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長編お仕事小説 『それでも、火葬場は廻っている』  作者: くさなぎそうし
第三章 紅葉綾灰(こうようりょうばい) 花屋 秋尾 朱優(あきおしゅう)編
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第三章 紅葉綾灰 PART5

  5.


「ど、どうしたの? 春田君」


 社長が目を大きく開けて彼を見る。


「実はですね、打ち合わせ先で話をしていたら、兄貴が前働いていた社長さんに顔を合わせてしまいまして……」


 春田君の話をまとめれば、何でも社長さんの知り合いの芸能関係者が亡くなり、骨葬でのお別れ会をすることになったそうだ。


「それで金額が……1200万円にまで膨らんでしまいまして……」


「えええっ!?」


「場所は茨城の鹿島ホテルという所みたいです。どうしましょう、こんな大きな仕事を頂けるのは嬉しいのですが……僕一人でできるわけがないですし……」


「なるほど……」


 村岡社長も固まっている。仕事を引き受けたら、きっとその間の葬儀が対応できなくなってしまうからだろう。地元を大事にしているからこそ、一言で判断できかねない案件だ。



「いいよ、僕も力を貸すから一緒にやっていこう」



 ……えっ?


 彼の決断に宇藤君と目を合わせる。日にちも聞いていないのに、即決とは無謀だとしか思えない。


 とてもじゃないが、東京典礼さんが余裕でできる規模ではない。


「打ち合わせお疲れ様、とりあえず会社に戻っていいよ。今日の打ち合わせをまとめておいて」


「はい、それでは失礼します……」


 春田君は顔を青ざめたまま、席を離れていく。それはそうだろう、そんな破格の仕事、一年も満たない新人ができるはずがない。


「よし、ここも後はお客さんが来るだけだね」


「そ、そうですね」


 頷くと、社長が手を合わせて相談を持ち掛けてきた。


「ところでさ、さっきの案件だけど……仮にもし、うちでやることになったら秋尾ちゃんの所で施工頼める?」


「大丈夫だと思います。うちは人が多いですから、出張でも大丈夫だと思いますよ。私共が行くかどうかはまだわかりませんが……」


 花屋としても一部上場で名を載せている企業だ。各支社と連携を取れば、できる内容ではある。


「もしかして……本当に春田君にやらせるつもりですか?」


「ああ、そうだよ」


 社長は何の迷いもなくいう。


「彼にとってはいい試練になるだろう。それにお兄さんが関連しているのであれば、やらせない訳にはいかないよ」



 ……凄いな、この人は。



 思わず息を呑む。新入社員の心を汲んだだけでこの仕事を決めてしまったのだ。彼の心意気に絶句する。



 ……だけど、春田君にはそれくらい必要なのかもしれない。



 新人の春田俊介君は3年前にお兄さんを失って、悲しみに暮れながら絶望の淵にいた。お兄さんが死んだ本当の理由を探すために葬儀社に就職したのだ。

 

 今回の仕事を成功させれば、きっと彼の真相に一つ、近づけるだろう。


「金額はいつもより必ず多めに払うことを約束するよ。人手も必要だから、その分、出さないとね」


「でも社長、そうすれば利益は……」


 私が言う前に彼は首を振った。


「利益よりも成功させることが必要だ。現地に行く人も集めなければならないし、問題は山積みだからね。きっと僕はこっちで待機することになる。だから春田君を……頼むね」


「「はいっ」」


 思わず了承の返事をしてしまう。自分たちが行くかどうかも決まっていないのに、社長の言葉には自分が行かなければならないと覚悟を決めさせられる。



 ……大変な所に就職してしまったね、春田君も。



 思わず彼に同情してしまう。村岡社長がいる会社にいるなら成長するしかない。彼にはもう挫折を味わう時間すら残されていないようだ。


「うん、よろしく頼むね。秋尾ちゃんと宇藤君になら任せられるよ」

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