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第5話 亀

前半はネネ視点、後半はナトカ視点です。

ざばり、と波を切る音に、わたしは物思いから帰還する。

水面に浮上したのだ。


『水面に上がったって事は、上陸出来る浜が近くにあるはずよ』

「えーと……おお、確かに砂浜があるな……。――ん?」


何か魔法を使ったらしい彼が、あれ、と首を捻る。


『なにかあったの?』

「いや…ただ奇妙な光景で…。亀が海賊っぽい人に突かれてる」

『大変じゃない!』


早く助けに行かないと! と続ける前に、でもさ、と彼が言葉を紡ぐ。


「あの亀、魔力も結構あるしあのぐらいなら普通に撃退出来ると思うんだけど……」


突かれてる部分だけを硬化とかいう器用な事もしてるし、力の使い方を知らないって事も無いはずだ、と彼は言う。


『それは確かに変ね』

「だろ? スルーして、とりあえず末姫の足取りを調査するフリでもするか」

『フリって』

「本人がここに居るんだから、フリで充分だろう?」

『まあそれはそうだけど…身も蓋もないわね』

「まあな」


喋りながら、彼が魔法で水を操り、肩に乗るわたし共々、浜辺に無事上陸する。


『たっ助けてください!』


聞こえて来た亀の声に、わたしたちは無言で顔を見合わせた。




「さて、まずは王子の所に行ってみるか」

『えっスルーしないで!?』

『それならあっちの街道ね。ちょっと先にお城があって、そこに大体居るはずよ』

「了解。じゃあそっちに行って末姫について訊いてみるか」

『たすけてください!ねえ!』


悲痛だが、どこかわざとらしくも感じる声をスルーし、彼はスタスタと歩き出した、のだが。




『いい加減鬱陶しいです!どいてください!』


そんな叫びと共に、ドガッ、という、重い物がぶつかる音が響き、思わずといった様子で彼は足を止めた。


『す、すごい勢いで海賊が蹴散らされてるわね……』

「ホントになんで助けろなんて言ってたんだこいつ……」


唖然として言葉を交わしていると、猛スピードで当の亀が接近してきて、彼が慌てて……ええと、魔力を固めたシールドのようなものを張る。


『海賊たちにいじめられて困ってるんです!助けてください!』

「いや、今そいつらを蹴散らしてたのはあんただろう……」


自分でなんとか出来るんだし助けもなにも…と反論する彼の言葉をまったく気にせず、彼に縋りつく亀。


(……なんか、イラッてするわね…)


なんでわたしはイラついてるのかしら、と自分で自分の心に首を傾げた。







「しつこい!縋りつくな鬱陶しい!」


ネネがモヤモヤしてるっぽいじゃないか!

いや嫉妬は嬉しいけどすごく嬉しいけど、わざわざ悲しませたい訳じゃないんだよ俺は!

ぐいぐいとしがみついてくる亀を魔法も駆使して強引に引き離し、海に吹っ飛ばす。



『きゃあっ! ま、待ってぇ!』

「【俺に触るな!追ってくんな!】……あ」


イラつきによって魔力が多少暴走してしまったらしく、言葉に力がこもってしまった。

若干慌てつつ解析すると、俺への接触と追いかけを不可能にする呪いが掛かったようだ。

……ペナルティも問答無用で昏倒するだけみたいだし……うん、放置して今のうちに逃げるか。


「よしネネ、逃げるぞ」

『え、あ、わかったわ』

『待ってくださ……ふぎゃん!』


浜辺から這い上がってきた亀にバチリと呪いが発動し、悲鳴を上げて亀が倒れる。


「よーし走れ!」

『走るのはあなただけだけどね! っていうかあの子気絶したみたいだけど何したのナトカ!』

「呪った! 事故だ!」

『呪った!?』


俺の呪いの腕は母さん譲りらしいからな! やったのはこれが初めてだけど!

……母さんは魔法を使って報復したって話はしただろ?

その具体的な方法が、父さんを虐めた闇エルフたちを呪って闇の里を壊滅させたこと、だったんだってさ。

ちなみにばあちゃんが苦笑いで教えてくれたことだ。

姉さんにはそういう才能はなくて、むしろ空間魔法に夢中なんだけどな。俺も物騒だし基本的に使うつもりはない。


『ナトカ、誰か来てるわ!』

「へ?」


ネネの警告に、反射的に走る速度を緩める。

すると――


「お困りかな、空澄の少年」


緑色の髪に茶色の瞳のエルフが、唐突に俺の前に現われた。


「あんた……誰?」

「ボクかい? ボクはレイス・ヴァンリーベ。アルヴィレとウィンカシュアの息子。君は?」


その答えに、俺は納得する。

アルじーさま……俺の祖母である風香の弟だった彼と、風エルフのウィアさんの子供。

彼はエルフとして生まれ、ウィアさんが暮らす砦で育ったと聞いたことがあるが……なるほど、彼が。


「空澄ナトカ。風香の娘、瑠華の息子だ」

「ナトカくん。母様の……ウィアのところに、連れて行ってあげようか?」


それはありがたい申し出だった。

ネネの呪いを解いて人魚に戻してやりたかったし、母とも連絡を取りたい。


「彼女も連れて行ってくれるなら、ぜひ」

「わかった。――じゃあ、手を取って。キミも」

『わ、わかったわ』


差し出された手を取り、俺の腕を伝ってネネも彼に触れる。


「…………」


ふわり、と風が吹いて。

瞬く間に突風のような、台風のような強さになった風は、攫うように俺たちの体を浮かせて――。

補足コーナー

Q.あの亀なんだったの?

A.浦島太郎の亀をモチーフにした端役です。

またの名を文字数稼ぎの幕間担当。彼もしくは彼女が何をしたかったのかは作者にも分からない。


Q.レイスさんってハーフなの?

A.エルフです。

人間とエルフ(異種族)の間に生まれた子供はどちらかの種族として生まれる、という設定で、彼はエルフです。

それと同じように、人間の母とエルフの父を持つナトカは人間です。

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