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自業自得

『許さない! あなた達を絶対に許さない! 返しなさいよ! 美弥子を、返しなさいよ!』


 あの時の自分の威勢はどこに行ったのだろう。すっかり死に絶えてしまった、あの頃の気持ち。それは、死に絶えたのか、殺されたのか。


 事件が起きた当初、私は狂乱した。娘が何者かに殴られ、意識不明の重体。

 何が起きてしまったのか、何かの間違いではないのか。だが、病室のベッドで眠る顔は紛れもなく美弥子だった。


 真相はすぐに明らかになった。美弥子と級友である、みきこという女生徒の犯行である事。

 許さない。絶対に許さない。

 被害者と加害者という関係上、勝手な接近は禁じられていた。だがおさまりはきかなかった。収容されているみきこには会えなくても、彼女の母親に一言言わずにはいられなかった。


「みきこの母親ってあなた?」


 外で待ち伏せして、彼女に話しかけた。

 みきこの母親は、犯罪とは無縁そうな穏やかな空気をまとっていた。それが逆に癪に障った。まるで自分たちは罪など犯していないと言っているようで。


 気づけば、私は喚いていた。

 返せ。娘を返せ。このまま娘が死ぬことがあれば、絶対に許さないと。

 しかし私がいくら喚いても、彼女は怯みもしなかった。それどころか、


「自分の娘の行為を棚にあげて、よく言えましたね。あなたの娘さんが、私のみきこにした事を知らないわけではないでしょう?」


 怯んだのは私の方だった。

 事件の結果だけで言えば、娘は被害者で、加害者はみきこだった。だが、事件の全容が明らかになった時、その原因が娘にある事を知った。

 馬鹿な。あんなにやさしい子がそんな事をするわけがない。だが、警察の捜査で内容に偽りがない事も明らかにされた。それは、みきこの体にもしっかりと証拠として残っていた。その内容は、聞くに堪えない惨たらしいものもあった。


「娘がどれだけ苦しかったか、辛かったか。あなたにわかる? 心も身体もボロボロにされて、楽しいはずの学校にも行けなくなった。部屋に引きこもって泣く娘の姿がどれだけ痛々しかったか。それでも、それでも娘は恨まなかった。あなたの娘を。それどころか、救おうとしたのよ」


『目を覚まして欲しかったんです』

 

聴取の中で、みきこはそう言ったそうだ。馬鹿げている。そんな訳があるか。殺そうとしたに決まっている。

 だがそう思った瞬間に、じゃあなぜ殺されなければならなかったという点に立ち返らざるをえなくなる。そしてそこには、娘の罪という覆りようのない事実があるだけなのだ。


「娘はこれから世間を離れなくてはならない。あの子が悪い事など一つもないのに、あの子は失ってばかり。それに比べて、あなた達は何を失ったの? 自業自得でしょ? そのまま誰も傷つけずに、ずっと寝ている方が世間の為だと私は思いますけどね。責めたてられる謂れもないですし、むしろ娘の思い遣りに感謝してほしいぐらいですけどね」


 おかしい。彼女は絶対におかしな事を言っているのに。なのに、自分は何も言い返せなかった。引き金を引いたのは、どこまで行っても自分の娘なのだ。


 自業自得。

 それから私は、全てを諦めた。

 部屋で眠る、植物人間状態となってしまった美弥子の看病をする毎日をただ繰り返すだけ。

 もうこれでいい。

 これがあなたの罪なの。

 目を覚まして欲しいと思いながら、毎日をこうして過ごしていると、こうなって然るべきだったのではないかとすら思えてくる。

 せめて、このまま静かに終わってほしい。

 そう思っていたのに。彼女はまた現れた。


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