら言うことなしなのであった。

十二歳になったルキリオはそろそろ変成期も過ぎ魔力も安定し姿も随分と変わっていた。

真っ黒だった鱗の下には白い肌があり、これまた黒かった髪は生え際から徐々に白く変化していた。鱗の剥がれた顔は美しく、白に近い銀の瞳も人々を魅了していた。

使い魔のルルは、ショーンの使い魔ヤーヌの言っていたように月の神々の加護を持つ使い魔であった。普段は小さな白い蛇の姿をしているが、力を解放すると龍となる。龍はすなわち神獣。ただの魔物ではなかった。

弟のタクリオもまた龍の因子を持つ子であったが、使い魔はレッドドラコンである。普段は、赤とピンクの蜥蜴に擬態して常にタクリオのポッケの中で寝ている。使い魔の暮らす空間〈隠れ家〉にて過ごすことの多い使い魔達だが、ポポはタクリオのポッケの中が大好きなのだ。

二人は東宮にある庭に駆け出す。

「遅い!」

同い年の異母弟ジュンリルがブンブンと手を振っている。同じく異母弟のケイリルも二人の兄も揃っていた。

タクリオ以下の弟達はまだ庭ではしゃぐほどの魔力コントロールを身に付けていないと言うことでお庭デビューはまだであった。

「今日は何をするの?」

車座になった王子達の真ん中にブリキの箱があった。


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