エピローグ ~それでも火葬場は廻っている~
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「本日はお悔やみ申し上げます、担当の春田と申します」
「あのー死亡届を貰ってきたのですが、こちらをお渡ししたらいいのですか?」
「ええ、そうですね。後は私の方が火葬場で職員の方と手続きをさせて頂きますので、大丈夫ですよ」
妻が亡くなってから3時間後。病院で検査を受けて彼女を見送ることとなった。
老衰で亡くなったことは私としても本意だが、何しろ死亡に関しての手続きというものは慣れないもので、つい業者に甘えてしまう。
「では本日、お伝えした内容で通夜式を始めさせて頂きますが、よろしいですか?」
「ええ、それでお願いします」
彼は妻を担当してくれる春田俊介君、20代でまだ若いのにしっかりしている。彼になら安心して任せることができそうだ。
「ええと、私の方からお一つだけ質問してもいいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
「お客様の中に極道の方の知り合いとかはいませんよね?」
「え?」
「いえ、結構です。今の反応で承知しました。いきなりすいません、不躾な質問をして」
◆◆◆
妻の体が葬儀場のホールに到着すると、そこには業者が花祭壇を組んでいた。30代の男女のペアで身長差も随分とあるが、協力して作り上げている。
「宇藤君、センター見て」
「うす。もうちょい右ですね、そこ。そこでオッケーです」
「ありがと。ねえ、私はどう?」
「秋尾さんはいつも通り、ばっちり決まってます。ずれなしですっ!」
「そ、そう? もっといってくれてもいいんだよ?」
どうやらバカップルのようだ。葬儀会場でありながらも、彼らのように、どこか楽しそうに仕事をこなしていけるのはそれだけでプロといえるだろう。
「ひゃ、宇藤君。お、お客様来てる」
「ご、ご来店誠にありがとうございます。生花部担当の宇藤といいます」
「う、宇藤君。それ、挨拶違うから。そういうお店じゃないからっ」
◆◆◆
通夜の時間が来ると、20代とおぼしき美しい女性が袈裟を来て式場に入ってきた。
彼女の歌声のような読経を聞いていると、厳粛な場でも心地よく、心穏やかな気持ちになれる。
「菜月さん、今日もいい声でしたよ!」
「春君、そんなこと、いっても何も出ないからね!」
どうやらここにもバカップルがいたようだ。今の葬儀関係には若手が多いのかもしれない。
◆◆◆
次の日に告別式を終えると、妻の遺体は火葬炉の中に納まっていった。どうやら一時間後に、彼女の遺体は骨と変わるようだ。
「おじさん、まだこんな所にいたの? 定年したっていってたじゃない」
「うるせえ。新人に教えるためにボランティアで来てるんだよ。お前も早く戻らないと、誰が司会を進行するんだよ」
「いいじゃない、別にちょっと遅れたって。そんなにカリカリしていると、すぐにぽっくりイっちゃうよ」
「うるせえ、お前がさっさとイけっ」
口が悪い親子のようだ。また年を鑑みなければ兄妹のようにも見えてしまう。人の死に関わりながらも、冗談が言い合えるのはどこかほっこりしてしまう。
◆◆◆
ようやく妻の骨壺が完成し、葬儀を終える。
長いようで短い時間を終えてほっと一息つくと、担当の春田さんがお茶を持ってきてくれた。
「お疲れ様でした。これから49日、一周忌、三周忌と行事は続いていきます。それは、故人様との思い出を遡り、この世にいなくても、存在を感じ取ることができる大切なものです。もしよければ、また私の方で力になれることがあれば、なんなりといって下さい」
「ありがとう。では一つだけいいかな?」
「はい、どうぞ」
「この世に《《火葬場が廻っている限り》》、君達の仕事はなくならないのかね?」
「そういうことですねっ!」
春田君は笑顔で快活に答える。
「私はこの仕事に誇りを持っていますから、いつでもどなたでも対応していく所存です。
本日は当式場を選んで頂き、ありがとうございます。
《《またの機会は少ないでしょうが》》、再びお会いできることを心よりお待ちしております」




