第一章「黒炎の煌めき」5
緊迫した戦闘が終わると共に、麻里江と雨音が心配して茜に駆け寄っていく。
雨音は両手をかざし、茜の傷ついた腹部や腕に意識を集中させると熱を持った光を放つ治療の魔法をかけ始めた。
魔法と呼ぶにふさわしい超能力の中でもヒーリングが扱える魔法使いは限られる。
雨音はどうやらヒーリング治療に長けた素質を備えているのだろう。
戦闘にあまり参加している様子がなかった事を見ると間違いなさそうだ。
私が後方からそこまでの様子を観察しながら考えていると、不意に戦闘が終わったばかりの茜と視線が重なってしまった。
「せ、せんせい……?」
これはマズイと思った。
結界内に潜り込んで覗いていたのを気付かれたかもしれない、そう思い私は息を殺してその場から背を向けた。
三人に見つからないように隠れながら立ち去る途中、三人の会話が耳に入った。
「どうしたの? 茜?」
こちらを見つめる茜の様子を見て、治療を続ける雨音が心配そうに言った。
「いや……そこの木陰に稗田先生の姿が見えた気がして……」
恐らく……不思議そうにしながら木陰の方を茜は見つめている。
「まさか、ファイアウォールの中で私が気付かないわけないよ」
確かに巫女装束を着た麻里江の言うとおりだろう、通常であればこれだけ近くにいれば気付くに違いない。それだけの能力を彼女は間違いなく持ち合わせている。
だけど、私は”普通の人間”ではない。
彼女たちと同じ、特別な力を持った——魔法使いなのだから。
あまりに興味深い、刺激的な光景を偶然にも目にしてしまった。
私は自分が特別な力を持った魔法使いであること。この真実を三人には悟られたくはないので、息を殺して公園の外へと逃げ帰ったのだった。