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「ジュリエッタ氏ーーー!戻って来てくれーーー!!!」

「あら?ソフィー、どうかしたかしら?」

「どうかしたじゃないよもう、完全に自分の世界だったじゃん」

「あら!ごめんなさいね、ウフフ」


 それにしても4年半ぽっちでコミケ超えイベントて、できるのか??


「だからこそ、あっちの派閥の生贄が必要よねぇ」

「い、生贄……」

「だって私、参加者に回りたいもの。まあ、そこは追々。生贄さえいれば3年で事足りるわ」

「えぇ……」 

「メインイベントを開催できた暁には、ソフィーは私と一緒に参加者になってもらいますからね」

「それは最早運営という名の生贄にならずに済むことを喜ぶべきなのか分からんぞ!?」


 どうやらジュリエッタ氏、敵派閥に塩を送ってでもイベント開催を目標にしているらしい(ぶっちゃけ貴族の派閥とか知らんけど)。良いのかそれ!?と思ったら「あら、公爵家を継ぐ私に貸しにして調整すればやりようはいくらでもあるもの」だと。怖え〜〜〜。

 でもアンタ、王太子の許嫁なのになんで公爵家継ぐのが確定なん……?


 


 と、ひとまずこの同好会の最終目標をジュリエッタ氏が勝手に決めたところで、ジュリエッタ氏が「見ていただきたいものがあるの」とデスクスペースへ移動した。


「うわっ、なんだこのデスクトップに鎮座ましますバカでけえフォルダアイコンは」

「ふふ、今まで封印していたものよ。是非ご覧になって」


 妖しく微笑むジュリエッタ氏に見惚れつつフォルダを開くと、これまたまあヤバそうなタイトルのフォルダが並んでいる。

 『メス殿下×クロード(仮)』『ユリウス×殿下1~47』『同級生に輪○される殿下』『モブおじさん×殿下』『触手×殿下』『感度3000倍殿下』『敵国に囚われる殿下』etc…。ユリウスって誰。他のクラスの奴か?


「あの、ジュリエッタ氏、これ……」

「殿下はね、メスなの」

「そうじゃなくて……、いや、そうだな?」

「でしょう?それに私が担当したキャラが生きて近くにいるのよ?描くでしょ」

「ん????担当した?!?!まさか」

「ええ、殿下のイラストを担当したのは『東 たけのこ』なの」

「なるほど。たしかに殿下の顔、たけのこ先生の攻めキャラっぽいとは思ってたけど、先生的にはメスだったか」


 そういう事なら尚更真剣に拝見させて頂かねばならんな。さてさて、先生の新作ですぞ!今世の先生の読者第一号ですぞ!


 


「……ックゥ〜〜〜…………最高でしゅゥ…………」

「まあ!ありがとう!」

「ぶっちゃけ触手とかモブおじは苦手だったけど、先生の絵と殿下ならアリ。というか、殿下がグズグズにされてるのイイ」

「そうでしょう(ドヤ顔)」


 イッキ読みした。最高すぎて動悸がエライことになっておる。

 なん、もう、はあ〜〜〜、はあ〜〜〜????いやもうね、はあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜。好き。ダメもう、語彙力消えた。最高と好きしか分からん。


「はー、好き……」


 と、しみじみ感慨に耽っていると、ガチャッ!と勢い良く扉が開かれ


「やっほー!ジュリちゃんいるー?」


 という言葉と共に、太陽のように輝くブロンドヘアと深い海の様な碧眼の持ち主、満面の笑みを浮かべたエドモン王太子殿下がいらっしゃった。


 え?


「え?」

「あらやだ…………」


 んん????

 なんか、やっちまったって顔して固まってる殿下が入り口で突っ立ってるけど、あれとこれは幻聴と幻覚なのかしら。だってねえ、流石に殿下が「やっほー!」とか「あらやだ」なんて言うはずが無いだろ。教室で見かける殿下はそれはそれは優雅であるからして、そうに違いない。そうそう。そうなんだよな。な?そうだよな?


「あらエディ、いらっしゃい。お茶でも用意しましょうか?」

「あ、ああ、そうだね、頼むよ」


 ポカンとしている私を放置して、気を取り直したらしい王太子殿下様は優雅に微笑みながらソファーに座り、ジュリエッタ氏は部屋に備え付けられた注文用のタブレットを操作している。

 この研究棟、才ある者の為の施設なだけあり無駄に至れり尽くせりで、研究室にはドリンクや軽食をオーダーできるタブレットが全室に備え付けられてある。簡単に言うとチェーンの居酒屋のアレ。

 この学校、いくら高位貴族でも、個人の護衛や使用人、学院生以外の側近を連れる事はできないらしく。以前ジュリエッタ氏に、「護衛とかいないっぽいけど大丈夫なの?」と聞いたら教えてくれた。同時に「でも、家の権力だろうと何だろうと使える範囲で使えるものは、使わなきゃ損よね」なんて言ってた気がするけど、私は耳が遠いので聞こえていない。


「何か摘む物はいるかしら?」

「そうだね、軽く頂こうかな。あぁ、……、注文は君におまかせするよ」


 殿下がチラチラと私を気にしながらジュリエッタ氏に応えている。ハッ!私、ここにいては不味いのでは!?


