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ショートショート5月〜4回目

アロマハウス

作者: たかさば
掲載日:2023/05/05

 親の住むマンションに行く道の途中に、一軒の家が建った。


 やや古い家屋の目立つ住宅街、ずいぶん広い土地にドカンと建つ平屋。

 木目の目立つ、薄茶色の縁側付きの家屋。


 家のわきを通ると、天然木のいい匂いがする。


 風に乗ってふわりと鼻腔に届く、爽やかな森の香り。

 思わず深呼吸したくなるような、癒されるにおい。


 …この家は、とびきりのパワースポットだ。


 我儘な親の世話をするために向かう道が、少しだけ楽しくなる。

 聞きたくない言葉を受け止める心の準備が、少しだけ楽になる。


 私も家を建てるなら、天然木を使いたい。

 こんなに良い匂いなら、きっとよく眠れるだろう。


 毎日、小さな幸せをもらいながら、マンションへ向かう。


 私に小さな元気を与えてくれる、木の家。

 いつまでも、良い匂いを振り撒いて欲しいものだ。


 いつものように、マンションに向かった、ある日。


 いつもの道なのに、なんとなく…違和感を感じた。


 ゴミ捨て場の角を曲がっても、木の匂いが…しない。


 今日は風がないから…良い匂いが飛んでこないのかもしれない。

 今日は良く晴れているから…乾燥していて匂いが届かないのかもしれない。


 そんな事を考えながら、いつものように、道を行くと。


 私の目に飛び込んできたのは、緑色の…家。


 あたりには、無機質な…ペンキの匂いが。

 わざとらしい、化学物質の…存在感が。


 あの、心地の良い匂いを放出していた家は、緑色のペンキに塗り込められてしまった。

 気持ち良く風を通していた広い場所は、レンガで囲われてしまった。


 私の大好きな場所が…消えてしまった。


 もう、あの癒しスポットは、失くなってしまったのだ。

 もう、あのパワースポットは、失われてしまったのだ。


 すっかり、意気消沈していた私だったが。


 一か月後、緑色のログハウスはパン屋になった。


 あたりに漂うようになったのは、香ばしいパンの焼ける香り。

 おいしそうな匂いに誘われて店内に入れば、ほのかに感じる、木の香り。


 とびきりのパワースポットは、エネルギーチャージ処になった。


 丸太パンにアン食パン、コッペパンにクロワッサン、ベーグルにフランスパン、カレーパンにサンドイッチ、ドーナツにクリームパン、総菜パンにデザート系、どれもこれもおいしくて、ついつい食べすぎてしまう私がここに―――!!!


 ……食欲旺盛であることは、良い事だ。


 そう自分に言い聞かせながら、私は今日も、両親の住むマンションへと向かうのだった。


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