55/74
第四章 焼逐梅 PART1
1.
……今でも、この手が覚えている。
寒さに震えていたはずの手が焼きつくされていく瞬間を、俺の左手と肌が覚えている。
……今でも、この手が覚えている。
寂しさに震えていたはずの《《娘の手》》が離れていく瞬間を、俺の燃え尽きた左半身が覚えている。
……死ぬべきなのは俺のはずだった。救助する側が救助されるなんて、俺は一体どこに向かえばいい?
麻里の幼い鳴き声と手のぬくもりが今でも心の中で燻ぶり続ける。助けることができたはずの命が一瞬にして消えていく絶望に、俺の心は燃え尽きた。
だからこそ火消しという職業を続けることができずに、第2のステージを選ぶ他なかった。
……俺は薪だ。梅雪の最期を締めるためだけに命を燃やしている死にぞこないだ。
《《元妻》》への懺悔を込めて続けてきた火葬技師として20年。火と共に歩んできた俺の仕事は定年を迎え、この贖罪と懺悔もようやく終幕を迎える。
……長かった冬も、もう終わろうとしている。あともう少しの辛抱だ。
焼逐梅として、変わり果てた彼女を夢見ながら、今日も俺は彼女の見舞いに行く。
願わくば、同じ火で燃えることを望みながら――。