「あ〜、あの、ジュリエッタ様、私そろそろお暇した方がよろしいですよね?」

「あらどうして?もう3人分注文してしまったから一緒にお茶しましょう?」

「え゛」


 なな、な、何イィィィ!?き、貴様は鬼か!?同じクラスとはいえ、話したことの無い人物、それも、この国の頂点の一角たる王太子殿下と席を共にしろと!?ド平民風情の私が!?いや貴族の頂点の公爵令嬢と仲良くしてんだろお前、ってツッコミは無しだぞ!?それは偶然の産物であって、日本で過ごした前世持ちという共通点が云々かんぬん。

 と、グルグルと考え硬直していると


「ね?良いでしょ?」


 と、未だデスク前に座ったままの私の前まで来て、屈んで上目遣いで追い打ちをかけてくる絶世の美少女。うわ、クッソ素晴らしい。もしかして公式スチルでは。

 ……けどなんか、悪戯っ子みたいな笑みにみえるんだが。


 なるほどなるほど、よろしい、受けて立とうではないか。


 などと自分を鼓舞してみても、内心真っ白に燃え尽きた灰になっている。ぶっちゃけ諦めの境地。


「よ、よろこんでェ……」


 


 ジュリエッタ氏が注文したアフタヌーンティーセットが届くまでの時間、おそらく5分程だったのだろうが、永遠とも思える無言の気まずい時間が流れていた。

 何分、私を誘っておいてジュリエッタ氏は何も言わないし、殿下はジュリエッタ氏に話しかけようとしては私を気にして結局黙るのを繰り返して、それを視界の端で認めている私は石像になっていた。


 コンコン

「どうぞ」

 ((ホッ))


 窒息死するかと思われた時間は、ティーセットが届いてようやく弛緩した。

 そして、紅茶を飲んでようやく人心地ついた私を、ジュリエッタ氏が殿下に紹介してくれた。


「エディ、こちらソフィー=アンジェ。わたくしのお友達ですの」

「はじめまして、ソフィー=アンジェと申します」

「ああ、エドモン=ミュンシュだ。同じクラスだからね、もちろん知っているよ」


 んお?なんだか、含むところのある視線を投げられたぞ?なんだなんだ?いや、当たり前か。ぶっちゃけ素性の知れねえ平民が殿下の前におるんやもんな。


「それと、彼女も転生者らしいの」

「ああ、やはりそうなんだね」


 ファッ!?!?!?!?


「でも『マジコイ!』の事は知らないんですって。悪役令嬢小説系のありもしない逆ハー狙いの電波でも無いわ」

「ああ!!そう!!ハァ〜〜〜、よかったわ〜。じゃあやっと安心して廃太子に向けて動けるかしら」


 え゛ぇ????肩の力抜けました〜って感じの殿下コイツ、え?なに?何言ってんのこの人余りにも理解を超えるのだが????


「ごめんなさいね〜、あなたの事警戒してたのよ〜。もしキャラ攻略に動くヤバい子だったり、ゲームの強制力でもあったら怖いじゃない?」

「え、ええまあ、そうですね……。はあ、えっと、その、殿下も転生者なので?」

「やだぁ!殿下なんて言わないでアタシのことは気軽に『エディ』って呼んでちょうだい?」

「そうよソフィー、この男に畏まる必要なんて無いわよ」

「ちょっとジュリちゃん!それは酷くない!?」

「失礼しました殿下」

「ちょっ、もうっ!」

「それと、何度も何度も何 度 も、言ってるけれど、エディは廃太子はおろか王太子の変更も絶対に無理よ?」

「そんなの分からないでしょ!?」

「分からないことはないでしょ。あなたが一番良く知ってるはずだわ。別に良いじゃない、ノンケ食いは得意なんでしょ?ユリウスを王配にしたらいいじゃない?」


 なに??どういうこと??


「えっと……??」

「あらやだアタシったら!そうそう、アタシもね、転生者なのよ。『マジコイ!』はハマったわねぇ〜、特にユリウス!あのどノンケみの強い筋肉がもう好みで好みで」


 は??なんて??

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