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14少女漂流記  作者: shiori


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Tips6「最後の祝祭」1

 千尋がヴァンパイアのゴーストにとどめを刺してくれたものの、残った屍人の掃討に手間取り、茜が手負いとなったアンナマリーと共に内藤医院から出た頃にはすっかり日が暮れて、夜の帳が訪れていた。


 アンナマリーは先行してヴァンパイア相手に単独で戦闘を仕掛け、無茶をしたおかげで二日連続で院長の手当てを受ける羽目になっていた。


 千尋はまだ魔法使いに覚醒して間もないにもかかわらず、想像以上に魔力消費の激しい魔術行使、マギカドライブを発動させた反動で気絶し、茜が背中に背負って車まで連れて来てくれた。

 

 玉姫さんは屍人の掃討に尽力してくれ、そのおかげで手が空いた私と雨音は、生存者を捜して病室を回っていったのだが、残念ながら生存者を見つけることはできなかった。


 ゴーストの危機が去った内藤医院を出た私たちは、無事に任務を終えて車に乗り込み、全員で学園へと戻ることになった。

 車のハイライトを付け、静かな公道を走行する。

 千尋は後部座席で疲れて眠っているような状態で、雨音は念のために治癒の魔術を掛けているところだった。


「本当に…茜の周りにはいい子ばかりが集まるわね」


 まだ出会って間もない中、協力的に務め、活躍してくれた玉姫さんの存在もあり、心の底から思っていた感想を私は呟いた。一人一人が自分の役目を受け止め、協力し合うことが出来ている。そのことを私は心強く感じていた。


 まだ社会経験のない、学生である分、苦労を掛けてくれるが、それでもいいと思えるだけの魅力がそれぞれに溢れていると私はしみじみと思っていた。


「四月までは細々とした活動だったんですけど。でも、賑やかになりましたね。先生のおかげです」


 一番原石を輝かせる茜は感慨深げな表情を浮かべて言い、開いた瞳で外の景色を助手席から眺めていた。今日は怪我もなく任務を終えたので、行きの時に車内で見た姿と変わらなかった。


「期待はしてなかったのよね。私たちは青春らしいことは出来なくても、三人一緒でいればそれでいいと思ってましたので」


 後部座席から今度は雨音は言った。治癒を掛ける時間が終わったのか、雨音は優しく眠る千尋の頭や背中を撫でていた。

 雨音の言葉は本心だろう。その証拠に私が最初に出会った時から三人は充実した学園生活を送っている様子だった。


「でも、あたしは千尋はうちの部活に来てくれるんじゃないかと思ってたよ。学園祭の時も、千尋はあたしらの部活に見に来てくれたし」


「ふふふっ……そうだったね。玉姫先輩も忙しかったから大した展示が出来なくて。結局喫茶店を開いて、部活の展示は飾り付けの一部みたいな感じだったね」


 私の知らない去年の学園祭のことを懐かしむように茜と雨音が話す。付き合いの長い者同士、仲の良さがよく分かる会話だった。


「さぁ、到着よ。不思議ね、安心したらお腹が空いてきたわ。

 本当に、これから避難生活になるっていうのに……」


 自分の家が安全でなくなるほどの状況など、長い人生の中でも体験することは少ない。教師という立場でリーダーシップを取らなければならないこともあり、私は少し責任感に疲れていた。


「先生、あたしもです。生きて帰って来れただけで安心してます。

 それではお疲れ様です。凛音のカレーライスを食べに行きましょう」


 会話を続けている内に、学園に辿り着き、茜が元気よく私に言った。

 血生臭い戦闘の後だというのに、心強いほどに茜はいつも通りだった。

 駐車場に車を駐車をすると、茜は早速シートベルトを外して扉を開くと、焚火を焚いて明るくなっている運動場へと向かって駆け出して行った。


「雨音、千尋は私が見ておくから、行っていいわよ」

「ありがとうございます、実は私もお腹ペコペコだったんです」


 雨音が恥ずかしそうに空腹になったお腹をさすりながら笑顔で言う。派手な衣装で着飾っている分、色っぽく見えたが、茜を追って車を降りて運動場の方に走っていった。


 こんな状況でも一人一人前を向いて生きようとしている。私はエンジンを切って運転席を後ろに下げて、身体を伸ばすと、空腹より眠気が勝り、そのまま肩の力を抜き、千尋の寝息を聞きながらリラックスタイムに入った。

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