研修二日目 プロローグ ~葬儀屋に就職したと思ったら、極道の組長に就任していた件について~
……一体どうして、こうなった。
頭を抱えながら斎場のエレベーターに乗り込み3階のボタンを押す。そこには偉大だった組長の棺が桜紋と共に眠っている。
エレベーターのドアが開くと、大勢の組員が俺に頭を下げていく。
「新組長、お勤めご苦労様です!」
「ああ、は、はい。み、皆さん、お疲れ様ですね」
裏返った声が宙を飛ぶ。
だってそうだろう、《《3年間ほとんど引きこもりだった》》俺がまともに会話などできるはずがない。
だが女将を始め、組員は姿勢を正したまま、俺を座席へと誘導していく。
……あれれ、おかしいな。昨日までは俺が案内していたんだけどなぁ。
途方に暮れながらも、花屋の秋尾さんと宇藤さんと目が合うと、彼らもまた俺を客とみなし丁寧にお辞儀をしていた。
もちろんその対応で間違いない。昨日までは黒のスーツだったのに対し、今は《《桜紋の袴を着ているのだ》》。誰が見ても俺は客人で間違いないだろう。
……昨日は新人で頑張りますと挨拶していたはずなのに、すでにもう立場が逆転して、本当にすいません。
彼らに対して心の中で謝る。状況を理解できないはずなのに、自然に対応してくれる彼らには頭が上がらない。
……こんな姿、夏川さんには見られたくないなぁ。
着袴を見て思う。できることなら彼女とは顔を合わせたくない。だが《《彼女の読経を特等席で聴くため》》にここに来たのだ。もう賽は投げられている、逃げることはできない。
再びエレベーターに灯りが点くと、そこには昨日と変わらず美しい夏川菜月さんが袈裟を着て佇んでいた。
……ああ、いっそこのまま俺を浄化して下さい。
故人への読経ではなく、自分に対して唱えて欲しい。このまま棺に潜って、俺の体も火葬炉で燃やしてくれないだろうか。そうすれば、亡くなった兄貴だって笑ってくれるに違いない。
……愚痴をいっても仕方ない。やることだけきちんとやって、散ろう。
目の前に飾られた生花祭壇の桜を見て決意する。どうせ葬儀屋としても働くことは叶わないだろう。
《《2日目の研修》》にしてクビ、逆に箔がついたような気分だ。
……派手にやって、次に行こう。この世に仕事なんて、いくらでもあるのだから。
一つだけ心残りがあるのは俺を雇ってくれた社長に対してだ。昨日あれだけ俺に尽くしてくれて裏切ることになってしまった。来世でまた会えることを願うしかない。
……すいません、社長。
《《短すぎる間でしたけど》》、お世話になりました!!