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ストーム ブレイン インシピット  作者: 田中 祐斉
第一章
4/11

追跡

由美は亮治に電話をかけ続けていたが、コールはなるが誰も出ない。

悪態をつくと直接葵の自宅に向かうため、タクシーを捕まえようとワンボックスが出て行った大通りに出た。

必要が無い時は空車マークが渋滞を作り流しているのに、こういう時に限って実車、もしくは回送の車が通り過ぎるばかりだった。

十五分ほど経ってようやく空車のタクシーを掴まえる事が出来、運転手に急ぐよう怒鳴った。


葵の自宅に着くと、亮治とニコライが道場の掃除をしていた。

由美はタクシーから飛び出すと、亮治のホウキを掴み、目を涙ぐませて叫んだ、

「葵が……! 葵が誘拐されたの!」

亮治は取り乱す事も無く、しばし由美を見つめると、何かを思い浮かべるように視線を上に向け、また由美の目を見つめ、

「葵を拐ったのは、外国人ですか?」

亮治はむせび泣く由美に尋ねた。由美はコクリと頷いた。

「葵センセイが拐われたのですか? すぐに助けに行かねば!」

二人の会話を聞き、ホウキを持ったまま、ニコライが割って入ってきた。

由美は見たことの無い暑苦しい外国人が、亮治との会話を中断させたのに腹を立て、

「誰よアンタ? あ、分かった! 今朝葵にボコボコにされたロシア人でしょ?」

涙目をこすりながら言った。ニコライは両目を固く閉じると、

「私が葵センセイのSPとして一緒に行くべきでした!」

「葵にやられて、アンタ気絶していたんでしょ?」

由美に言われ、ニコライは肩をガックリ落としたが、すぐに気を取り直し亮治に提案した。

「亮治センセイ、早く葵センセイを助けに行きましょう。人質救出は我々部隊の専門です!」

由美は本当に暑苦しいロシア人だと思いながらも、どうやら日本語は分かるようなので、ニコライに尋ねた。

「あなた、何で、亮治おじさんと葵をセンセイって呼ぶの?」

亮治に会い、多少落ち着きを取り戻した由美が聞いた。

ニコライは、初対面の由美の両肩を揺らし、叫んだ。

「私はここで二人のシステマの達人に出会いました。これからの私の目標は一生懸命練習して、お二人のお相手が出来るぐらい腕を磨くことです。日本では人に物を教える人をセンセイと呼ぶと、向かいのお団子屋のおばさんが教えてくれました」


由美が呆れていると、亮治にまた質問された。

「葵を誘拐した外国人の国籍は分かるかな?」

「ロシア人よ。葵がお母さんと同じ喋り方だったって言ってた!」

由美の話しを聞いて亮治は顔を曇らせた。

「今頃になって何故……」

亮治は眉間にシワを寄せてつぶやいた。

「車のナンバーと特徴は覚えているかい?」

亮治は由美に尋ねた。由美は記憶力に関しては任せてと言い、ナンバーと車の特徴を亮治に教えた。


亮治はニコライに、部隊でハッキング技術を学んだかと尋ねた。

勿論、それも最高の成績ですと応えるニコライ。

二人を連れて、道場二階の自宅の一室である亮治の書斎へ入った。


何台ものコンピューターと、由美も見たこともない機械が山のように積み重なっている。

「葵はロシアの諜報員に誘拐されたと思う」

亮治はニコライに遣わせるパソコンをセッティングしながら言った。

「諜報員って、スパイ映画とかに出てくるあれ? でもなんでスパイが葵なんかを拐うの?」

亮治は一瞬手を止めたが、再びパソコンを操作しながら答えた。

「追々、お話します。まずは葵が何処に連れて行かれたか調べましょう」

パソコンのセッティングを終えた亮治は、今度はヘッドホンを取り出し、自身の左耳に当て、高さ五十センチほどの黒い機械を操作しだした。右手でダイヤルやスイッチをいじり始めた。


亮治は機材を調整しながら考えた。

「葵を誘拐した連中の目星は付くが、解せないのは白昼堂々、あれだけの聴衆がいる中で、葵を拐うほど手段を選ばない連中のやり方だ。公の場となれば自分たち自身も危うくなるというのに」

