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14少女漂流記  作者: shiori


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第二十四章「舞い降りた救世主」1

 ―――数時間前、山中のトンネル内にて。


「ちょっとっ! あんまり引っ付かないで、歩きづらいでしょ」


 舞原市に向かって懐中電灯を付けながら今は使われていない暗いトンネルの中を歩く二人だったが、必要以上に密着してくる羽佐奈に友梨は迷惑そうに注意をした。


「せっかくの二人旅なのに、友梨ったら愛想ないのね」

「あなたみたいに馴れ馴れしいのは苦手なのよ」

「スキンシップは人付き合いの基本じゃないの」

「だから、私はそんなに人付き合い慣れてないって」

「もう……つれないわね。こんないかにもって感じの心霊スポットに入る羽目になってるのに」

「そういうなら、少しは怖がってみなさいよ……」


 年齢も同じ、高校も同じだった二人による今回の旅。

 これまで多くのゴーストと二人で協力し合い戦ってきたが、口数は多い方ではなかった。

 それは友梨の物静かなところに原因があったのだが、友梨は自分のそういった性格自体、今更変えるつもりがなかった。


 長く放棄されたトンネルの中はジメジメとしていて、いかにも一般人からすれば”霊的な何かが出そうな場所”に他ならない。

 それは、状況から感じる恐怖感によって自分の中で霊的な存在を勝手に感じ取ってしまう現象が多いが、時にはその土地に住む幽霊を引き寄せてしまうこともある。


 だが、この場にいる日頃から霊を祓う霊媒師の役割も果たす二人にとっては、恐怖を感じるという感覚自体が、理解は出来るものの、遠い過去に置き去りにされてしまっている。

 それだけ、自分で悪霊を退散させられる力を持つことから来る幽霊を克服できている安心感のみならず、恐ろしい体験自体に身体の内側から慣れてしまっているのだった。


「それはそうと、友梨は勿体ないと思うのよね。男の一人でも作った方が今後のためよ? 年齢的にも」


 ルックスだけで言えばクールで整った顔立ちをした友梨は前向きにさえなれば彼氏が出来ると前々から羽佐奈は思っていた。だから、結婚して子どももいる羽佐奈は度々こういったことを友梨に小言のように口にしてきたのだった。


「余計なお世話。そういうことには興味ないのよ」


 身体を引き剥がしながら一喝して、迷惑そうにする友梨。

 懐中電灯が必要な薄暗いトンネル内は天井も低く声も異様に反響して響く。

 大きな声を出すとそれは顕著に感じられるが、明るい会話を続けている方が気が紛れ、恐怖も紛れるところだった。


「興味がないんじゃなくて、興味がないようにしてるんでしょ」

「今日はグイグイ追及して来るわね……」

「せっかくの二人っきりだからね。興味あることは今の内に聞いておかないと」

「なんて鬱陶しいのよ……あなた、段々おばさん臭くなってるわよ?」

「この私に悪口を言うなんて、十年早いわよ。友梨も同い年じゃない、ブーメランよブーメラン」


 親しい間柄の友梨相手には特に遠慮なく距離を詰める羽佐奈。

 今年で二五歳になる二人は、高校の頃から霊感のある者同士、自分の境遇を受け入れるためにも、人にはあまり言えないスピリチュアルなことに興味を持たざるおえなかった。

 そのことが友梨の場合は交流関係を狭めたが、羽佐奈は反対に知り合いを増やしていった。そこには友梨のような同世代の霊能力者やアリスプロジェクトのメンバー、それに夫である司の影響が大きかった。


「余計な会話は終わりよ、もうトンネルを抜けるわ」


 トンネルの先から漏れる僅かな光を見つけると、友梨は真剣な口調で言った。


「ここから深掘りしていくところだったのに」


 残念がる羽佐奈の視野にもようやくトンネルの先に出口が見え始め、念願の光が差し始めた。

 友梨はいよいよ結界を抜け舞原市に入ることになり、緊張感を高める一方、羽佐奈はまだ友梨との会話が中途半端で物足りない気持ちだった。



 望月麻里江が浮気静枝の住む洋館へと向かっていた頃、長いトンネルを抜けて、再び山道に出た二人。


 大きく息を吸い外の空気を満喫するが、お互い、舞原市に足を踏み入れるのは初めての事だった。


「トンネルを歩いてる時から感じたことだけど、何だか、変に寒いわね」


 周りの気配を逃さぬため意識を過敏にしていた羽佐奈は、水筒に入れていたスポーツドリンクで喉を潤してから、異様な寒さを感じていたことを告白した。


「異常なことはそれだけじゃないけど、その格好だと寒すぎるでしょうね」


 友梨はまるで異世界に迷い込んだような状況の異様さに思考が狂いそうになるが、羽佐奈の着てきた格好を見て夏服では厳しい気温だと感じた。


 目立たない地味な格好をしている友梨と正反対に、涼しげな緑色をしたノースリーブのワンピース姿をしている羽佐奈は身体が震えそうな寒さを感じ、寒さアピールに違いなかったが身体を丸くしている。友梨は上品な格好でやって来た羽佐奈を見て、それは寒いだろうとすぐに目をそらした。


「街全体を覆うほどのファイアウォールだから、何があってもおかしくないって思ってはいたけど、この寒さは想定外ね」


 今日最初に会った時は友梨に緑色の方が林道を歩くなら紛れられていいかもと冗談交じりに羽佐奈は話していたが、旅行に行くわけではない以上、向いているとは言えなかった。


 過去に類を見ない規模のファイアウォールで街全体が覆われている。どんな危険が待っているのか想像つかないことは既に承知の事だった。

 羽佐奈は慌ててバッグから白のカーディガンを取り出してそれを羽織るが、それだけでは寒さをしのぐのは難しかった。



「本当に、電波はトンネルに入った時から今もずっと圏外のままで、トンネルから出たら時計まで止まっているなんて、もう訳が分からないわよ」



 この状況にはさすがの羽佐奈も頭を悩ませるほどのお手上げ状態で、異変が始まってから日が経っていることもあり根が深い問題に直面していることを感じ取っていた。


「まずは情報を集めるのが先決よ。神代神社まで急ぎましょう」


 異常気象のような寒さに狼狽えている場合ではないと、友梨は羽佐奈を背中を押して構わず急かした。


 友梨からすればデートに来た訳じゃないのだから、こんなに上品な服装で来なくてもと思ったが、首に掛けたネックレスも左手薬指に光る指輪も、生きる世界が違うと自覚しつつも直視するのが少し苦に感じるほど羨ましく思えた。



 会話を一時止めて、周囲を警戒しながらゆっくりと慎重に山道を歩いていく。

 友梨は背が低いため、頭半分は羽佐奈の方が背が高い。

 体力も夜行性の友梨に比べて活動的な羽佐奈の方が遥かにあるため、トンネルを抜けてからはすっかり羽佐奈の方が余裕の表情で先行して歩いていた。


 樹木の間から見える空は分厚い雲に覆われ、否応にも不穏な心地にさせて来る。

 寒さは感じるものの、長時間歩いているせいで肌が汗ばんでいく中、ようやく山道を抜け、危険な目に遭遇することなく長旅の末、ついに神代神社まで二人は辿り着いた。

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