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14少女漂流記  作者: shiori
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第一章「黒炎の煌めき」4

 途切れることなく続く、彼女たちによる命を懸けた戦いの模様を私は見守る。

 

 その中でも茜の動きは無駄がなく、次々と黒い影を浄化させ、闇に消し去っていく。


「七つ目!! はぁ……はぁ……これで後は大型の魔物を残すのみね」


 さすがに疲れがあるのか、大きく息を吸って吐き、呼吸を整えて次の大型の魔物との戦いに向け、茜は備えているようだった。


 ここまでは順調に進んでいると言ったところだろう。

 身体に傷一つ付けられることなく戦い続けている。


「茜! まだ相手の正体が見えない。このままじゃ危険よ。

 私が先に攻撃するから、その後で仕掛けて!」


 残ったゴーストが二メートルを超える大型であるが故に慎重になる、黒い影に全体が覆われその正体も攻撃手段も分からない。言葉を掛ける麻里江の心情もよく分かるというものだ。


「あの魔物、もう融合は完了してるみたい。

 魔力の増大は確認済みだよ、二人とも気を抜かないで!」


 雨音が茜と麻里江に向けて声を掛ける。

 彼女たちが魔物と呼んでいる大きなゴーストは、いくつもの霊体を取り込み、融合しながら魔力を増幅させているのだろう。

 通常よりも強敵であるに違いない、二人が警戒するのは当然の流れだった。


 死後、恨みや妬み、負の感情を持った生物の一部がゴーストとなって現世に留まり、呪いを巻き散らす。それらは普通の人には見えず、様々な異変となって人体に悪影響をもたらす。

 

 これだけ大きく融合したゴーストであれば、甚大な被害を巻き散らす危険があると想定できた。


「うん、あたしもここからは本気でいかせてもらうよ。

 長期戦にはしたくないからね。早く終わらせて、家に帰ってゆっくりお風呂に浸かりたいよ」


 庶民的な願望を茜は発言して、大剣を構えた。

 

「そうだね、同感だよ。それじゃあ、早く仕留めるよ。

 レイジングアロー展開! ターゲット捕捉します!」


 麻里江が覇気のある調子で後方から正面に大きなゴーストを捉えると、どこからともなく弓と矢を召喚した。

 弓を引く構えをして、矢を正面に向ける。


「麻里江、遠慮せずお願い!」


 雨音の声を聞き、頷いた麻里江が真剣な眼差しでゴーストを捉える。

 私からはなかなか表情までは見えなかったが、麻里江の瞳が”魔法使い特有の宝石のような輝きを帯びている”のが伺えた。覚醒を果たしている証拠だ、彼女もまた特別な力を与えられた魔法使いということだ。


「いきます! レイジングアロー! シューーーートっっ!!!!」


 気合いを込めて、勢いよく魔力の宿った矢を放つと、矢はそのまま黒い影に吸い込まれると同時、爆音を鳴らし発光するように強い光が辺りを包み込んだ。


 爆弾のような衝撃であった、その証拠に煙まで辺りを立ち込めていて、想像以上に強力な威力を持った一撃だったようだ。


 しかし、それで邪気が消えることはなかった。むしろ、今の一撃で目を覚まさせ、強い霊力が立ち込める結果となった。


「随分、お元気なようね……」

 

 麻里江が残念そうにしながら、弓を下ろして呟いた。


「いいよ、後はあたしの番だから」


 恐怖心など微塵も表に出す様子なく、茜は言い放った。


 煙が段々と四散していき、イソギンチャクようなシルエットをした大きなゴーストが正体を現した。

 禍々しいこの世のものとは思えない醜悪な魔物。

 だが、その化け物に驚くことも、怖気づくこともなく、茜は大剣を両手で強く握り意識を集中させた。


 ガーネットのように緋色に輝く瞳。

 闇夜に明かりを灯すように、茜が意識を集中させると剣先から炎が立ち込め始めた。

 煙たい匂いを立ち昇らせながら、勢いを増していく炎。


「このファイアブランドに浄化できないゴーストはいないよ!」


 精神を集中させたまま呟く茜。浄化の炎、焔を纏ったファイアブランドと彼女が呼ぶ大剣は、私でも分かるほど強大な魔力を帯びていて、これが彼女が自信もってゴーストに立ち向かう切り札であることが伺えた。


 粘液を身体中から小刻みに飛び散らせ、小さな触手をニョロニョロと生やすイソギンチャクのような大きなゴースト。

 一人で立ち向かうにはあまりに分の悪い賭けのように見えるが、それでも茜は臆する様子なく、風を切るような高速で目の前の化け物に向かって飛び掛かっていった。


 そこから先の光景は、さらに常識を遥かに超えたものだった。


 紅蓮の炎を纏ったファイアブランドがゴーストの肉体を次々と切り刻んでいき、あっという間に化け物は立ち昇る炎に包まれていった。

 だが、一方的に攻撃を受けるだけの脆弱なゴーストではなく、触手を器用に伸ばし何度も茜の足や腕に巻き付いていく。茜はそれを歯を食いしばっては耐え、必死に腕を振って触手を切り刻んでは振り払い、チャンスを見つけては胴体に向けて一閃を加え、優位に立とうとダメージを与えていく。


 息を呑むほどの攻防が繰り広げられる。この死闘に間を割って介入しようものなら、それこそ邪魔にしかならないほどだ。


 イソギンチャク状のゴーストが巻き散らす粘液のような紫色の液体が茜の衣服に当たると急にそれは蒸気をもたらし、衣服が溶けるとともに茜の綺麗な肌を赤く腫れ上がらせた。


「くぅぅうっぅぅ!! ああああぁぁぁぁ!!」


 激痛が粘液を浴びた左腕や腰を襲ったのか、茜は表情を歪ませ痛みに堪えながら大きな声を上げた。


 その様子を見て「――茜!!」と麻里江と雨音が心配そうに大声を上げる。どれほどの痛みが茜を襲ったのか、想像するだけで胸が苦しくなり、恐怖で身の毛のよだつほどであった。


「あたしは! 負けられないのよ!! はぁぁぁぁぁ!!」


 必死に痛みを堪え、次の瞬間には両手にファイアブランドを握り、縦の一閃を茜は繰り出していた。


 炎に包まれるゴーストが会心の一撃と共に一段と大きな断末魔を上げ、冥界へと向かって消え去っていった。


 茜は傷つきながら危険なゴーストを撃破し、その場で膝を付いた。


 炎による灯りのせいで日が沈んでいるにもかかわらず異様に明るくなった公園は再び静かで穏やかな夜の公園の風景に変わっていった。


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