亮治は犯人たちがリスクを犯してまでも葵を拐った手口に、葵の無事を祈った。

「葵センセイを拐うとは、同じロシア人の恥だ!」

パソコンで道路のNシステムのデータベースにハッキングしながらニコライが吐き捨てた。

Nシステムは一般道や高速道路などに定点的に設置されており、車のナンバー等を蓄積している、ニコライはそのデータベースから犯人たちの足取りを調べようとしていたのだ。


十分ほどして、ニコライが葵を乗せた車が東京湾の危険貨物専用湾内に向かったと調べあげた。

亮治は良くやったと良い、今晩東京湾から出向するウラジオストク行きの貨物船を調べるよう指示し、自身は無線傍受を行っていた。

由美はどうか無事連れ戻せるよう両手を握りしめて、目を閉じて祈った。


ニコライが対象船舶は一隻のみ、今晩九時出向予定と調べあげた。

亮治は依然ヘッドホンを耳に当て続けている。

由美は亮治に行き先が分かったなら早く出かけようと急かすが、返答せずヘッドホンに聞き入っている。

十分ほどして、ヘッドホンを置くと、では準備をして葵を返して貰いにいきましょう。


 *


高速道路を走る宅配業者のワンボックス内では、葵を乗せたロシア人二人組みの一人が運転し、もう一人は荷台に横たわった葵の両腕を背中側で縛り、両足を縛りあげ、厚手の布でさるぐつわを固くしめた。

「被験者確保の連絡を入れておこう」

荷台の男が運転手に向かって言った。

運転手はチラリと後ろを向くと、無言で頷いた。

荷台の男がスマートフォンを取り出すと電話をかけた。

「被験者を確保。現在ハイウェイでポイントデルタへ向かっています」

電話の向こうからは一言「了解」と返答があっただけだった。

荷台の男は更に続け、

「目撃者無しでの確保が不可能だったため、プランBに変更。処置願います」

言い終わると、電話の相手は無言で通話を切った。

「何か指示はあったか?」

ドライバーの男が尋ねた。

「指示はない、万事順調だ。しかし日本の電話の質は悪いな。ノイズが入る」

荷台の男は気づかなかった。ノイズの原因が、亮治がヘッドホンで傍受した事によるものだという事を。

亮治はニコライが調べたNシステムの通過地点周辺の電話基地局の通話から、膨大な通話を一度に傍受していた。しかし、その中でロシア語で会話する通話は殆ど無いに等しい。

亮治は膨大な会話の中から見事に誘拐犯の通話傍受をやってのけたのだった。


亮治の車で、ニコライ、由美が船着場へ向かっていた。

出発の際、亮治は由美が来る事を頑なに許さなかったが、由美の方も着いて行くと頑なに譲らなかった。

しかたなく、ニコライが由美の安全を再優先し護衛に徹する事、自分が単身、葵奪還を行うという事で渋々承知したのだった。


八時二十分、東京湾外国船向け、危険物取り扱い貨物船舶の岸壁に到着した。

危険物輸出入用船着場のため、高い金網がぐるりと取り囲んでおり、一般人立ち入り禁止区域というプレートが金網いたるところに取り付けられていた。


亮治は自宅から持ってきた金切りバサミで、侵入口を作っていると、由美が尋ねた。

「ねぇ、相手は鉄砲を持っていたけど、私たちも何かそういう武器とか持って来たんですか?」

亮治は金切りバサミで入口を作りながら答えた。

「日本では“銃刀法”に違反すると、罰せられますからね。そういう類の武器は無いですよ」

あっけにとられる由美を尻目に亮治とニコライは軍人のブリーフィング同様に作戦内容の確認をしあった。

退役軍人とは言え、亮治は元中佐、ニコライは大尉。指示は亮治から与えられた。

「ニコライは由美さんを車に乗せて湾内に車で侵入し、出来るだけ船舶に近く、且つ敵に見つからない車の隠し場所を確保し、船内で動きがあるまで車内で待機。歩哨の警戒、及び車中の由美さんの安全の確保を命ずる」

現役を退いて十年以上経っているが、中佐の威厳は衰えておらず、ニコライ大尉は思わず直属の上官同様に敬礼して下令に答えた。


「私は貨物船に潜入し、葵を奪還する。相手に見つからないように慎重に侵入するが、万が一相手に察知されれば、容赦なく発砲してくるだろう、そうすれば私だけでなく、君たちの身も危険に晒す事になる。その場合はすぐ車に乗り込み、この場を離脱して下さい」

ニコライは中佐を見捨てて逃げることなど出来ないと反論した。

「君たちをこの件に巻き込みたくないのです。これは命令です」

ニコライは黙って亮治の目を見つめていた。


亮治は金網をくぐると、出来るだけ腰を低くし、物陰から物陰へ移動し、暗闇に消えて言った。

「亮治おじさん、大丈夫かなぁ……」

泣きそうな声で由美がつぶやくと、ニコライが口元を上げて笑顔で言った。

「葵センセイのセンセイである亮治中佐ならダイジョウブです」

しかし亮治の消えていった暗闇を見た後、船舶に目を向けると、甲板に数名の警護が見えた。するとニコライは唐突に由美に尋ねた

「由美さん、車運転できますか?」

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