第十五章「明けない夜」6
凛翔学園を出た雨音と茜は二人、静かに制服姿で帰り道を歩いていた。
不要不急の外出を避けるように、市外の道路に近づかないようにと呼び掛けるけたたましい録音音声は、夜になって聞こえなくなった。
虫の音や犬の遠吠えもなく、ただ風の吹く音と足音だけが聞えていた。
雨音はこうして黙ったまま二人で歩いていると、季節外れの肌寒さだけが異様に気になるだけの、いつもの夜に思えた。
「可憐のこと、ずっと考えてる?」
沈んだ様子の茜の歩く速度は今日は特別遅い、だから帰り道は長く感じた。
それが引っかかって、ついに雨音は茜に声を掛けた。
「そうだね……あたしが代わりになれれば良かった」
「馬鹿だよそれは……可憐の彼氏は茜が会いに来たって喜びはしないよ。
可憐は自分の望みを叶えようとしたんだよ。
結果が最悪の結末になっただけ、力不足だったんだよ。
だからさ……私たちにできることは、可憐に出来なかったことを叶えてあげることなんじゃない?」
雨音は頭では考えず、自然と浮かんだ言葉を茜にぶつけた。
頭を整理する時間は十分にあったはずだが、上手く気持ちの整理は付かなかった。
「人生なんて、いつ死ぬか分からない、だからいつでも死ぬ覚悟を決めておけば怖くないって思ってた。
でも、あたしには自分以外の誰かが死ぬ覚悟なんて出来ないよ」
「そんなの私だって同じだよ。
悲しいのは同じ。でも、悲しみを引きずらないように、前に進んでいくのが茜の信じる魔法戦士なんじゃないかな?」
雨音を言葉に茜は言い返すことも頷くこともしなかった。
ただ、同じようなことを何度も聞いてきたようなそんな感覚を覚えた。
茜は自動販売機の前で立ち止まり、炭酸飲料を買って飲み始めた。
「明日になって全部夢じゃなかったら、雨音の言う通り頑張ってみるよ」
茜は明日から頑張るために、与える予定のなかったご褒美を自分に与えた。
シュワシュワした炭酸が口の中を刺激し、ブドウ糖の甘ったるい味わいが口の中に広がり、溜まった疲れを麻痺させてくれる。
「うん、また明日だね。私はね、本当のところ今まで運が良かっただけなんだと思ってる。いつも、ゴーストと戦闘する茜を見るたびに、殺されてしまったらどうしようってビクビクしてた……。
ごめんね、茜の勝利を信じてなくて」
雨音もまた茜に倣って自動販売機に手を伸ばし、ナタデココジュースを買い、飲み始めた。
「それは申し訳ないけど仕方ないかな。
だって、いつも雨音に怪我を治してもらってばかりだったから。
だから、気にしてないよ」
「少しは気にしなさいよ……本当に心配してるんだから」
互いに好きな飲み物を飲みながら、いつも以上に真面目な会話を交わすと、自然と気が紛れて、少しだけ表情が柔らかくなっていた。
雨音は家に辿り着くと、茜に「おやすみ」と一言告げて家の中に入った。
茜は一人になると、残った炭酸飲料をちびちびと飲みながら、家路へと向かった。




