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長編お仕事小説 『それでも、火葬場は廻っている』  作者: くさなぎそうし
第二章 一蓮託唱(いちれんたくしょう 住職 夏川 菜月(なつかわ なつき)編
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第二章 一蓮託唱 PART4

  4.



「えっ!? おばあちゃんが?」


 先ほどまで元気よく会話していたのに、そんなことがあるわけない。


「……どういうことなの? おじいちゃん」


「源の奥さん、心臓が弱かったらしくてね。突然発作がきたらしい、それで病院に搬送される途中で亡くなったそうだ。だから明日、この寺で通夜をしたいとのことだ」


 ……持病があったなんて知らなかった。


 肩が凝るという話は聞いたことがあったが、心臓の話なんて聞いていない。冬の寒い時期に動くのは辛い、それだけだった。


「息子さん夫婦が帰ってきた時には意識がなかったらしい……残念だが、仕方がない。我々で弔おう」


「…………そ、そんな」



……意味がわからない。



花火の轟音に意識が掻き消されていく。おばあちゃんが亡くなる訳がない。おばあちゃんは法事の間、部屋を涼しくしてくれて私を待っていてくれるのだ。


美味しい西瓜をたくさん冷やしてくれながら――。


「ナツ、仕事だ。明日、お前が読経を唱えなければならない」


「……嘘でしょ、おじいちゃん」


「こんな嘘をつける訳がない、明日はお前がしずかの代わりに通夜に出るんだ」


「……でも、おばあちゃんは……」



「菜月ッ」



 祖父に肩を掴まれながら目が合う。だが何と答えていいかわからない。


「源さんにお世話になったんだろう? ならお前は自分の使命を果たさなければならない。これはお前の《《仕事》》なんだ。お前が選んだ道だろう」


「ん、わかってる……」


 涙を堪え祖父の手を掴む。やせ細った彼の手がひどく強く感じる。


「……わかってるよ。私がやらないといけないことは……わかってる、わかってる……」



 ……仕方がない、残念だ、この言葉をいくつ聞いて納得していけばいいのだろう。



 心の中にうごめく闇が不意に訪れる。悔やみの言葉を聞く度に、心を一つずつ殺していく。自分の使命だと言い聞かせて、涙を見せずに強く、ただ無常なる鐘を打ち続けていく。


 

 これが《《大人》》になることだと繰り返しながら――。



「……すまない。怒鳴ってしまって」


「んーん、おじいちゃんの気持ちもわかるよ。だから謝らないで」


「源さんにはよくお世話になったからな。できることは全てやろう」


「……うん」


 おばあちゃんとの思い出が不意に蘇っていく。食べ物に困ることを嫌うおばあちゃんはいつも私達家族におすそ分けをしてくれた。


 春には筍料理を、夏には目いっぱいの素麺と西瓜を、秋には熱々のおでんを、冬には食べきれないお汁粉を振る舞ってくれた。残す分には構わない、足らないことを嫌い心配そうに食べる姿を見るおばあちゃんが瞳の裏に映る。


「……ねえ、私がもう少し遅くいけば間に合っていたの? 早く行ってしまったから、助からなかったの?」


「……それは儂にもわからん」


 祖父は拳をテーブルに叩きつけていった。


「もしかしたら、そんな未来があったのかもしれん。だが人はいつか必ず死ぬ。その場で死ななかったとしても、誰かを巻き込んで死んでいた可能性だってある」


「……でも」


「死者は蘇らない。今、お前がしないといけないことは何だ?」



「私が……しないといけないことは……」



 私の仕事は死者を弔うこと。滞りなくにあの世へ導くこと。



「故人様が……安らかに眠るお手伝いをすること」


「そうだ、それがお前の仕事だ。他の誰でもない、お前にしかできないことだ」


 祖父は再び私の手を握りながらいう。


「明日も法要が午前中から3軒ある。だから、それが終わってから帰って来い。こっちの準備はしておく」


「ああ、でも明日の夜は……生け花の稽古が……練習しなくちゃ……」


「ナツ、大丈夫だ」


 震える手を祖父が抑えてくれる。その手は熱く暖かく、芯まで届いていく。


「明日は法要を終えて、源のおばあちゃんの通夜を弔うこと。それだけでいい。できるか?」


「うん……」


 返事をしながら頭の中では混乱している自分がいる。


「よし……いい子だ」



……無意識のうちに返事をしてしまう自分が嫌いだ。



できることならやりたくない。だけど、ここで泣くだけで何もせず後悔する方がもっと嫌だ。あの時のような後悔をするくらいなら、この家から飛び出している。



そのために私は、この仕事に就いたのだから――。



「……やります。私が……私に……やらせて下さい、おじいちゃん」

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