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週一お題SS集  作者: 雨鬥露芽
恋愛もの
3/10

191025【王子様】目を奪われて、春

2019年10月25日。お題は「王子様」。

Twitterでは非公開。

それは一瞬の出来事で

資料室で私を助けてくれた姿はまさしく王子様で

私は何もできなくなって

ただ、彼に見惚れていた。



《目を奪われて、春》



「はぁ?」


放課後の教室で、幼馴染の呆れた声が響く。

目の前で頬杖をつく幼馴染は「あいつのどこが王子様だよ」と一蹴して。


「あいつ無口で生意気で冷めた後輩なんだぞ」


そう悪態をつく幼馴染は、部活が同じなその後輩の話を私によくしていた。

だから、なんとなく知っていた。

確かに幼馴染の言うとおり、生意気で鼻につく喋り方をしたその後輩は

確かに世間一般でイメージされる王子様とは大分違う。

だけど、私にとっては王子様だった。


「王子様ってのは、華やかで気品や人気があるようなやつのことだろ」

「ふーるい! その概念は古すぎるよ。時代遅れだよ。今時どんな人でも誰かの王子様だよ!!」

「誰でもなれんのかよ」


幼馴染が「わけがわかんねえ」とげんなりした顔をする。

半分勢いで適当なこと言ってるんだから、私だってよくわからない。


事の発端はこの前の週番。

資料室に道具を取って来るよう任された私は

大して背もないのに横着をして高いところにある教材をひっくり返して落っことし

危うく模造紙に襲われるところというところを

「大丈夫ですか」と後ろから冷静にキャッチしてくれたのがその後輩で

見上げた視界に入ったその顔は、とてもキラキラと輝いていてバックでお花が咲いてるようにすら見えて。


それから今日の昼休み。

幼馴染への用事でやってきた後輩についでに声をかけられて、ドギマギと返事をして

それを見ていた幼馴染が怪訝な顔で問い詰めてきたのがSHR前。

そして、経緯を聞いた幼馴染がつまらなさそうな顔をしているのが今。


「てか颯爽と助けてくれたっつーから全身で庇ったとかかと思ったら、ただ教材キャッチしただけかよ」

「違う!!」


バンっと机を叩く。


そりゃあ確かにちょっと手が伸びてきて、声をかけられただけ。

庇ってもらったとは確かに違う。

でもすごく綺麗だったんだ。

淡々と冷めた顔をして、言い方だって冷たくて、なのに言葉は優しいその後輩が

全力でキラキラしてたんだ。


「あの輝きはまさしく王子様なの!!」

「資料室の電気つけてないから逆光差してただけじゃね?」

「あとほら、そのあと模造紙も戻してくれたし」

「普通だろ」


深いため息をつかれる。

そんなに眉間にシワを寄せなくてもいいのに。


「どんな楽しい話かと思ったら、めちゃくちゃつまんねえ」

「ひっど!! 勝手に期待しといてひっど!!」

「だってあいつだぞ? もっと王子様っぽいのいるだろ。生徒会長とか」


確かに、今の生徒会長はめちゃくちゃ王子様っぽいけれど。

そういえば入学当時、迷子になってたの助けてもらったけど、別に何も気にならなかったな。


「何故か生徒会長には何もときめかないんだよね」

「お前のポイントがマジでよくわかんねえ」

「あんたにわかってもらわなくてもいいもーん」


確かに幼馴染の好きな人はすごくわかりやすい。

こんな子誰でも好きになるよねって感じの女の子だ。

でもだからって、私までそれを求めるのはどうかと思うのだ。

蛙や熊が王子様なんて、最初は誰も思わないんだし。

その人が私にとって王子様ならそれで良いではないか。


「単にあんたの感性が普通すぎるんじゃなーい?」

「普通で何が悪いんだよ!」

「世界をもっと広く持とうよ」

「単にお前の好みが変なだけだろ」

「価値観せまーい」


じとっと見ると文句ありげに「っていうかなぁ」と睨まれる。

思わずひるんだように「何よ」と返すと、びしっと人差し指を突きつけられた。


「いつもと違うお前が気持ち悪い!」

「しょ、しょうがないでしょ!? 初恋なんだから!!」

「初恋!? おっそ!!!」

「うるさいな!!」


人それぞれタイミングというものがあるのだ。シンデレラだって白雪姫だって

王子様に会うまではずっと出会いなんてなかったのだ。多分。

王子様だからこそ、今の出会いなのだ。きっと。


「とにかく! 普通にしてろ!マジで!」

「まぁ努力はするけど――」

「仲が良いんですね」


突然聞こえた鼻につく喋り方に全身がびくっと跳ねる。顔が熱くなる。

何も意識してない。

考えるより先に体が反応したんだ。条件反射だ。

なんてことだ。

普通にするとか無理だ。


「別に。つーかお前は何でここにいんだよ」

「先輩の声が聞こえたので、からかいに」

「やっぱかわいくねえなお前!」


そう言いながらも本気で嫌そうなわけじゃない幼馴染の顔。

本当は気に入ってるんだなぁと考えながら

淡々と話す後輩の姿を見れば、いまだに花が咲いて見える。


異常事態だ。


「二人は何してたんですか?」

「こいつが――」

「少し話してただけ。もう帰るところだよ」


余計なことを言われる前に遮れば、幼馴染の冷たい視線が突き刺さる。

こんなニコニコした私は気味が悪いのだろう。

自分でもそう思うのだから気持ちはわからなくもない。

でも人の後ろに花が咲いて見えたりしてるんだから

もうそれくらいのことが起きてもおかしくない。


「君は何してたの?」

「教室に荷物を取りに行ってたんですよ」

「そうなんだ」


後輩の右手には、小説のようなものが見えた。


彼はどんな本を読むのだろう。

私は、彼のことをほとんど知らない。

ほんの少し前までは

幼馴染から話を聞いていただけの

それだけの存在だった。


化学部に入ってる一つ下の後輩で

甘いものが好きで

コーヒーが苦手で

無口でクールで生意気で。

それだけの男の子。


でも、今の私にとっては、キラキラ輝く王子様。

この前からずっと

今でもずっと

無表情な、クールな顔が輝いてる。


「もう帰るの?」

「ええ、一応」


彼は私にとって王子様。

だけど私はシンデレラでも白雪姫でもない。

そもそも姫なんて柄じゃない。

待っていたって始まらない。


だったら、自分で全部見つけていきたい。


「君も一緒に帰らない?」


私の言葉に、さっきまでの冷静な顔が変わる。

その表情に釘付けになる。


「もちろん。最初からそのつもりです」


そう言いながら生意気に笑う彼が輝いて見えたから

私はやっぱり重症で

幼馴染にチョップされるまで、私は固まって動けなかった。


END

挿絵(By みてみん)

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