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ストーム ブレイン インシピット  作者: 田中 祐斉
プロローグ
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プロローグ

深夜四時、日中は人だかりで喧騒の絶えない東条大学付属病院の廊下は、廃墟の如く鎮まりかえり、男の歩く足音がその静寂さをより際立たせていた。

男は急いでいる様子はなく、コツコツと響く足音は、当てもなく彷徨うように重く、ゆっくりとした足取りだった。


十字型に建てられた十五階建ての病院は日当たりの良い両翼南側は入院患者棟、西側は外来患者やレントゲン室など検査関連棟、北側はオペ室や救急搬送棟で分かれており、病床数の多さ、医療技術の高さは都内でも指折りの大病院であった。


男は院内中央にある円形のサービスカウンターまで来ると北側に向かって歩いて行った。十字中央にある一般者用エレベーターには乗らず、そこから更に奥に進み、突き当りのスタッフ専用扉を開き、医療器具や文房具の棚、ダンボールの積まれた廊下をぬって歩いて行くと、突き当りのスタッフ専用エレベーターの上りボタンを押した。エレベーターは直ぐに開き、最上階の十五階を押した。

エレベーターの上昇音を聞きながら、目を閉じて到着を待った。音声案内が十五階を告げると、エレベーターを降りフロアに出た。そこは医療スタッフ専用の会議室フロアだった。最大五十人が収容可能な大会議室から、中小様々な会議室のあるフロアはエレベーターを背にまっすぐ廊下が伸び、左右に会議室の扉が並んでいる。

男は会議室の扉には目もくれず、更に廊下の奥へと歩みを進めた。


突き当り右側に“非常階段”と書かれた鉄扉をくぐると、更に階上へと鉄階段を上がって行った。

院の最も上階、屋上へ出る扉を開くと、外気の乾いた冷たい空気が吹き込んで来た。

今年は寒期が早く訪れ、十二月だというのに二月並の気温が続いていた。しかし、その刺すような強い北風も、今の男には震えすら起こさせなかった。


男は屋上を囲む一メートルほどの柵を越え、四十センチほどの縁に降り立った。

白衣姿で右手には一枚の紙切れを持ち、数百メートル先にまだ明かりの灯るオフィス街の煌めきを暫く眺めた。


もしその場に男の素性を知らない者が居て、彼の表情を見たならば、その憂いと後悔、悲しみを全て含めた顔を見て、その理由を聞かずにはいられなかったに違いない。


やおら男は紙切れを持つ手を前に突き出し、指を離した。

紙切れは強風に乱舞され、上空を舞い上がったり、下降したりしながら、あっという間に暗闇の中に吸い込まれていった。

ほぼ同時に白い布、白衣がはためいた。

男の身体は強風に乱舞されることなく、ただ下降する風の抵抗だけを受けて暗闇の中を落ちていった。

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