第二十九章「終末への激闘」1
奈月とアンナマリーを後部座席に乗せ、決戦の地へと向けて林道を走る。景色を眺めている余裕もなく、人気のないまま道を無言のまま、前回潜った地下水道の奥にあるという霊脈を目指し、車を走らせる。
焦ってどうにかなるものではないが、二人の士気が高い今の内にこの戦いを終わらせたい。死と隣り合わせの恐怖の連続に負けたわけではないが、そんな感情が沸々と湧き上がっていた。
普段からあまり口数が多くないとはいえ、終わりの見えない軟禁生活のような中で、疲れが取れず俺は口を開くのが億劫になるほどだった。だが、後部座席で座る二人は緊張はしているだろうが、重く暗い雰囲気になるのを嫌ってか、飽きることなく談笑を続けていた。
外見の美しさに反して男勝りな態度をしているアンナマリーと女子高生らしさのある可憐さとお節介なほどにずけずけと踏み込んでくる図々しさを持った奈月。
手入れなどを自分であまりしないアンナマリーに奈月は勿体ないと言いながらショートヘアの金髪を優しく櫛で梳いて髪型を整えてあげている。
確かに口を開かなければアンナマリーは端正な顔立ちをした人形のようであるが、性格の方は無鉄砲で気性が荒い。出会った頃に比べれば人間らしくなったものだが、喧嘩っ早く女性らしさの欠片もない性格になってしまったのは複雑な心境だ。
二人は年齢こそ同じ高校三年生であるが、性格も運動能力も違う。
だが、二人が一緒にいる姿はアンバランスには見えず、戦闘時も無駄のない連携でお似合いに見えるのが不思議だ。
「マリーちゃん、花だよ。マリーちゃんの花を持ってきたから付けてあげるね」
有無を言わさぬ勢いで唐突に取り出したオレンジ色をしたマリーゴールドのリボンバレッタを髪に取り付け始める奈月。後部座席で密着した隣り合せた距離のまま可愛い可愛いとはしゃいでいるがアンナマリーは非常に迷惑そうに視線をそらした。
奈月としてはこの先に待ち構えている決戦に向けたゲン担ぎとして準備してきたのだろうが、アンナマリーは慣れない髪飾りを着けられ頬を赤く染めていた。
「こっちを見るなよ、変態教師」
「恥ずかしがることもないだから、よく似合っているじゃないか」
バックミラーで覗いただけで直接振り返ってみたわけではないが、俺の視線にアンナマリーは敏感に反応した。
奈月が満足そうにする姿を見て、アンナマリーも抵抗を止め観念したようだった。
ようやく雪は止んだが、寒さの厳しい中、アンナマリーの服装はほとんど変わらずデニムジャケットの下にTシャツを着て、黒のショートパンツにグレーのストッキングを履いてきている。見るからに寒そうだが、本人は感覚が狂っているのか、寒がる姿を見たことがない。
奈月の方は流石にクリーニングも出来ないので汚れた制服で来るのはやめてカーキ色のニットセーターを着ているが、下には短いスカートを履いてきていて素肌を晒している。この寒空にもかかわらず女という生き物は不思議なものだ。
狂った気候変動によって雪の降り積もった雪道を走行し、無事に目的地まで辿り着くと、車を降りて数日ぶりに近寄りがたい地下水道へと入っていった。




