第二十一章「クロージングファンタジア」7
たった数日にもかかわらず季節が目まぐるしく移ろっていく街を麻里江は歩く。
秋風がそよぎ、優しく長い黒髪を揺らしながら、ただ目的地へと向かって。
三人で過ごす時間をもう一度……その願いだけを胸に、大きな館の前に麻里江は辿り着いた。
玄関前に来ると侵入者を拒むように青白い霧が立ち込めていて、さらに禍々しい異様な雰囲気が漂う立派な洋館。
今にもコウモリが飛び立ちそうな景観の中、麻里江は不用心にも鍵の掛かっていない鉄の扉をくぐり、敷地内へと入っていく。
先にある建物に向けて慎重に歩を進めると立派な扉が現れ、洋館の中に入ろうとする麻里江の目の前を阻む。大きな扉を前にして何物も寄せ付けないようなピリピリとした緊張感が漂う。
きっと、この光景を目の前にしたら、どんな勇気を持ってやってきてもたじろいでしまうだろう。
汗ばむ指先……どうしようもなく一人でここまでやってきたことに不安を覚える。しかし麻里江は、胸の中にある宝石を握って自分のすべきことを必死に思い出して顔を上げた。
何があっても後悔だけはしない。そう胸に誓い、意を決して麻里江は腕に力を込めて扉を開き、中へと入っていった。
生暖かい空気と時代を感じる立派な洋風建築の内装が目の前に広がる。
しかし、麻里江を出迎えたのは異様にも流れ続けるハロウィーンのBGMだった。
不気味な気配を察知して、ここにいてはならないと本能的な部分で危険を感じるが、一歩一歩麻里江は千尋の魂を求めて広いエントランスを歩いていく。
すると、階段を上った先、二階の奥の廊下から浮気静枝が姿を現した。
麻里江はこうなることを予感していながらも、意識を研ぎ澄まして顔を上げた。今更引き下がれないところまで来ていた。
「麻里江さん……一人でいらしたんですね。来ると思っていましたよ。
せっかくハロウィンパーティーの準備をして待っていましたのに、一人きりとは寂しいですね」
ハロウィン仕様なのか、短いスカートをしたゴスロリ衣装に身を包み、薄い笑みを浮かべて静枝は麻里江に言葉を掛けた。
両者ともに外を出歩いていたなら目立ってしまうであろう外見だが、ここは人の寄り付かない洋館の中、仮装して参加するパーティー会場になってもおかしくないような場所であった。
「貴方……何を言ってるの……まだそんな季節じゃ……」
殺気立つオーラを感じて、静枝と対峙する麻里江は恐怖を覚えた。
「そんな季節なんですよ、街の景色を見てきたでしょう?
もう、今までの常識なんて通用しない。
この街は呪われているんです。迷うことはありません、大人しく死を迎えましょう。
穏やかな死は私たちを楽にしてくれます。
肉体という殻を破り、麻里江さんも自由になりましょう。
私も一度死んだ身です。そんなに悪くはないですよ、この身体も……受け入れられませんか? 私がゴーストであることを見抜けなかったのに」
ピリピリとした空気感も含めて楽しむように静枝は一人やって来た麻里江を見下ろしながら言葉を続けていく。
耳に直接語り掛けるような静枝の言葉に、麻里江は心の底から嫌悪感を覚えた。
「冗談きついわよ……。
私の役目は、死者が安心して眠れる環境を守ることよ。
あなた達のような生命を尊厳を奪い、墓荒らしをしようとするような行為を容認できるものではないわ。
よくも騙してくれたわね。千尋を大人しく返しなさい!!
要求に応じないなら、もう本当に仲間だとは思わない。
静枝さん、あなたが相手でも容赦はしないわよ!!」
「それは……ハロウィンの儀式を満喫するにちょうどいい、とても愉しみです。
歓迎しますよ、麻里江さん、あなたの気高い心の強さを。
さぁ……色鮮やかな鮮血でもって、絶望に導いてあげましょう」
紅く燃えるような瞳と、今まで見たことのないような嘲笑を浮かべ、歓迎するように腕を前にする静枝。
言葉を交わすたび、仲間同士であった日々が遠ざかっていく。
明らかな敵対心を向けられたことで麻里江は覚悟を決め、何を繰り出して来るか分からない静枝の攻撃に備えた。
千尋を救うため、一人立ち上がった麻里江。
ゴーストとしての本性を現し、裏切りに出た静枝。
こうして、哀しくも誰も望まない戦いの火蓋が切って落とされた。




