私の願い事
少女は、こんな噂を耳にした。
雨の日の放課後、音楽室にあるピアノを弾くと名もなき音楽家がやってきてその者の願いが叶うと。
少女はそんな話は根も葉もないうわさ話だと友人の前では笑った。だが……
「なんでも叶うのよね……」
少女は音楽室へ来ていた。そう彼女は恋をしていたのだ。ずっと胸に秘めた夢。妙竹林なちっこい男子とは正反対の長身で美形な同級生……涼に対する恋心を。
少女は戸に手を掛ける。鍵は開いているようだ。暗く静まり湿った音楽室は少女を不快な心地にさせる。
少女は、ピアノに手を掛けた。少女が唯一弾ける曲猫ふんじゃったを奏でる。
しかし、何も起こらない。
「やっぱり嘘か。曲が悪いのかなぁ……。」
するとガシャーンと後ろの音楽準備室から何かが崩れ落ちる音が鳴る。少女は驚き思わず振り返る。
「だ、誰かいるの」
すると音楽準備室から少年の声色高い声が聞こえた。
「あいったたた。だれだ。この吾輩の儀式の途中で気の抜ける音楽を奏でたのは!」
「なんだ・・・・・・健か」
少女は呆れながらも安堵した。
「なんであんたこんな所にいるわけ?」
「何故だと?それは、もちろん儀式のためだ!」
「はいはい。いつもの病気ね……。」
少年は呪術ごっこの用具を片付ける。君の悪い虫や爬虫類、蝋燭等だ。
「なんか、いつにもましてキモイわね。」
「むぅ、キモイとはなんだ!?キモイとは。それに美稲殿こそ何故こんな処でピアノなど弾いていたのだ?」
「べっ、別に関係ないわよ」
少女は顔を赤らめた。別にほかの男子に見られるのなら仕方ないが、クラスでもアレと評判な健に見られたのが恥ずかしさに拍車をかける。
「ははぁ。成程あの噂につられたのだな?願いがあるならこの吾輩が聞いて進ぜよう。さぁ、願いを」
「うっさいばーか!」
少女は、少年を蹴り飛ばし音楽室の扉をぶっきらぼうに開け出ていった。
一通りの宿題を片付け、携帯電話を使った友達と和気藹々平々凡々時々女の子特有愚痴愚痴トークを済ませた少女は、ベットの中に軟着陸する。
「もう夜なんだからしずかにしなさーい」
そして少女の母に怒られた。
「はぁ……」
少女は外の景色を眺める。少女の住むこの町はとても都会とは言いずらい、はっきり言って何もない田舎町である。そのため、窓の外からはきらめく宝石のような星々が少女の瞳を輝かせる。
「結局あのバカに邪魔されるし、結局神……かどうかわからないけど願い事をするよりも自分で何とかするしかないよねぇ」
わかってはいる。だがしかし、理解したからとて行動できるものなどいるのだろうか。思い立ったが吉日とはいかないのだ。どこかにいる痛い同級生とは違って。
「しかし、あいついつもと比べて口調とかがやけに本格的だったなぁ。バカレベルが1段階上がったのかなぁ」
愛しのあの人の周りを彷徨く、あのお調子者のお邪魔ものがいなければ、あの人の隣は私なのに……そういった恨みが小さじ一杯程あり、少女は健のことが嫌いなのである。
(一部の同級生にはあの組み合わせが好かれているのが余計に気に食わない。愛しのあの人もあいつだけには何故かほかの人とは別の表情をするし……)
少女の中で複雑な心境が渦巻いていた。ふと星空の中に緑色に輝く明星を発見する。
「あれ、なんだろう」
その光は、徐々にこちらに近づいてくる。ぐんぐんとスピードを上げて。
「ひっ、」
思わずカーテンを閉め布団を被る。しばらくすると、バンとボールがぶつかる音が鳴る。
恐る恐るカーテンを開く。そこには、一体の鍵盤柄のネコのぬいぐるみがあった。
「・・・誰かのイタズラ?こんな夜中に。気持ち悪」
少女はカーテンを閉じ、ベットの中へと潜った。