悪役令嬢に世紀末覇者の記憶がもどった話
息抜きに(^ν^)
信じていた、いえ、信じたかった王子からの愛は砕け散った。それがまさかこんな……わたくしの愛する、初恋と自覚してから尽くしてきた王子主導のもとだなんて……
ドン!と廊下の壁にぶつかったとき、わたくしの、いや、ワイの記憶が蘇りよった。
「そうやって床に這いつくばる気持ちがわかるか。どれほどティアが苦しんだかせめて最後に理解を」
「ああ?」
目の前でぺちゃくちゃしゃべーとる王子。ワイの婚約者じゃが、改めてみると細っこいただの学生じゃな。
こちとらぶつかった肩が痛いゆうのにうるせーから思わず睨みつけた。ほんだらビクッとしよる。なんじゃ、目があっただけでそれか。いままでの尊大な態度はどうしよった、ああ?
ワイはわざとゆっくり立ち上がり王子に近づく。と、お仲間の細学生イ·ロ·ハ·ニが立ちふさがりよる。取り巻きの貴族じゃったか。
「まて!ティアには近寄らせ、ブハァ!」
細学生イがワイの肩を掴みかけたんで裏拳で張り倒す。
「おん?」
叩いた拳が想定より痛い。
倒れた細学生イを助け起こすその他や王子に抱かれたティアが悲鳴あげとるが、それどことちがうわ。
ワイはワイの拳をじっと見る。……細いのう。ああ、指輪ついとるから攻撃力は増しとるか。じゃか石よりもトゲ付けたほうがええのに。
我ながら今までのワイののんきさにフフっと笑いがもれた。おう。声もかいらしのう。
「なにをする!」
「だまりゃあ」
「オブウ!」
細学生ロに足払いをかけて黙らせておく。ワイは考えごとしたいんじゃ、邪魔するなボケカスゴラァ。
ほうじゃほうじゃ。思い出した、いや、うまくまざりよったわ。ワイは前世では世紀末覇者、現世では、
「血迷ったかマルグレット!」
「ちぃとだまっておかれんのか、ふんっ」
「ホガア!」
細学生ハに頭突きをかましつつ、頭のなかを整理する。
この国の三大公爵家の一つに生まれ、王国の真珠といれるほど美しい令嬢マルグレット、がワイ。
そんなワイの目前の問題は、親の決めた婚約者が浮気しよったあげく、ワイ相手に浮気を正当化しようと仲間と謀りよってることじゃ。
叩いたら痛いのは公爵令嬢の体なら当然じゃあ。前世のワイのように鍛えてはおらん。しかし、この魔法の天才と歌われた現マルグレット(ワイ)なら、
「マ、マルグレット嬢、落ち着きたまえ」
「“様”やろが!」
「ブヘェ!」
今しがた思いついた強化魔法を自分の腕にかけ、細学生ニの肩めがけてクロスチョップ。うむ、なかなか威力がでるな。ニは他の公爵家のやつだったか。なんにしても様付けせぇよ。
「な、なんという凶暴な、」
「あ?」
「くっ……」
王子は睨みに弱いんか。そんなんで国をしょえんるんか?世紀末だったら国とともに滅びとるぞ。まあもう、前世を思い出した途端に王子に愛情も未練もなくなったからの。
「やめてくださいっ、これ以上みんなをイジメないでっ!」
ワイと王子のあいだに割って入ってきたんが、ティアゆう町娘。転校してわずか三ヶ月で王子をおとしよった。ついでとばかりに取り巻きの細学生イ·ロ·ハ·ニも手中に収めたなかなかのやり手じゃ。
「なんじゃ、人のツレ寝取っておいてもう正妻顔しとんか」
「ね、寝取ってませんっ」
「ほお。ほしたら指一本触れてないんか?触れてないんか?お?」
「ゆ、指は……ってそんな小学生みたいなことを!」
「ちゅうか平民がなに普通に話しかけとんのじゃ。不敬じゃろ」
「えっ、な、なんでそんなこと言うんですかっひどい!」
「そうだ!貴族だ平民だのいうのは」
「いまは女と女の話し合いしとんじゃろがい!!」
ガッ!と言ったら細王子はだまった。
「お、王子は話しかけていいって言ってくれました!」
「ほうか。で、ワイは言うたか?他の貴族は?」
「え」
「言うてないな」
「そ、そんなの、そんなのマンガじゃふつうだったし、話しかけなきゃ話が進まないじゃないですか!なんなんですか突然!いまはアナタが断罪されてるんですよ!」
「おん?」
マンガ言うたか。……ほお。この町娘も前世の記憶があるんかもな。
「まあええ。寝取ったんなら責任とって最期まで面倒みるんじゃろな」
「あ、当たり前です!私、卒業したら王子と結婚するんですからっ!」
「そ、そうだ、ティアは僕と」
「よし!聞き届けた!」
「ひっ!」
ばん!と町娘の肩を両手で叩いた。
それからワイは周りをみて、廊下に集まってた学生たちにむけて声を上げた。
「ええか、おまんらも証人じゃ!町娘ティアは公爵家マルグレットから王子の愛を実力で奪い取った!王子もそれを良しとしてる!以上!!」
声帯に魔法をかけたから、この声は学校中に聞こえてるだろう。
「幸せを噛み締めよ」
唖然としているティアと王子に背を向けて腕を組んだ。
「よし、帰るか」
ワイのここでやることはないな。
婚約者たる王子を平民に奪われたワイが学校に通う理由はない。父親としても王子からの婚約破棄と、平民に負けた娘の嫁の貰い手の再考に頭を抱えるだろう。
よし、よしよし。
ここからが正念場じゃな!
「まてっマルグレット!どこに行くんだ!」
細王子が聞いてくる。聞いてくるが近寄りはしてこない。ほんとうに気合のないやつじゃ。どこが好いとったのか思い出せん。
「強い奴に会いにいく」
ワイは蟄居するとかなんとか言って父親を言いくるめ、王都から離れた隣国で冒険者になっとった。
魔力に恵まれた体質に、前世の戦いの感覚。
それらをよくよく鍛錬して研ぎ澄ませたワイに敵はいなかった。
あっさりと超級冒険者に指定され、国の危機に依頼がきたりする。あ、ワイの国やなくていま住んどる国のな。出身国からも依頼がきたが、敵に塩をおくるワイではない。世紀末をなめすぎとる。
なんにせよ、金もざくざく入ってきよるから生活にゃ困らん。
「どうじゃヤス! このワイバーンのドレスはなかなか動きやすそうじゃのう!」
「は、はい!姐さんよくお似合いです! あとオレの名前はヤコブです!」
「うーむ。耐久性はあってもタックルしたときの攻撃力は物足りなさそうじゃな。もっとトゲがついた素材のがええか……」
「ぁ、あ、姐さんならもっとヒラヒラ〜ってした可愛い」
「よっしゃサラマンダー狩りにいくぞヤス!……おん?なにブツブツ言うとる」
「ひっ何でもないです!」
手下もできたしの!
ワイの世界がどうなったかは気になるが、どこにいようとやる事は変わらん。
「よっし、サラマンダー狩ったら手始めに国を獲りにいくか!」
ワイの覇道ははじまったばかりじゃけえのう!