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ショートショート5月〜4回目

アロマハウス

作者: たかさば

 親の住むマンションに行く道の途中に、一軒の家が建った。


 やや古い家屋の目立つ住宅街、ずいぶん広い土地にドカンと建つ平屋。

 木目の目立つ、薄茶色の縁側付きの家屋。


 家のわきを通ると、天然木のいい匂いがする。


 風に乗ってふわりと鼻腔に届く、爽やかな森の香り。

 思わず深呼吸したくなるような、癒されるにおい。


 …この家は、とびきりのパワースポットだ。


 我儘な親の世話をするために向かう道が、少しだけ楽しくなる。

 聞きたくない言葉を受け止める心の準備が、少しだけ楽になる。


 私も家を建てるなら、天然木を使いたい。

 こんなに良い匂いなら、きっとよく眠れるだろう。


 毎日、小さな幸せをもらいながら、マンションへ向かう。


 私に小さな元気を与えてくれる、木の家。

 いつまでも、良い匂いを振り撒いて欲しいものだ。


 いつものように、マンションに向かった、ある日。


 いつもの道なのに、なんとなく…違和感を感じた。


 ゴミ捨て場の角を曲がっても、木の匂いが…しない。


 今日は風がないから…良い匂いが飛んでこないのかもしれない。

 今日は良く晴れているから…乾燥していて匂いが届かないのかもしれない。


 そんな事を考えながら、いつものように、道を行くと。


 私の目に飛び込んできたのは、緑色の…家。


 あたりには、無機質な…ペンキの匂いが。

 わざとらしい、化学物質の…存在感が。


 あの、心地の良い匂いを放出していた家は、緑色のペンキに塗り込められてしまった。

 気持ち良く風を通していた広い場所は、レンガで囲われてしまった。


 私の大好きな場所が…消えてしまった。


 もう、あの癒しスポットは、失くなってしまったのだ。

 もう、あのパワースポットは、失われてしまったのだ。


 すっかり、意気消沈していた私だったが。


 一か月後、緑色のログハウスはパン屋になった。


 あたりに漂うようになったのは、香ばしいパンの焼ける香り。

 おいしそうな匂いに誘われて店内に入れば、ほのかに感じる、木の香り。


 とびきりのパワースポットは、エネルギーチャージ処になった。


 丸太パンにアン食パン、コッペパンにクロワッサン、ベーグルにフランスパン、カレーパンにサンドイッチ、ドーナツにクリームパン、総菜パンにデザート系、どれもこれもおいしくて、ついつい食べすぎてしまう私がここに―――!!!


 ……食欲旺盛であることは、良い事だ。


 そう自分に言い聞かせながら、私は今日も、両親の住むマンションへと向かうのだった。


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