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「ん?ユリウス……?そういえばさっきエロ漫画で見た」
じゃないが。
王太子殿下、もといエディが言うには、私達と同じように日本の前世があり、『マジコイ!』の廃プレイヤーであったこと。ユリウスとやらが推しで、その人物は今はBクラスに所属する近衛志望の伯爵子息であり幼なじみであるということ。基礎学校(前世でいう小中学校)に通う前から刷り込みしてきたこと。前世ではノンケ食いを得意とし、狙った男は惚れさせてきたこと。など、ペラペラ宣ってきた。
ただ、ジュリエッタ氏曰く、恋愛面はアレでもキャラ素質もあってか、王族としての資質も能力面も申し分無い王太子だとか。
「はぁ、そっすか。で?今はそのユリウスさんはエディの便利棒なの?」
「いやあなたね、可愛い顔してそんな言葉」
あんな話を聞いた後だ、既に『王太子』に対する遠慮は消え失せているのである。
「で?どうなんすか?wwww」
「…………。ちょっとォ、ジュリちゃん〜?」
ジュリエッタ氏、シラーっとした顔でお茶しとるわ。「食べにくいくせに美味しいスコーンて罪深いと思い続けて50年近く経つわ」なんて嘯きながら澄まし顔しとるわ。
「あーっんもうっ!んんッ……、その、ね??良い感じにはキテると思うのよ?でも、まだちょーっと彼が遠慮してるっていうかぁ?」
両手の指先合わせてクネッてる王子様とか見たくなかった、つーか、顔が良いだけになんか、マジでめちゃくちゃイラッとくる。サイドに流して結ってる髪をイジイジすな。お綺麗な御髪が痛むだろ馬鹿。
しかもcv.梅○裕一郎かよってくらいのイケボがオネェ言葉で惚気けるとか、あれかな?もしかしてこれはドラマCDなのかな?
「この男、本命には上手いことできないのよ、可愛らしいでしょ?」
「えっ!?マジ!?このキラキラフェイスでか!!うわぁ、それなんて漫画。レーベルはどこっすか?wwww」
「ちょっとうるさいわよそこの貴腐人共!!」
「じゃあジュリエッタ氏は王太子妃にはならないの?」
「当たり前でしょう、元々なるつもりなんか微塵も無いわよ。……というかどうせ両想いなのに遠回りし過ぎなのよ、そんなの描くしかないのではなくて?」
後半の発言は私にコッソリ耳打ちされた。両片想い、漫画ではよくある、分かる、ビーエルで浴びるほど読んだ。
「でもねぇ、後々飽きたから他の人と、とかっての王侯貴族は無理だからそこは心配だよね」
「そうなのよねぇ。だから名ばかりの許婚も撤回できずなのよ。最悪、本当に最悪、醜聞を覚悟でユリウスはこっそり愛人にすれば良いわけだし」
「あんたたち、勝手なこと言っちゃって……!ユリウスはあたしの唯一なの!前世からの筋金入りなの!!!!」
悪ノリに走る私達に、エディは顔を真っ赤にして激おこ。
「ええぇ〜〜〜↑↑↑????我々、恋愛漫画の登場人物みたいな純粋な魂じゃないでしょ〜?穢れきった魂の持ち主の『唯一』なんか、期間限定じゃんそれ?」
「そんな事無いわよ!!ほんっと失礼しちゃう!!滅多なこと言わないで、この淫乱ピンク!!」
「今は淫乱ちゃうわボケ!!ブッ飛ばすぞ!!」
「ヤダ蛮族!!アタシだってねェ!前世散々遊んだから今世は純愛に生きるって決めてるのよ!アタシ今は真っさらな新品なのよ!!」
「それはちょっと分かる!!」
「あらあらまあまあ!血の通った友人(生贄共)の恋愛観。新作の糧になるわ」
結局ギャアギャアとエディとコイバナで盛り上がった挙句、エディも歴史文化研究会に所属する事になった。マジかよ。『マジコイ!』じゃなくて『れきぶん!』が始まってしまう。連載誌の発行は双○社あたりかな。
「はぁ……。……それにしても今日は酷い目にあった……」
寮に戻り、食堂で夕食を食べている内に放課後の出来事にしみじみとしてしまった。あまり考えないようにしていたが、ご飯を食べているうちに気が緩んでしまったらしく、愚痴が声に出てた。
「ソフィーちゃん〜、どうしたの〜??」
「マリー、人生の諸行無常を噛み締めていたところだよ」
「アハハッ!なあにそれ〜!」
