研修初日 無職だった俺が内定を得た件
☆.
「はい、君、採用ね」
面接を受けて15分後、無職だった俺は内定を手に入れていた。
「え? マジっすか」
自己PRを話すまでもなく決まってしまい呆気に取られると、面接官である社長は笑顔で答えた。
「きちんと受け答えもできるし、真面目そうだからね。何よりそのスーツの色がいい」
……特別なことは何もしていないのだが。
俺が選んだのはただの安物のリクルートスーツだ。色は黒で、目立たないように髪の毛も短髪にしてきた。
たったそれだけで合格とは、しかも目の前で採用されるなんて思いもしなかった。
「さっそくだけど、忙しいんだ。研修という形で来てくれるかい?」
「わかりましたっ! ですが、この恰好でいいのでしょうか」
「ああ。ネクタイだけ、これを使って貰ってもいい?」
社長から受け取ったネクタイは柄のない黒。いきなり手渡され締め直すと、社長は明るく笑った。
「よし、似合ってるね。じゃあ現場に行きながらうちを紹介しよう」
社長の後を追い、事務所を後にする。ホールの名は東京典礼。葬儀場だ。つまり俺の仕事は今日から《《葬儀屋》》になる。
「福利厚生社会保証完備、週休二日制、休日出勤なし、アフター5は無理だけど残業代有、有給あり、それと……」
高待遇がそれぞれ羅列されていく。
今まで内定を受けることができずに悶々としていたが、ついに正社員への道が開けたのだ。これでもう、親に国民健康保険を払って貰わずに済む。
これからは明るい生活が待っているのだと思っていたのに、どうしてこうなった――。
「おう、待ち侘びたぞ。はよ、中に入りんさい」
立派なお屋敷に入り顔つきの怖いお方の横を通る。そこには立派な桜の入れ墨をしたお方が眠っていた。
「それでは……失礼致します」
社長の声を聴いてもぴんと来ない、俺はどうしてここに来たんだろう。
ああ、そうだ。
俺の名前は、春田俊介。今日が葬儀屋として初の出勤日なのだ。
その《《初日の研修》》でここに来たのだが、ヤバすぎるでしょ……。
「兄ちゃん、ネクタイが曲がっとるで? しっかりせえよ、親父の最期やからな。気合入れてやらんとケガすることになるで?」
「す、すいませんっ」
《《お指の数が少ない》》お方にネクタイを勢いよく絞められ、意識まで遠のいていく。
……ああ、神様。
仏教徒である身でありながらも、胸の前で十字を切る。もしかして俺は超絶《《ブラック》》な会社に入ってしまったんでしょうか?
今日からキリシタンになりますから……どうか《《正社員》》になるまでは……どうか、命だけは助けて下さいっ!!