第二章「導かれる者たち」2
「凛音、最近は物騒だから迂闊に夜は出歩かないようにね」
完全に目が覚めて目力が付いた私は真剣な目つきで凛音に言った。
「……やっぱり、この街何かあるの?」
「恐らくはね。大きな厄災を危惧するほどじゃないと思うけど魔力災害の危険はあるわ、お父さんが心配するのも最もな状況でしょう。しばらくはここに住んで、状況を静観するつもりだから」
私の言葉に凛音は不安そうに「うん」と本意ではないが致し方ないという具合に頷いた。
夫は次世代型ネットワーク、生体ネットワークを開発するシステムエンジニアだが、研究にまつわるものには国も絡んだ機密情報を含んでいるものもあるから事情を説明すれば長くなる。凛音には出来るだけこのまま知らないままでいて欲しいと思うのが私の思うところだった。
「お母さん、これがゴーストが仕業の事件?」
テレビを観ながら凛音は言う。悲惨な光景だったに違いないマンションからの飛び降り自殺のニュースが流れていた。犠牲となって死亡したのは三十二歳の母親と九歳になる息子、それとまだ四歳の娘だった。
近隣に住む私たちを含む住民を不安に陥れるには十分すぎる内容と言える。
この事件がゴースト関連の事件であることはほぼ間違いない。
だが、それでなくても今回の調査には検証が必要なものが多々あり、状況は芳しくないと言えた。
「お父さんからはそう聞いてるけど、関連してる事件や事故はこれに限らないから、用心するに越したことはないわね」
「そうなんだ……あんまり無理しないでね、人付き合い苦手なのに担任教諭までさせられてるんだから」
「人付き合い苦手って……自覚はあるけど、そこは私だって大人なんだから、心配する事じゃないでしょ。本当に凛音は夜に一人で出歩いたらダメよ」
凛音がゴーストや不審者に遭遇でもしたら大変だ、危険性は他の人と同じと言いたいところだが実際のところは異なる。
凛音には普通の健康な一般人には見えることのないゴーストが視えるのだ。瞳の輝きが宝石のように光輝いているのが証拠である通り、凛音も私と同じ覚醒を果たした魔法使いなのだ。
だから、魔力を求めるゴーストにとっては格好の餌になってしまう。
霊感が備わっていればそれだけ狙われやすい習性があるからこそ警戒は必要で、凛音には戦闘技術も優れた能力もない。覚醒していたとしてもゴーストを追い払えるだけの力はないのだ。
だから、常日頃から私は凛音を心配している。
過去の出来事だが、魔女である私が他に手段が見つからず、凛音を魔法使いにしてしまった以上は、何としても自分の手で守らなければならないのだ。




