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002 取説

 スライムが光を帯び、真造の体内への侵入を開始した。

 それは、ごく短い時間で終了する。

 真造の胸、正中線よりもわずかに右に当たる部位に、0026と言う数字が意匠的な楔形文字で刻まれた。


 さっきまであった、筋肉の収縮障害(筋力の低下)、不整脈、吐き気、しびれ、などが嘘のように消え去っていた。

 じわりと汗をかいていた肌を撫でる風が心地よく感じる。

 真造は上半身を起こした。右手で胸を触る。さらに押し付けて見れば、いつもと同じ鼓動を感じた。

「スライム~どこ行った」

 太ももの廻りには、身体を起こした際に胸から零れ落ちたと思われる砂や雲母の欠片のような石片が散らばっていた。

「スライム、壊れちまったのか。俺はもう大丈夫なのか。ちっ、聞けねえじゃねえか、バカヤロー」

 うっすらと涙が浮かんでいる真造である。

『バカヤローとは命の恩人に向かって、また、失礼なやつですね』

「ん、どこだ。どこにいる」

『ここだ、ココ、コォ~コ(さっきと違って、直接、見ることも触ることも出来ませんが……)』

「もしかして、さっき払った欠片の一つか」

 そんなのもうわかんねえ~ぞとか言いながら、一つ一つに声掛けをする真造。

『さっき触ってただろ(まあ、ニュアンス的にですが……)』

「ん、どれだよ。わかんね~よ」

『起きて、最初に…「マジで」

 真造のこめかみにたらりと汗が流れる。

「もう、今度は何をやってくれちゃってるんだよ」

『うむ、我もこんなはずではなかったのだが、本来ならば臓器を再現した後は、再び、逆転の工程を踏まない限り、スライムとしての活動や自我は失われるはずなのだ』

「スライムって、自我あるの」

『大抵は無いな。我はエルダースライムであるが故に……』

「じゃあ、それじゃねえの」

『動揺してないのだな。隣に心臓がいるのでな、よくわかる』

 真造の心臓は、常と変わらぬ鼓動を刻んでいる。

「なんか紛らわしいのな。あ~スライムっていうか、名前はないの」

『生まれた場所では、実験体0026と呼ばれていた』

(愛称が、“おおじろん”なのは秘密だ。我をそう呼んでも良いのは、マルバスさまだけだ)

「なんじゃそりゃ。それって、おっかねえ場所じゃねえよな。って、それはおいおいでいいや。それよりも、お前の名は今から“大福”な」

 (魔王さまも、マルバスさまも、素晴らしきお方だぞ。いや、話しを流すな)

『何故、大福なのだ。スライムもしくは実験体0026…「それじゃ、おれが呼びづらいの、よろしくな、相棒!」

『まあ、その、なんだ、しかたないな、いいだろう』

 (特別だ。こんな特別扱いは滅多にしないのだ)

 くわぁっ、あっ、あぁぁxx~ん。真造が片目をつむりながらの大あくび。

「なんか、ほっとしたら眠くなってきたな。ここんところ、残業続きで、今日もてっぺん廻ってた……から……な……」

『おっ、おい。いいのか、こんなところで』

 (なんて、のんきな奴だ、信じら…れ…ぬ。ぬ、なんだ……我にも…すいま…が…)


      ◇◇◇


 ぐ、ぐるぐぐぎゅぅxx~~。

「あ~、腹減った。それに、よく寝た」

 う、う~んと大きく伸びをする真造。

 伸ばした手を遮る壁もなく、仰向けに寝転ぶ真造の視線の先には、青く果てしなくどこまでも広がる空がある。

「天井がない……残念だ」

『残念なのは、お前の頭だ。よくも無防備なままで、ぐーすかと眠れるものぞ』

「いや、そういう残念じゃないんだけど……(まあ、言って見たいじゃない。有名な台詞をさ、せっかくの異世界なんだから)」

 頭をかきながら、苦笑いを浮かべる真造。

「ほら、大福もいたんだし、大丈夫だろ」

『お前、いち臓器に何を過大に期待しているのだ。今の我に何か出来ると思うてか』

「胃袋はモーニングコールをしてくれたぞ」

『………』

 太平楽な真造にあきれ果てる大福(スライム)

「だが、せっかくの拾った命。生きる努力はしないとな。まずは、朝飯、朝飯」

 辺りを見廻す真造の目に映るのは、一本の大樹と、焦げた“似せ狼”の亡骸。

「まさか、あれを食うのもな」

『そうだ。火の通った(ウェルダンの)似せ狼の匂いにひかれて、他の摩物が寄ってきても、おかしくなかったのだぞ』

「まだ、怒ってたのかよ。そんなにカリカリしてっと、禿げるぞ。いや、無理か、もう摩臓だし、って元のスライムでも無理じゃん」

 心臓になら、毛が生えている人もいるらしいが。

『もう、知らぬ。知らぬぞ』

「あはは、まあ、取り敢えず、これでいいか」

 ビニール袋に残った最後の大福を頬張る。

『!!! ピィ!ピィッギィィィィxx―――』

「な、な、な、どうした」

 頭の中のつんざく笛のような音(大福の奇声)に身を悶えさせ、無駄だが耳を押さえて、真造が慌てて廻りを見渡す。

『味が、味が分かるぞー。これが味覚というものか。なんという情報!なんと“快”なる知。我はこの知識を欠いていたというのか』

 大福(スライム)のあまりの興奮振りに、摩臓(だいふく)が口から飛び出さないか心配になる真造だが、口の中の大福餅を飲み込み、残った半分を口に放り込む。そして、嚥下(えんげ)しようとするとストップがかかる。

『待て!飲み込むでない。もっと噛め。この至福を充分に楽しまずしてなんとする』

 まあ、それで機嫌を取り戻せるなら、良しとしようと真造は要望に応じる。

 もぐもぐもぐもぐ

 もぐもぐもぐ

 もぐもぐ

 もぐ

「おい、もういいだろ。もう形が残ってないから」

『まだだ。なんと、すばらしいのだ。もっと、もっとだ。かめ、噛むのだ』


 ごくん。


『………あー、なんと言うことをするのだ!もういい、もう、お前とは口を利かぬ』

 子供の喧嘩かっ。

「大福ぅー、だいふくー、大福さん?」

『………』

 大福さんは激おこ状態継続中。いや、激おこぷんぷん丸、いや、激おこぷるぷる(まる)かな。大福(スライム)だけに。ぷっぷぅ~。

「いいのかなぁ~、そういう態度をとって」

 真造は、脚衣のポケットから、小袋を取り出す。


 アーモンドボール ラズベリー味 9個入り 税込み105円


 レジ袋を貰わずに、大福を左手にぶら下げ、これはポケットにしまい込んでいた。

「これはこの世界で手に入るのかなー。大福に勝るとも劣らない魅惑の一品なんだけどなー。ここに放り投げて立ち去っちゃおうかなー」

 胸の摩臓(だいふく)がどくんと一打ちする。

「ふーん、そうなんだ。じゃあ、そおーれ」

 放り投げる素振りの真造。

『ま、待て、早まるな。話し合おう。話すというのは大切なことだぞ。一人ではわからないことでも、会話のなかに答えが見つかる時もある』

 にやり。

 大福(スライム)の取扱説明書を見つけた瞬間だった。


筆者注)まだ一歩も動いていない……orz

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