マジコイのヒロインポジらしい私よりもよっぽどヒロインらしい目の前の女の子は、入学してから寮のお隣さんで、よく一緒にご飯を食べる仲になったマリー=ロンソン男爵令嬢。
肩口で切り揃えた栗色の髪にピンクブラウンの瞳は、栗鼠とかの小動物を思わせる可愛らしさの愛嬌のある容貌。言動も愛され系。どう考えてもマジヒロインなんだが。
前世を思い出す前の私も、儚げな見目も相まって真面目頑張り屋さん系ヒロインだったかもしらんけど。まあソイツはもう前世の記憶と統合されてお亡くなりになったからな。お悔やみ申し上げるは。合掌。あ、でも前世と違って、ソフィーとなった私は真面目頑張り屋な性質は残っていますので、ご心配無く。
ちなみに、寮に入る生徒は割と多い。王都内に邸を持たない家は地方の下位貴族に多いためだ。彼らは重要なパーティーに出席する際は王都内のホテルを利用する。
なぜなら王都の邸とはいえ、「町」一つ分の敷地を誇るわけで、それを保有できるのは上級伯爵家以上の家でないと難しい。例外は下位の中央法衣貴族だけど、そういう家は王都内のマンションの最上階ワンフロアを相続したりが殆どらしい。つまり、王都内に邸を持たない地方貴族の子女は皆寮生活を強いられる。
そして、我が国は領土がめっぽう広い。さらに、技術が発展した現在でさえ、都市と都市の間のバイパス道路や高速道路沿い、高速列車の沿線付近でも魔物が容赦なく湧いて出てくるこの世界、領地内の町村は細かく寄り子の下位貴族に任されている。その他、貴族系大企業の子会社孫会社を任されるのも同派閥の下位貴族で、地方にも多数点在している。必然、王都内に拠点が無い貴族の数はかなりのものである。
そして、当初危惧していた寮生活はかなり快適だった。厳しい規則があるわけでも無く、寮内の売店も食料品から衣類を含む日用品まで品揃えもヨシだ。なんならネットショッピングも利用して構わない。
まあ私の場合、国から支給される生活費はギリギリだから散財はできないけど。でも今みたいに食堂で食べる分には余分なお金は掛からないし、ほとんど不便は無いな。
この間までの夏季休暇は、規則としては滞在できないのを私の場合は特例で寮に滞在を許されたのだが。魔導具の食料保存庫に十分な食材が用意されている代わりに、自炊が必要だったがそこは問題無い、施設上がりを舐めないでもらいたい。その他にも、寮の個室はバストイレ付きのワンルームだし、ランドリーやごみ処理施設なんかもあるし、そもそも誰でも使えるような家事に便利な『浄化』や『集塵』なんかの生活魔法が問題無く使えるしで生活に困ることは無かった。施設時代から生活魔法で掃除していたのが功を奏している。
それに、図書館や訓練場なんかの学園の設備は使い放題だったのも良かった。ただ、寮生の生活を支援する学園付き使用人も長期休暇中はいなかったので、だだっ広い寮にたった一人なのがめちゃめちゃ寂しかっただけで。要所要所の護衛に騎士団の人達はいたけど(例え無人でも学院警備は必須らしい)、職務中の人とおしゃべりするほど頭イッてないから……。うん、マジで孤独感すごかったから、来年からは寮に残る以外の方法を考えた方が良いかもしれない。
「…ちゃん〜、ソフィーちゃん〜?ほんとにどしたの〜?大丈夫〜?」
「ん?ああごめん。ボーッとしてた」
「もしかして休みボケでもしてる〜??」
「いや、そんなんじゃないんだけどさ。なんてーか、こう、入学して以降平穏から遠ざかってる気がして」
「え、え〜っ!?今更〜っ!?」
「え、今更ってどういうこと?」
「いやだって〜、平民出身でうちの学校入ったのだって例外なのに〜、王族と高位貴族のいるAクラスにいるんだよ〜?そりゃ〜、今更って言いたくなるでしょ〜?」
「ふむ……、たしかに……」
「ソフィーちゃんって〜、頭良いのにズレてるよね〜」
「なんだと?」
「うん〜、天然〜?」
「は??やめてくれる??わたくし天然なぞではありませんけども??」
「なるほど〜、天然な子は天然なのを認めないって本当だね〜……」
「いや本当に天然とかじゃないんだけど!?」
「う〜ん、天然じゃ無いとなると〜、あ、そっか〜!変なところで常識が欠けてるって事か〜!なるほど〜!」
マリー、可愛い顔して急に辛辣すぎる……。