200117【仮面】普通の仮面
彼は、とても普通な子だった。
常に普通の答えや行動をするのに、損しそうな時はさりげなくかわす。
出来すぎず、不出来すぎず、悪すぎず、良すぎず。
いい塩梅がまるでわかっているような、そんな子だった。
周りの評価は常に「普通のいい子」で、そんな彼に誰も疑問なんて持ってなかった。
《普通の仮面》
「ねえ、どうして普通のフリしてるの?」
放課後、誰もいなくなった教室で
帰ろうとしている彼に聞いてみた。
彼は誤魔化すそぶりもなく、いつもとは違う顔でこう言った。
「普通って、何だと思う?」
ランドセルなんて似合わないくらいの
どこか大人びた、見たこともない表情だった。
「何でそんなこと僕に聞くの?」
なぜ僕には繕わないの?
そういう意味で僕は聞いた。
彼は笑った。
「君も仲間だろ?」
何のこと? という僕の反応も待たず、彼は話を続けていく。
「普通を理解して、自分を偽って、普通のフリして生きていくのは、大変だと思わない?」
彼の言葉で、本当の彼はやはり違うんだと確信した。
何を隠しているかは言わなかったけど
何だか、わかる気がした。
でも、僕は怖くも何ともなかった。
「君にもすぐわかる。君もきっと、おなじだから」
その言葉を、僕は否定も肯定もしなかった。
でも、息苦しそうな、生きづらそうな
そう感じる言葉を聞いて
きっと彼は、多分どこにも行けなくて
普通に見える仮面の下で、ギリギリなのかもしれないと
僕は思った。
そしてある日、彼は人を殺した。
相手は親だったと聞いた。
幸せな家庭だったと周りは口々に言った。
「なぜ彼が」なんてみんなが言葉にしてたけど
僕は「ああやっぱりな」としか思わなかった。
彼は、少年だ。
死刑にはならない。
でもこのまま生きているのはつらいんだと思う。
彼は今、次はどんな仮面をつけるべきか、どうやって生きていくべきなのか
"いきぐるしさ"の中、考えているんだろう。
きっとずっと『普通』にはなれないから。
だから
もし出てきた時は僕が殺してあげればいいのかなぁなんて考える僕は
彼の言うとおり、やはり普通ではないのかもしれない。
END