第3話 自覚
21/5/6 設定変更に伴い少しだけ文章を修正。
「海の生き物に力を借りるといい」という姉人魚の言葉に従い、俺は今、イルカに運ばれている。
あ、ちなみに、イソギンチャク……呼び名がないのも不便なのでネネと名付けた……は、俺の肩にしがみついている。うねうね動かれるとくすぐったい。
「あとどのぐらい掛かるか分かるか? ネネ」
『えーっと……あと1時間ぐらいかしら。人魚の国は海の真っ只中にあるから、陸に上がれる浜辺までは結構遠いのよ』
「そうか……」
これ、人魚たちは陸のことを全く知らなそうだったのに詳しいんだな、とか言わない方が良いやつだよな?
■
『そういえば、あなたの名前、まだ聞いてなかったわよね?』
「そうだな。俺は空澄ナトカ。光の勇者と氷の賢者の血筋で、闇に添う魔女の息子だ……って言っても通じないかな」
『え、ええ……。おとぎ話の住人の子孫じゃないの……』
後半、小声で呟いた内容も聞こえたが……うん、突っ込まないでおこう。
俺の家……空澄家は、俺のひいおばあ様に当たる、光ばあ様を発端する異世界召喚者の家系だ。
彼女が「光の勇者」で、その旦那である雹じい様が「氷の賢者」と呼ばれている。
本家本元である大ばあ様は生涯を通じて50回を超える回数異世界に行ったそうで、その子供も次女が一度異世界に召喚され、小さな国の末王子を旦那に戻って来たとか。
それから、俺の母である瑠華……大ばあ様の長女の娘……も、異世界召喚されて、エルフの旦那をゲットしている。
あ、ちなみに。
母さんの二つ名「闇と添った魔女」は、伴侶、つまり俺の父さんが闇エルフであることと……魔法を使って、父さんをいじめていた者に苛烈に報復した逸話から来ている。
話を戻して。
つまり俺は人間とエルフのハーフなのだが、残念なことに異種族同士の子は「完全に」「どちらかの種族として」生まれる世界だったらしく、俺も姉も人間だ。
エルフ要素は無い。魔法は得意だから……それぐらいか?
『あら? じゃあ、あなたは異世界人なのよね?』
「そうだね」
『魔法は使えるの?』
「ああ、使えるよ。俺は水魔法が得意」
というか、空澄家は全員、魔法が使える。
光ばあ様が異世界で習得してきた魔法が日本でも使えたのが最初だが、その娘(俺の祖母)も、孫(俺の母親)も、俺たちも。
まあどの魔法を得意とするかは色々で……俺は水の魔法が得意だし、母さんは風魔法が得意だけど水と光の属性も使える。威力は弱いらしいけど。
あと、叔父さん……つまり母さんの弟の楓人さんなんかは、「植物の品種改良が上手に出来る」っていう異能持ちだけど植物魔法も上手い。だから花屋さんをやってるんだーなんて言ってたっけ。
「ネネはなんの魔法が得意なんだ?」
『わたし? わたしも水の魔法よ。に……あ、えっと、海に生きる魔物だから!』
に……。
ええと、うん、突っ込まないでおこう(二回目)
と、その時。
『きゃあっ!』
ふ、と肩にあった重みが軽くなって。
慌てて首を捻ると、ピンク色が潮流にさらわれて流されていくのが見えた。
「ネネ!?」
『たーすーけーてー!』
その光景に、自分でも驚くほど焦った。
「イルカ、急いで彼女を追ってくれ!」
「キュー!」
心得た、と言わんばかりにぐんと加速したイルカに、魔法も併用してしっかりとしがみつく。
「【渦よ、従え!】」
ある程度近づいたところで、追加で潮流を操作する魔法を使い。
『び、びっくりしたわ……』
「俺もビックリした……」
特に怪我もなく戻って来たネネの姿を確認して、大きく安堵の息を吐いた。
『ねえ、ナトカ』
「ん?」
『ええと、その……助けてくれて、ありがとね。あなた、すごいのね』
その、感謝と……純粋な尊敬の言葉に。
すとん、と腑に落ちた。
――俺は、彼女に恋をしたのだ、と。
補足コーナー
Q.瑠華って何したの?
A.「……ナートをいじめたやつは、同じ目に遭ってみればいいのよ」
「わー!僕は気にしてないから! ね!? だからその魔力は抑えて瑠華ー!」
「や・だ☆ というわけで私の渾身の呪い、GO!」
「あああああ」
Q.そういえば海の中なのに動きやすいんだけどなんで?
A.海の神様(人魚の守護神)が加護を分け与えたからです。
エルフには一応魔法の神様が居るし、雹は冬の神様に加護をもらっていたり。
光? 光の神様と正義の神様と天秤(公平)の神様の加護があるよ。




