プロローグ
「ハアッ!」
槍から放たれた凄まじい一撃が、怪物の身体を貫通し大きな地響きと共に地に伏した。
槍にこびりついた血を払い落とし、戦士はその槍を消滅させた。
全身を覆う漆黒の全武装纏った戦士は両手を上に組んで伸びをした。
「今日で最終日なんて未だに信じられないな…。」
空一面に広がる夜空を見上げながらぼそりと呟いた。
VRMMORPG、ファンタジア。
それは瞬く間に世界中に広まった。
プレイヤーは様々な種族のアバターを作成、最大10種類のクラスを設定し仮想世界を攻略するというものだ。
ダンジョンをソロで攻略するも良し、ゲーム内で知り合った他のプレイヤー達と徒党を組んで挑戦するも良し。
ギルドを立ち上げ、他のギルドに殴り込んでPKをしたり、ゆっくりと村人のように過ごしたりとにかく遊び方も自由だった。
僕はこのゲームが配信された当初から没頭し一日何時間もこれに費やしていた。
コミュ障気味な僕もゲーム内で知り合ったプレイヤー達とも仲良くなり、不思議とリアルでの生活も苦ではなくなった。
ある意味このゲームのおかげであるとも言える。
だが、常に同じものはこの世には存在することはない。
今日、ついに配信サービス最終日を迎えることになった。
これまでの暮らしに別れを告げるいい機会かもしれない。
明日からはまたいつもの日常が始まる。
配信終了の時刻までここにいよう。
この世界に別れを告げるために…。
転移魔法を使い、僕はかつての仲間達と作ったアジトに戻った。
純白の円卓に十数脚の椅子が並び、僕は端の玉座に腰掛けた。
この玉座はギルド長専用の椅子である。
僕はこのギルドのマスターである。
誰もいないギルドに一人佇み、思い出を振り返る。
見ず知らずの僕に積極的に話しかけてきてくれた仲間達。
一緒にバカ騒ぎしたり、ダンジョンをクリアしたりPKで陣地を奪ったり、無謀にも高レベルモンスターと戦って全滅しかけたり…。
それでも楽しかった。
だがその日々もこの日をもって終了する。
「さよなら…、僕の第二の青春…。」
僕は頭の中でカーソルを出現させてログアウトの項目を探した。
時間は23時59分。
もうすぐ終了する。
56、57、58、59…。
そして12時を迎えた…。