序章3
自己紹介をさせていただきます、私は稗田黒江です。これから見て頂くこの”14少女漂流記”と名付けた手記は2029年に発生した舞原市での厄災を、それ以前から映像に記録したものです。
予備知識として改めて厄災について解説します。
初めて知ることも多く混ざっているかもしれませんので、そこはよく言葉を噛み砕いてください。
厄災は最初、舞原市全域を濃い霧で覆いつくしました。
その後、原因不明のまま電波障害が各地で起こる事態となりました。
さらに霧の正体も分からぬまま、舞原市に入る事も、舞原市から出ることも出来なくなっていきます。
ですが、この異変は始まりに過ぎませんでした。
世界から完全に切り離され取り残された舞原市は、人知れずインフラを失った先で、到底現実とは思えない悲劇が繰り返されていったのです。
そして、断絶された世界と世界が再び繋がった時には街は崩壊し、甚大な犠牲者を生むこととなりました。
舞原市の中で、何が一体起こったのか、多くの生存者が記憶障害になり今も明かされていません。
人為的な犯行か、自然現象による天変地異か、それすらも分からぬまま”厄災”と呼ばれるに至りました。
しかし、真相が闇の中に消えていく中、私は数少ない記憶を維持した生存者としてここにいます。
私は舞原市の中で起きた、悲劇の数々を多くの人々に打ち明けることのできないまま胸の内に閉じ込めてきました。きっと生きている間に公表することは叶わないでしょう。
厄災は記録上、14日間続きました。
私はここに14人の少女が活躍した史実と共に、14少女漂流記と名付け、ここに真実の記録を残します。
地位もあり、厄災の真実を知っているにも関わらず何故このような手記として残し、私の手で世間に真実を公表することが出来ないのか疑問に思うことでしょう。
しかし、それも仕方のないことです。私は政治家として厄災後の復興計画を最優先にして、これまで政治活動をしてきました。
瓦礫と化した舞原市を再び活気のある、安全な街に作り変える、それが生き残った私の背負った責務であり、宿命でした。
政治家である私が厄災の真相として超能力や人類の敵、ゴーストの存在を表に出したとしても信じるものは少ないでしょう。
私は状況を俯瞰して、まだこの経験を全世界に届けられるだけの、信用に足るだけの材料が足りないという見解を示しました。
結果的に、こうして密かに記録に残すだけでは責任を放棄することになりますが、後世に残る後継者がこの歴史を引き継ぎ、より良き社会へと繋いでくれることを願います。
それでは前置きが長くなりましたが視聴を始めましょう。私が凛翔学園に転勤するところから始まった、社会調査研究部に所属する三人の生徒との出会いの日から。